2022年03月09日

コロナ禍における人間関係の疎遠化と孤立・孤独

「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」より

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

新型コロナウイルス感染拡大後、外出自粛が呼びかけられ、新たな出会いや友人と会う時間、離れて暮らす家族に会う機会が減った。多くの飲食店で営業時間が短縮され、家族や友人と食事や飲酒しながら親睦を深めたり、ストレス解消したりする機会が減った。企業では在宅勤務、大学等ではオンライン授業の導入が増え、職場や学校の日常風景であった、傍にいる人との雑談、たわいのない会話さえ減ったという人も多いだろう。このような人間関係の疎遠化や、社会との関わりの制約が長期化すれば、個人の精神面に対するマイナスの影響が懸念される。

特に学生については、緊急事態宣言解除後に小中学校が登校を再開し、企業が在宅勤務を解除した後も、オンライン授業を継続した大学が多かった。また、新卒採用を中止・縮小したケースもあるため、学生生活だけでなく、卒業後にも大きな影響が及び、精神面のストレスも大きいと考えられる。

厚生労働省と警察庁の発表によると、2020年に自殺した人は21,081人となり、前年より912人増えた。女性の自殺者が増えたことが注目されているが、年代別でみると、最も増加幅が大きかったのは20歳代の2,521人だった(対前年比404人増加)。従って、特に若者の精神面への影響については、留意する必要があるだろう。もちろん、自殺の原因には健康問題や経済問題などが複合的に絡んでいると考えられるが、孤立や孤独を解消できれば、手前の段階で防止できる可能性もある。

まず本稿では、ニッセイ基礎研究所が昨年12月に実施したインターネット調査「第7回 新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の中から、コロナ禍における他人との交流機会の変化や、人間関係に関する不安、個人の孤独・孤立感について、特に若者に留意してみていきたい。 

なお、同調査における年代別と性別ごとのサンプル数は図表1の通りである1
図表1 回答者の属性別サンプル数
 
1 本調査のサンプルのうち学生は39人(20歳代38人、30歳代1人)である。

2――コロナ禍における人間関係の変化

2――コロナ禍における人間関係の変化

1|コロナ禍におけるコミュニケーションの減少
まず、コロナ禍における人間関係の変化についてみていきたい。

新型コロナの感染拡大前(2020年1月頃)と比べた「家族や友人との対面でのコミュニケーション」の変化について尋ねると、全体平均では「減少」が22.7%、「やや減少」が18.8%で、両方合わせた減少層は4割超となった(図表2)。年代別でみると、年代が高いほど減少層が多い傾向があり、70歳代では約6割に上った。感染した場合の重症化リスクの高い年代ほど、人と会うことを避ける傾向があるためだと考えられる。20歳代は、「減少」と「やや減少」を合わせた減少層が34.8%で、全体平均を約7ポイント下回り、逆に、「増加」と「やや増加」を合わせた増加層は21.9%で、全体平均を約11ポイント上った。
図表2 家族や友人との対面でのコミュニケーション
次に、「家族や友人との非対面でのコミュニケーション(メールやLINE、電話、ビデオ通話など)」の変化についてみると、全体平均では「増加」が6.6%、「やや増加」が18.4%で、両方合わせた増加層は4人に1人に上った(図表3)。年代別でみると、20歳代の増加層が最大の32.2%となった。
図表3 家族や友人との非対面でのコミュニケーションの変化
次に、「1人で過ごす時間」の変化についてみると、「増加」と「やや増加」を合わせた増加層が全体平均では27.6%だった(図表4)。年代別でみると、20歳代の増加層は全体平均を約8ポイント上回る35.1%だった。70歳代は、増加層が全体平均より15ポイント低い12.5%で、約8割が「変わらない」との回答だった。
図表4 一人で過ごす時間の変化
以上の結果をまとめると、コロナ禍によって、家族や友人と直接会ってコミュニケーションする機会が減少した人は計4割に上った。その代わりというように、4人に1人が、メールやLINEなどによる非対面コミュニケーションを増やしていた。一人で過ごす時間が増えた人も3割近くに上った。20歳代に焦点を当ててみると、対面コミュニケーションが減った人は、全体平均を下回ったものの、3人に1人の割合となった。非対面コミュニケーションが増えた割合と、1人で過ごす時間が増えた割合はともに全体平均より大きい3割超に上った。
2|コロナ禍における人間関係の不安
上記のように、4割超が人と会って話す機会が減り、3割近い人が、1人で過ごす時間が増えたという状況において、個人が人間関係にどのような不安を持っているかを尋ねたものが、次の設問である。

コロナ禍によって「新たな出会いが減ること」に対する不安を感じている割合は、全体平均では「非常に不安」が5.9%、「不安」が18.2 %で、両方合わせると、4人に1人が少なからず、不安を感じていることが分かった(図表5)。年代別でみると、若いほど不安を感じている人の割合が大きく、20歳代では「非常に不安」と回答したのは11.8%で、全体平均よりも約6ポイント高かった。
図表5 新たな出会いが減ることに対する不安
次に、「友人や知人との関係に距離ができること」に対する不安は、全体平均では「非常に不安」が7.6%、「不安」が24.2%で、両方合わせると3人に1人が不安を感じていることが分かった(図表6)。図表4と同様に、若い方が不安を抱えている割合が大きくなる傾向があり、20歳代では「非常に不安」と回答した割合が、全体平均を約6ポイント上回る13.1%だった。

1|で見たように、20歳代は、コロナ禍において対面コミュニケーションの減少層は他の年代に比べると少なく、非対面コミュニケーションの増加層は最も多かったが、それにも関わらず、新たな出会いが減ることへの不安や、友人や知人と距離ができることに対する不安を抱えている割合は、年代別では最も多いという結果になった。

20歳代は本来、学生であれば大学でのゼミやサークル活動、就職活動等で活動や交流の範囲を広げたり、社会人であれば、社内外の様々な人と出会って刺激を受けたりする時期であろう。中高年に比べると、人間関係を広げて、新しいことを吸収する機会が本来、多い年代だと言える。そのように人との出会いや交流を最も必要としている若者が、コロナ禍で対人関係を制限されたことで、不安が増していると考えられる。
図表6  友人や知人との関係に距離ができることへの不安
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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【コロナ禍における人間関係の疎遠化と孤立・孤独】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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