2022年05月09日

2021年47都道府県・人口移動解説(上)-コロナ禍の長期化で人口移動はどう変わったのか

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

3――2021年人口の社会増 7都府県ランキング

次に人口移動の総量が抑制される傾向のコロナ禍においても、人口の社会増(転入>転出)となった7エリアのランキングを示したい(図表2)。
【図表2】2021年 社会増(転入超過)都府県(エリア)ランキング(人)
2021年に社会増となったエリアは10エリアであった。東京都をとりまく通勤圏となる神奈川県、埼玉県、千葉県が、社会増ベスト3エリアである。

47都道府県間における人口の出入り(入替え)となるために、社会増エリアと社会減エリアとはミラーの関係となり、男性よりも女性が多く増加しているエリアが7エリアとなり、男性の1.36倍の女性が転入超過となっている。続編で分析結果を紹介するが、転入超過となった女性のメインが20代前半の若い女性であるため、これらのエリアではエリア内の出生率に関わらず、将来的に出生数が増加することも見込まれる3

東京都は女性のみで6千人超の人口増加となっている。東京一極集中が女性に傾斜していることを筆者は主張してきたが、コロナ禍においてもむしろ強調される形で同様の結果となった。

群馬県は、コロナ禍が継続するなかで男性は転入超過に転じたものの、女性に関しては引き続き転出超過となっている。茨城県では、男女ともに転入超過であるものの、女性増加数は極めて少ない。北関東は歴史的に男性よりも女性の転出超過数が多いエリアであり、筆者は少子化対策の調査研究で結婚支援団体との交流が多いが、20代男性の婚活難が顕著と言われるエリアである。エリア内での少子化を加速化させる未婚化の背景には、若い男女人口のアンバランスがあるのではないかと、結婚支援の現場でささやかれている実態を認識したい。
 
最後に社会増の10エリアを俯瞰すると、東京都では前年比で社会増の水準は大きく低下したが、東京都をとりまく通勤エリアである神奈川県、埼玉県、千葉県、そして東京都への通勤は遠いものの無理ではない北関東(茨城県、群馬県)が対前年でみると増加している。コロナ禍の継続で、
 
(1)首都圏一極集中
(2)関東圏への社会増の滲み出し動向
 
が浮かび上がってきている。そこで次回は、より広域圏でみた2021年の人口の移動について解説を行いたい。
 
3 女性の数が2倍になれば、1人当たりの出生数(率)が半減しても、出生数は維持される(エリア人口において少子化しない)ことに注意したい。また未婚女性が多く転出超過するエリアでは、既婚女性の割合が高くなることによって自動的に合計特殊出生率が上昇してしまう。適齢期女性の人流がある中では、「合計特殊出生率の自治体間比較」が少子化度合いの高低を語る指標にならないことを理解しない報道や施策が横行しているため、特に注意喚起しておきたい。

【参考文献一覧】
 
総務省. 「国勢調査」
 
厚生労働省.「人口動態統計」
 
総務省. 「住民基本台帳移動報告」
 
東京都. 「住民基本台帳移動報告」
 
天野 馨南子.“統計データに基づいた有意性の高い少子化政策策定のために―少子化の真因必携データと立ち上がる地方の自治体結婚支援” 2021年8月20日「第2回少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」提出資料
 
天野 馨南子.“1970年から2020年の半世紀でみる出生数減少率・都道府県ランキング-ニッポンの人口動態を正確に知る(1) ”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2021年10月18日号
 
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(上)” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月3日号
 
天野 馨南子.“人口動態データ解説-東京一極集中の「本当の姿」(下)-なぜ「子育て世帯誘致」では奏功しないのか” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2020年8月17日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年6月10日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年7月16日号
 
天野 馨南子.“人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(下)-女性人口を東京へ一体なにが引き寄せるのか” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年11月11日号
 
天野 馨南子.“強まる東京一極集中(総数編)社会純減2019都道府県ランキング分析-最新純減ランキングにみる新たな動向-” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年4月13日号
 
天野 馨南子.“令和元年2019人口動態データ分析-強まる東京「女性」一極集中(1)~追い上げをみせる大阪府、愛知県は社会減エリアへ” ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年2月25日号
 
天野 馨南子. “強まる「女性」東京一極集中(2)~転出男女アンバランス 都道府県ランキング-高まる地方男性の未婚化環境-”ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2020年3月9日号
 
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
 
天野 馨南子.“データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-” ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2022年05月09日「基礎研レポート」)

関連レポート

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【2021年47都道府県・人口移動解説(上)-コロナ禍の長期化で人口移動はどう変わったのか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

2021年47都道府県・人口移動解説(上)-コロナ禍の長期化で人口移動はどう変わったのかのレポート Topへ