2022年03月23日

テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性

保険研究部 准主任研究員 岩﨑 敬子

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1――はじめに

コロナ禍のテレワークの拡大が生活時間の配分に変化をもたらしたことを実感する人は、多いのではないだろうか。本稿では、ニッセイ基礎研究所が行った独自のWEBアンケート調査をもとに、テレワークの拡大によって残業時間が増えた人の傾向と、時間的なゆとりを感じるようになった人の傾向を分析した結果を紹介する。結果を先取りしてお伝えすれば、テレワークを実施するようになった独身女性は残業時間が増え、テレワークを実施するようになった独身男性は時間のゆとりを感じるようになった人の割合が増えた傾向が確認された。

2――調査概要

2――調査概要

本分析には、ニッセイ基礎研究所が2019年と、2020年、2021年に行った独自のWEB アンケート調査のデータを用いた1。各アンケート調査の回答は、全国の 18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国 6 地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、 2015 年の国勢調査の分布に合わせて収集した。

2019年に実施した調査の回答の回収期間は、2019年3月で回答件数は6,201件、2020年に実施した調査の回答の回収期間は2020年2月~3月で、回答件数は6,485件、2021年に実施した調査の回答の回収期間は2021年2月~3月で、回答件数は 5,808 件である。2020年の調査では2019年の調査の回答者から優先的に回収し、2021年の調査では、2020年の調査の回答者から優先的に回収した。
 
1 2019年~2021年の「被用者の働き方と健康に関する調査」

3――テレワークによる残業時間の変化

3――テレワークによる残業時間の変化

1|ひと月あたりの残業時間の平均の変化
図1は、2020年の1月~2月時点から2021年の1月~2月時点にかけた、ひと月あたりの残業時間の平均時間の変化を、男女/独身既婚者/2021年2月時点での週1回以上のテレワークの有無別に示したものである。2020年から2021年の間でテレワークになった人とならなかった人を比較するため、2020年に週1日以上のテレワークを行っていた人は除外して推計した値を示している2

まず、独身男性、既婚男性、既婚女性については、テレワークの有無にかかわらず、2020年から2021年の間で、ひと月あたりの残業時間の平均値は低下していることがわかる。一方で、テレワークにならなかった独身女性の残業時間の平均値が低下したのに対して、テレワークになった独身女性の残業時間の平均値は高まった傾向が見られる。テレワークになった人の残業時間の変化のトレンドが、テレワークにならなかった場合には、テレワークにならなかった人と同じであると仮定すると、この結果は、テレワークによって、独身女性の残業時間が伸びた可能性を示唆する3
図1. ひと月あたりの残業時間の平均の変化
 
2 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020 (n=162, sd=25.54)、独身男性(テレワークになった)2021(n=225, sd=21.01)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020 (n=902, sd=24.75)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=1230, sd=24.36)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=314, sd=32.52)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=380, sd=23.36)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=1015, sd=33.28)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=1222, sd=29.20)、独身女性(テレワークになった)2020 (n=189, sd=14.67)、独身女性(テレワークになった)2021(n=245, sd=37.94)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020 (n=878, sd=18.10)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=1133, sd=15.29)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=n=83, sd=14.26)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=108, sd=20.24)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=439, sd=23.01)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=562, sd=15.28)。
3 平行トレンドの仮定。この仮定に基づき、差分の差分法のモデルで2020年と2021年のデータを使った分析でも、独身女性の間でテレワークが有意に残業時間を増やしている傾向が確認された。一方で、残業時間については、2019年の調査項目に含まれておらず、平行トレンドの仮定を確認できていない。よって、テレワークになった独身女性がもともとテレワークにならなかった独身女性とは異なるトレンドを持っていたり、他の要因によって、残業時間が増加した可能性は否定できないことに注意が必要である。
2|残業をした人の割合の変化
図1に示した残業時間の平均値は、残業を全くしなかった人(つまり残業時間が0の人)を含めて計算したものである。そのため、この図だけではテレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値が高まったのは、残業をする独身女性が増えたからなのか、残業時間が伸びたからなのかはわからない。そこでまず、残業をした人の割合の変化を確認したのが図2である4

