2022年03月30日

外国人就労政策の行方~特定技能の受入れ拡大を巡る議論~

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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5――見直しを巡る論点

特定技能制度については、政府の裁量による部分が大きく、対象分野や技能試験の実施方法、年間の受け入れ人数などの決定は政府に委ねられる。従って、特定技能「2号」の対象業種拡大も、関係閣僚会議で分野別運用方針の見直しが行われたあと、省令や告示の改正をもって対応が進んでいくと見られる。その意味で今後の行方は、政府・与党内の議論がカギを握っていると言える。

なお、今般の見直しの方向性については、過去の経緯からみれば驚きは少ない。例えば、1993年に創設された技能実習制度は、在留期間が研修と技能実習を合わせて最長2年とされていたが、1997年に最長3年に延長され、2017年の技能実習法2 改正を経て、最長5年に延長されている。また、対象職種についても、1993年の17職種から1999年には55職種に拡大し、累次の追加を経て、現在では85職種156作業3まで拡大している。特定技能の創設目的が、人手不足分野における即戦力たる外国人材の受入れにあり、人口減少で働き手の減少が進む現状を踏まえれば、対象業種の拡大が検討されること自体は、ある程度予想された展開と言える。

ただ、今般の業種拡大は、永住権の獲得にもつながる特定技能「2号」だという点が、これまでとは大きく異なる。技能実習は、建前はどうあれ短期的に労働者を受入れてきた制度であるが、特定技能「2号」は、長期的に外国人材を受入れていく制度であるということは、よく理解した方が良いだろう。

一方で、永住権の取得は、長期滞在するだけで認められるものではない。例えば、永住権の取得には、(1)素行が善良であること(入管法違反や犯罪行為のほか、軽微な道路交通法違反も繰り返すと素行不良と判断される場合もある)、(2)独立生計要件を満たすこと(保有資産や年収などから安定した生活が営めることを証明すること)、(3)国益適合要件を満たすこと(10年以上の在留かつ5年以上の就労、納税や出入国管理など届け出義務の履行、最長の在留資格の保有、公衆衛生上の観点から有害となる恐れがないこと、生活の基盤が日本にあること)などの要件を、すべて満たすことが求められる。特定技能「2号」では、これらのうち技能実習や特定技能「1号」では算入の認められていない、5年以上の就労という要件を満たせることから、永住権の取得につながると考えられる。

なお、外国人が永住権を取得すると、日本における無期限の滞在や、配偶者や子の帯同、職業選択の自由などが認められる(ただし、議論はあるものの、参政権は認められていない)。さらに、永住権の取得後に誕生した子には、永住者の配偶者等の資格が与えられて、特定技能「2号」取得者と同じく、職業選択の自由も認められる。
 
2 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律
3 2021年3月時点。

6――今後のポイント

6――今後のポイント

政府は、特定技能の制度見直しに向けて、早ければ来年2022年3月の正式決定を経て、省令などの改正に着手する意向とされる。しかし、それには国民の理解や共感を得ることが必要であり、説明力のある仕組みや制度を示すことが求められる。

なお、今般の特定技能「2号」の受入れ対象の拡大については、少子高齢化が進む日本の現状や、外国人材の獲得競争が激しくなる国際的な情勢を踏まえれば、妥当性が高い措置だと考えられる。

足元では、コロナ禍で需要が低迷しているとは言え、感染収束後には、宿泊や外食、航空サービスなどでも、需要の回復が期待される。また、特定技能「1号」の受入れ分野は、人手不足が深刻であった業種であり、需要が戻れば外国人材への需要も回復していくと見られる。さらに、国内の生産年齢人口は、少子高齢化による影響で長期的に減少していくことは避けられず、今後も一定程度、外国人材に頼ることは必要になると思われる。

また、少子高齢化は日本だけの問題ではなく、外国人労働者の主要な送り出し国である、中国やベトナム等でも着実に進行している。しかも、それらの国の成長力は日本よりも高く、所得環境の差も以前ほど大きくはない。日本が将来に渡って、必要とする人材を確保していくためには、外国人に魅力的に映る制度が必要となる。長く働くことのできる環境は、そのための重要な要素と言える。

さらに、日本に長く滞在し、何の問題もなく社会経済に貢献してきた人材は、日本にとって有用な存在でもある。そのような人材の貢献に報い、さらなる活躍を期待する意味でも、受入れ拡大に動くことは意義があるだろう。

一方で、永住権の取得にもつながる特定技能「2号」の拡大は、長期的に国の在り方にも影響を及ぼし得る点で、国内にも異論がある。その懸念を和らげ、国民の理解や納得感を高めていくためにも、その制度設計や運営方法については、しっかりと検討していくことが必要だろう。

例えば、特定技能「2号」の技能レベルは、比較的要件の緩い「1号」と異なり、現行の「専門的・技術的分野」の在留資格と同等か、それ以上に高い水準が求められる。これは、一般的なイメージとは若干異なる可能性があり、その点については国民の間に誤解が生じないよう、十分丁寧に説明していく必要はあると思われる。ただ、特定技能「2号」の移行試験については、2022年1月時点で、まだ「建設分野」「造船・舶用工業分野」のいずれでも実施されていない。実際に、どの程度の技術水準が求められるかは、今後の運営次第の面もあり、十分注意してみていく必要はあるだろう。

なお、特定技能「2号」への現実的な移行資格である特定技能「1号」については、少なくとも現状を振り返る必要はあると思われる。2019年からの5年間で、最大34.5万人を受け入れるとした数値は、コロナ禍以前の前提に基づいており、足元の経済や雇用状況を反映していない。また、労働力不足見込み数の内訳である、生産性や国内人材の確保状況についても確認が必要だろう。生産性の状況については、景気動向に左右される面もあり、短期的な変化に着目することにあまり意味はないが、分野別に置かれた前提に、妥当性があるかは検証していくべきだろう[図表5]。さらに、今般の見直しで、特定技能「1号」の対象分野が、そのまま特定技能「2号」の対象分野となり得ることが示された。その受入れの必要性や規模については、より精緻に検討していくことが求められる。
[図表5]受入れ見込み数の算出(2024 年度までの見通し)
足元では、外国人労働者の就労状況を、より細かく捉える統計の整備が検討されている4。このような統計の整備が進めば、現状では捉えることの難しい、年齢や学歴、雇用形態などに応じた、賃金や失業などの動向を把握することが可能となり、外国人材の受入れによる国内雇用や賃金、住宅価格などへの影響を、より正確に把握できるようになると期待される。将来的には、このような統計データを活用して、受け入れ規模をより柔軟に調整する仕組みの導入も、検討して行くべきだろう。

最後になるが、特定技能「2号」の受入れが拡大すれば、日本に長期滞在する外国人材は、今よりも増えて、共生社会の実現に向けた環境整備は、ますます重要になると考えられる。現状でも、外国人子女への教育が行き届かない面があり、十分に対応ができているとは言い難い。今後、日本で結婚し、国内で子育てを考える外国人が増えていけば、日本語指導が必要な子どもの数が増え、教員の不足はさらに深刻化する可能性が高く、自治体等の負担も増えることが予想される。今般の見直しでは、そのような共生政策の在り方についても、議論が深められることが期待される。
 
4 外国人の雇用・労働等に係る統計整備に関する研究会
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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2022年03月30日「ニッセイ景況アンケート」)

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