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- 長生きリスクに備える繰下げ制度の利用拡大に必要なことは?
コラム
2020年08月31日
平均的な寿命の延びが見込まれるなか、想定を超える長生きに対して如何に生活資金を確保するかは、個人・家計においてはもとより、社会全体の課題ともなっている。こうした中、長生きリスクへの対応策の一つとして注目されているのが、公的年金の繰下げ制度である。
公的年金の本来の受給開始年齢は65歳だが、受給開始時期を66歳から70歳に遅らせることもできる。この仕組みが繰下げ制度である。受給開始時期を繰り下げることで、年金額が1カ月あたり0.7%増額されるところに最大の特長がある。受給開始を5年遅らせて70歳から受給を始めると、年金額は42%(=0.7%×60カ月)も増額されることになる。
現在、70歳となっている繰下げ可能な上限年齢は、2022年4月以降、75歳に引き上げられる1。受給開始を75歳まで遅らせると、年金額は65歳時に受給を開始した場合に比べ84%(=0.7%×120カ月)増え、65歳受給開始時の年金額を100とすると184に増額されることになる。公的年金は終身年金であるため、増額された年金額を生涯にわたり受給できる。このため、繰下げ受給は長生きリスクをヘッジするという点で理にかなった制度と考えられている。
公的年金の本来の受給開始年齢は65歳だが、受給開始時期を66歳から70歳に遅らせることもできる。この仕組みが繰下げ制度である。受給開始時期を繰り下げることで、年金額が1カ月あたり0.7%増額されるところに最大の特長がある。受給開始を5年遅らせて70歳から受給を始めると、年金額は42%(=0.7%×60カ月)も増額されることになる。
現在、70歳となっている繰下げ可能な上限年齢は、2022年4月以降、75歳に引き上げられる1。受給開始を75歳まで遅らせると、年金額は65歳時に受給を開始した場合に比べ84%(=0.7%×120カ月)増え、65歳受給開始時の年金額を100とすると184に増額されることになる。公的年金は終身年金であるため、増額された年金額を生涯にわたり受給できる。このため、繰下げ受給は長生きリスクをヘッジするという点で理にかなった制度と考えられている。
![図表1 繰下げ受給の割合](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/65282_ext_15_1.jpg?v=1598850111)
ところが、繰下げ制度の利用は広がっていない。厚生労働省によれば、厚生年金の受給開始時期の選択を終了した2017年度末時点で70歳の受給権者のうち、繰下げ制度を利用した方の割合は僅か1.2%である(図表1)。国民年金(老齢厚生年金の受給者を除く)でも1.7%に留まっている。背景として様々な要因が考えられるが、根本的な要因として次の2つの可能性を指摘できる。
1つ目は、繰下げ受給の損得が強く意識されている可能性である。受給を繰下げると年金額は増額される。しかし、生涯にわたる年金受給総額で考えると、繰下げ後に受給を開始してから少なくとも12年が経たなければ、本来の受給開始年齢である65歳から受給を開始した場合に比べ、年金受給総額は多くならない。70歳に繰下げた場合、82歳まで生存することが前提となる。加給年金2などには繰下げによる増額が適用されないことや年金額が増えることで税や社会保険料負担がかさむことも踏まえると、手取りベースの年金受給総額をより多く受け取るには、12年よりも長い期間にわたり年金を受給する必要がある。このように、生涯にわたる損得で考えると、繰下げ受給は必ずしも有利とは言えず、そのことが繰下げ受給の利用を妨げている可能性がある。
![図表2 高齢者の暮らし向き(65~69歳)](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/65282_ext_15_2.jpg?v=1598850116)
繰下げ制度については、ねんきん定期便などを通じた周知の取り組みが進められており、今後、ある程度の利用増が予想される。しかし、利用低迷の要因として考えられる2つの可能性を踏まえると、繰下げ制度の本格的な利用拡大には、人生100年が自分のこととして捉えられ、長生きリスクに備えることの大切さが広く理解されること、更には、高齢期に向けた資産形成や高齢期の就労を促すことが必要だ。長生きへの備えが社会全体に広まるよう、高齢期の経済基盤の拡充に向けた、意識改革を含む更なる取り組みの推進に期待したい。
1 2022年4月1日以降に70歳に到達する方が対象
2 厚生年金における家族手当で、65歳以後に厚生年金を受給することとなったとき、その方に生計を維持される配偶者(65歳未満など)または子(18歳到達年度の末日までの間の子など)がいるときに加算される年金
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(2020年08月31日「研究員の眼」)
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03-3512-1849
経歴
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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