図1では他のカテゴリーと異なる傾向を示していたテレワークになった独身女性についても、図2に示された残業をした人の割合については、他のカテゴリーと同じように2020年から2021年の間で低下していることがわかる。この結果は、テレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値の高まりが、残業を行うようになった人の割合の増加によるものではなく、残業をした人の間で残業時間が伸びたことによるものであることを示唆する。
図2. 残業をした人の割合の変化
 
4 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020 (n=162, sd=39.5)、独身男性(テレワークになった)2021(n=225, sd=43.6)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020 (n=902, sd=46.7)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=1230, sd=48.2)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=314, sd=38.1)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=380, sd=42.2)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=1015, sd=44.1)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=1222, sd=46.0)、独身女性(テレワークになった)2020 (n=189, sd=43.9)、独身女性(テレワークになった)2021(n=245, sd=48.2)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020 (n=878, sd=49.6)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=1133, sd=50.0)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=83, sd=49.5)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=108, sd=49.7)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=439, sd=50.0)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=562, sd=49.5)。
3|残業をひと月1時間以上した人の間でのひと月あたりの残業時間の平均の変化
テレワークをするようになった独身女性の残業時間の平均値の増加が、残業をした人の間で残業時間が伸びたことによるものであることを確認するために、残業時間が月1時間以上あった人に限って、2020年から2021年の間の残業時間の変化を確認したのが、図3である5

図3からは、独身男性と既婚男性の間では、テレワークになったかどうかにかかわらず、残業時間の平均値が下がっていることが確認できる。一方、独身女性と既婚女性の間では、テレワークにならなかった人の残業時間の平均値は低下した一方で、テレワークになった人の平均値は高まった。特に独身女性ではその傾向が顕著にみられる。より詳細な確認のために行った差分の差分法のモデルの推計では、残業をひと月に1時間以上行った独身女性の残業時間は、テレワークになると統計的に有意に長くなることが確認された。
図3. 残業をひと月1時間以上した人の間でのひと月あたりの残業時間の平均の変化
加えて、残業を月1時間以上行った独身女性について、テレワークになることで残業が増えることで、家事の時間や時間的なゆとりの感じ方に変化があるかどうかを確認した詳細分析を行った。この結果、テレワークで残業を行うようになった独身女性の残業時間は伸びているものの、家事・育児の時間や時間的なゆとりを感じる人が少なくなる傾向は確認されなかった。そのため、残業時間は家事・育児の時間や時間的なゆとりを削って配分されたものではなく、テレワークによって削減された通勤時間や身支度の時間が充てられている可能性が示唆される。
 
5 それぞれのカテゴリーのサンプルサイズ(n)と標準偏差(sd)は以下の通り。
独身男性(テレワークになった)2020 (n=131, sd=26.5)、独身男性(テレワークになった)2021(n=168, sd=21.8)、 独身男性(テレワークにならなかった)2020 (n=613, sd=26.8)、独身男性(テレワークにならなかった)2021(n=778, sd=27.2)、既婚男性(テレワークになった)2020(n=259, sd=36.1)、既婚男性(テレワークになった)2021(n=292, sd=23.6)、既婚男性(テレワークにならなかった)2020(n=748, sd=33.28)、既婚男性(テレワークにならなかった)2021(n=851, sd=31.7)、独身女性(テレワークになった)2020 (n=140, sd=15.2)、独身女性(テレワークになった)2021(n=156, sd=45.9)、 独身女性(テレワークにならなかった)2020 (n=495, sd=21.7)、独身女性(テレワークにならなかった)2021(n=548, sd=19.5)、既婚女性(テレワークになった)2020(n=49, sd=14.9)、既婚女性(テレワークになった)2021(n=62, sd=24.2)、既婚女性(テレワークにならなかった)2020(n=207, sd=31.5)、既婚女性(テレワークにならなかった)2021(n=240, sd=20.7)。
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保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子 (いわさき けいこ)

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴
  • 【職歴】
     2010年 株式会社 三井住友銀行
     2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
     2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
     2021年7月より現職

    【加入団体等】
     日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
     博士(国際貢献、東京大学)
     2022年 東北学院大学非常勤講師
     2020年 茨城大学非常勤講師

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