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- インド経済の見通し~変異株の流行とインフレリスクが先行きの景気下振れリスクに(2021年度+8.8%、2022年度+7.7%)
2022年03月04日
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経済概況:感染状況改善するも景気回復ペースが鈍化
2021年10-12月期の実質GDP成長率は同+5.4%となり、ベース効果の影響で押し上げられた前期の同+8.5%から低下した。新型コロナウイルスの感染拡大が抑えられて5期連続のプラス成長となったが、景気回復ペースの鈍化を意識する結果だった。Bloombergが集計した市場予想(同+5.9%)を下回った1(図表1)。

産業部門別に見ると、第一次産業は同+2.6%(前期:同+3.7%)と鈍化したが、コロナ禍でもプラス成長を続けている。
第二次産業は同+0.2%(前期:同+7.0%)と低下した。製造業が同+0.2(前期:同+5.6%)、電気・ガスが同+3.7%(前期:同+8.5%)、鉱業が同+8.8%(前期:同+14.2%)とそれぞれ伸びが鈍化したほか、建設業が同▲2.8%(前期:同+8.2%)と減少した。
第三次産業は同+8.2%増(前期:同+10.2%増)と堅調に拡大した。まず行政・国防が同+16.8%(前期:同+19.5%)と好調を維持した。また商業・ホテル・運輸・通信が同+6.1%(前期:同+9.5%)、金融・不動産が同+4.6%(前期:同+6.2%増)となり、それぞれ伸びが鈍化したものの、底堅い伸びを保った。
インドは新型コロナウイルスの感染拡大を背景に急速に景気が悪化、経済が停滞した2020年度の実質GDP成長率が前年度比▲6.8%と減少した。21年4-6月期はデルタ株による感染第2波が発生、国内各地では州独自の封鎖措置が敷かれたものの、前年同期に実施された全土封鎖の制限措置がより厳しい内容だったため、ベース効果の影響により成長率が同+20.3%に急上昇した。また7-9月期は感染第2波に伴う活動制限措置が緩和されたために経済活動にかかるブレーキが和らぎ、成長率は同+8.5%と高い伸びを保った。そして、10-12月期の成長率は同5.4%増と2期連続で減速した。
10-12月期の成長率低下は、今年度前半の成長率を押し上げていたベース効果の影響が薄れたことと、投資の鈍化による影響が大きいとみられる。感染第2波に伴う活動制限措置は6月から段階的に緩和されたが、インドの新型コロナ感染状況はワクチン接種の進展により年内まで感染状況の改善が続いた(図表3)。また祭事期の消費行動の活発化も追い風となり、Googleが提供するCOVID-19コミュニティモビリティレポートによると、小売・娯楽施設への人流は10~12月平均がコロナ前の約2%減となり、7~9月平均の約2割減から改善した(図表4)。このため民間消費は前期比では+14.5%と増加して回復したが、消費の勢いが強かった前年同期と比べると伸び率は7-9月期から鈍化する結果となった。
また総固定資本形成は小幅な増加(前年同期比+2.0%)に止まった。サプライチェーンの混乱と半導体不足などの供給制約や国際商品市況の高騰を受けて企業が設備投資を先送りしたほか、民間消費と同様に前年同期の総固定資本形成の水準が高かったため伸び悩んだと考えられる。
なお、実質GDPの水準をコロナ禍前の2019年10-12月期と比べると、民間消費が+7%、政府消費が+3%、総固定資本形成が+1%、輸出が+10%となっており、引き続き輸出が経済をけん引しているが、内需の回復も進んできていると言える。
10-12月期の成長率低下は、今年度前半の成長率を押し上げていたベース効果の影響が薄れたことと、投資の鈍化による影響が大きいとみられる。感染第2波に伴う活動制限措置は6月から段階的に緩和されたが、インドの新型コロナ感染状況はワクチン接種の進展により年内まで感染状況の改善が続いた(図表3)。また祭事期の消費行動の活発化も追い風となり、Googleが提供するCOVID-19コミュニティモビリティレポートによると、小売・娯楽施設への人流は10~12月平均がコロナ前の約2%減となり、7~9月平均の約2割減から改善した(図表4)。このため民間消費は前期比では+14.5%と増加して回復したが、消費の勢いが強かった前年同期と比べると伸び率は7-9月期から鈍化する結果となった。
また総固定資本形成は小幅な増加(前年同期比+2.0%)に止まった。サプライチェーンの混乱と半導体不足などの供給制約や国際商品市況の高騰を受けて企業が設備投資を先送りしたほか、民間消費と同様に前年同期の総固定資本形成の水準が高かったため伸び悩んだと考えられる。
なお、実質GDPの水準をコロナ禍前の2019年10-12月期と比べると、民間消費が+7%、政府消費が+3%、総固定資本形成が+1%、輸出が+10%となっており、引き続き輸出が経済をけん引しているが、内需の回復も進んできていると言える。
1 2月28日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2021年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済見通し:変異株の流行とインフレリスクが先行きの景気下振れリスクに
