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新型コロナ 救急搬送への影響-搬送人数は減少、搬送時間は延伸

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
そんななか、昨年12月に総務省消防庁は、「令和3年版 救急・救助の現況」1を公表した。これは、2020年の救急搬送の状況を統計にまとめたものだ。今回の内容は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大時期を含んでおり、随所にその影響があらわれている。本稿では、この資料をもとに、コロナ禍で救急搬送がどう影響を受けたのか、みていくこととしたい。
1 資料は、総務省消防庁のホームページ(https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-3.html)に掲載されている。
2――「救急・救助の状況」について
1|資料は、救急編、救助編、航空編に分かれている
この資料は、救急編、救助編、航空編の3つに大きく分かれている。救急編は、救急車等での患者の搬送。救助編は、火災や事故での被災者の救助。航空編は、消防防災ヘリコプターでの救急搬送や救助活動が、主な内容となっている。本稿では、主に、救急編をみていく。
資料内容は、全国の消防本部で行われた救急・救助活動を、消防庁がまとめたものとなっている。
2|資料中、「新型コロナウイルス感染症」の記載は1ヵ所だけ
この資料は、毎年、所定の項目をまとめている基礎資料だ。そのときどきのトピックスを選んで、それを深掘りするといった形式ではない。今回の資料で、「新型コロナウイルス感染症」という用語が使われているのは、「はじめに」のなかの1ヵ所だけとなっている。だが、資料中には、コロナ禍の影響がさまざまなデータとしてあらわれている。以下、筆者の解釈を織り込みつつ、みていきたい2。
2 本稿では、筆者の解釈の部分を、{ }内に表示する。
3――搬送人数の減少
つぎに、主な事故の種類別に、2019年と2020年の搬送人数の比較をしてみよう。種類別にみると、急病による搬送が全体の約3分の2を占めている。2020年に急病により搬送された人は、345.2万人で、対前年 -12%の減少。続いて、一般負傷が86.7万人で同 -6%の減少。交通事故が34.2万人で、-17%の減少となっている。注目されるのは、運動競技の事故での搬送で、対前年 -43%と大幅に減少している。{コロナ禍により、外出が自粛されたため、交通事故の数が減り、搬送人数も減少。また、さまざまな運動競技も自粛されたため、事故の数が減り、搬送人数も大幅に減少したものとみられる。}
4――搬送時間の延伸
1|病院搬送時間 (平均) は40分超に伸びた
近年、救急搬送体制の整備が進んでいる。これにより、2013年以降、搬送人数の増加にも関わらず、平均の現場到着所要時間は8.5~8.7分、病院収容所要時間は39.3~39.5分とほぼ横ばいで推移してきた3。ところが、2020年は、現場到着が8.9分、病院収容が40.6分と、それぞれ伸びた。{コロナ禍により、救急隊員の感染防止対策に時間がかかり現場到着までの時間が延伸。また、搬送先の病院がなかなか決まらず、病院搬送の時間も伸びた、といったことが背景にあるものとみられる。}
3 「現場到着所要時間」は入電から現場到着までに要した時間、「病院収容所要時間」は入電から医師引継ぎまでに要した時間を指す。
5――救急搬送困難事案の状況調査
この調査で、「救急搬送困難事案」とは、救急隊による医療機関への受入れ照会回数が4回以上で、かつ現場滞在時間が30分以上の事案を指している。また、調査では、体温37度以上の発熱、呼吸困難等の新型コロナウイルス感染症疑いの症状がある事案を、「コロナ疑い事案」としている。
これまで、感染拡大の波とともに、救急搬送困難事案の件数は増減を繰り返してきた。2022年に入ってから、オミクロン型変異ウイルスの急拡大を受けて、救急搬送困難事案の件数は、1週間に6000件超の増勢をみせている。また、コロナ疑い事案も、2000件超と昨夏を上回る水準で推移している。
6――おわりに (私見)
今後もコロナ禍の感染の拡大動向と、救急搬送への影響について、注視していくこととしたい。
(2022年02月22日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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