インドは今年1月に新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」の感染が急拡大した。感染者の多い地域では州政府が週末や夜間の外出禁止措置を実施するなど感染再拡大を回避すべく活動制限を強化したが、総じて経済活動に大きな混乱はなかった。新規感染者数は1月下旬に1日あたり30万人超に達したところでピークアウトし、2月末には1万人を下回るまで減少した(図表3)。この間の小売・娯楽関連施設への移動量は小幅な落ち込みに止まり、足元では第3波が到来する前の水準まで回復している(図表4)。オミクロン株の影響は1-3月期の景気回復を妨げるものの、その影響は一時的なものとなるだろう。またインド経済監視センター(CMIE)によると、失業率は感染第2波が発生した昨年5月に11.8%まで上昇したが、今年2月は8.1%と小幅の上昇に止まっており、雇用情勢の悪化は限定的なものとなっている(図表5)。1-3月期も現在の緩やかな景気回復基調が維持されるものと予想する。
来年度以降は公共投資の拡大が景気回復をサポートしよう。2月発表された来年度予算案によると、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画を推進することにより経済成長を後押しする方針である。
しかし、来年度以降も景気回復基調を維持できるかは不透明感が漂う。新たな変異株が出現する可能性は今後も残り、感染再拡大に伴う活動制限措置の実施により経済活動が停滞する恐れがあるためだ。政府はワクチン接種を加速させており、これまでにワクチン接種対象者の8割弱が2回目の接種を完了している。また1月には15~18歳を接種対象に加えると共に、医療従事者へのブースター接種(3回目)を開始した。ワクチンが普及するにつれて感染対策と経済活動の両立は図りやすくなってきており、回復が遅れていた対面型サービス業の持ち直しが続くと予想するが、新たな変異株に対してワクチンの有効性が弱まる恐れもあり、引き続き感染動向に左右される状況は変わらないだろう。
また足元でインフレ高進リスクが高まっており、先行きの消費を下押し展開が予想される。今年1月の消費者物価上昇率は前年同月比+6.0%まで上昇し、インド準備銀行(中央銀行、RBI)の中期的な物価目標の範囲(2%~6%)の上限に達している(図表6)。食品価格やエネルギー価格の上昇がインフレ圧力となっており、今後はロシアのウクライナ侵攻を背景とする原油価格の高騰が更にインフレ率を押し上げることとなりそうだ。インフレ率の上昇は企業収益を圧迫すると共に、実質所得を目減りさせるほか、国内所得の海外流出に繋がる。今後の欧米の金融引き締めをきっかけにインドからの資金流出圧力が高まれば通貨安が進み、更なるインフレ圧力が強まる展開も予想される。RBIは約2年にわたり政策金利を4%に維持してきたが(図表7)、足元では感染状況が落ち着き、景気回復が続いており、インフレ抑制のための利上げに踏み切る時期は迫ってきている。RBIは年内3回の利上げを実施すると予想する。
実質GDPは、前年度が低水準だったことによる反動増により21年度の成長率が前年度比+8.8%(20年度の同▲6.8%)に急上昇し、景気回復基調が続く22年度が同+7.7%と高めの成長が続くと予想する(図表8)。
来年度以降は公共投資の拡大が景気回復をサポートしよう。2月発表された来年度予算案によると、資本支出が前年度比35.4%増の7兆5,000億ルピーに大幅に引き上げられており、政府は大型インフラ投資計画を推進することにより経済成長を後押しする方針である。
しかし、来年度以降も景気回復基調を維持できるかは不透明感が漂う。新たな変異株が出現する可能性は今後も残り、感染再拡大に伴う活動制限措置の実施により経済活動が停滞する恐れがあるためだ。政府はワクチン接種を加速させており、これまでにワクチン接種対象者の8割弱が2回目の接種を完了している。また1月には15~18歳を接種対象に加えると共に、医療従事者へのブースター接種(3回目)を開始した。ワクチンが普及するにつれて感染対策と経済活動の両立は図りやすくなってきており、回復が遅れていた対面型サービス業の持ち直しが続くと予想するが、新たな変異株に対してワクチンの有効性が弱まる恐れもあり、引き続き感染動向に左右される状況は変わらないだろう。
また足元でインフレ高進リスクが高まっており、先行きの消費を下押し展開が予想される。今年1月の消費者物価上昇率は前年同月比+6.0%まで上昇し、インド準備銀行(中央銀行、RBI)の中期的な物価目標の範囲(2%~6%)の上限に達している(図表6)。食品価格やエネルギー価格の上昇がインフレ圧力となっており、今後はロシアのウクライナ侵攻を背景とする原油価格の高騰が更にインフレ率を押し上げることとなりそうだ。インフレ率の上昇は企業収益を圧迫すると共に、実質所得を目減りさせるほか、国内所得の海外流出に繋がる。今後の欧米の金融引き締めをきっかけにインドからの資金流出圧力が高まれば通貨安が進み、更なるインフレ圧力が強まる展開も予想される。RBIは約2年にわたり政策金利を4%に維持してきたが(図表7)、足元では感染状況が落ち着き、景気回復が続いており、インフレ抑制のための利上げに踏み切る時期は迫ってきている。RBIは年内3回の利上げを実施すると予想する。
実質GDPは、前年度が低水準だったことによる反動増により21年度の成長率が前年度比+8.8%(20年度の同▲6.8%)に急上昇し、景気回復基調が続く22年度が同+7.7%と高めの成長が続くと予想する(図表8)。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2022年03月04日「基礎研レター」)
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03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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