2022年01月11日

2021~2023年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.298]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―2四半期ぶりのマイナス成長

2021年7-9月期の実質GDPは、前期比▲0.9%(年率▲3.6%)と2四半期ぶりのマイナス成長となった。緊急事態宣言の長期化や半導体不足などの供給制約の影響で、民間消費(前期比▲1.3%)、住宅投資(同▲1.6%)、設備投資(同▲2.3%)がいずれも大幅に減少し、国内民間需要が2四半期ぶりに減少した。ワクチン接種の進捗を反映し政府消費が前期比1.0%の高い伸びとなり、公的需要が3四半期連続で増加したが、民間需要の落ち込みをカバーするには至らなかった。

日本経済は、新型コロナウイルス感染症の影響で2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、緊急事態宣言が再発令された2021年入り後は停滞が続いている。

2―交易条件の悪化で海外への所得流出が加速

世界的に経済活動の正常化が進む中、原油をはじめとした資源価格が大きく上昇している。2021年11月の輸入物価指数は前年比44.3%と約40年ぶりの高い伸びとなった。世界経済の回復を反映し輸出物価も上昇しているが、輸入物価の伸びを大きく下回っているため、交易条件指数(輸出物価指数/輸入物価指数)は急低下している。

交易条件の悪化は日本から海外への所得流出が進んでいることを意味する。GDP統計の交易利得は、2021年1-3月期が前期差▲3.2兆円、4-6月期が同▲2.4兆円、7-9月期が同▲3.4兆円と大幅な減少が続いており、10-12月期は減少幅がさらに拡大する可能性が高い。2021年度の交易利得は前年度差▲9.8兆円となり、現行のGDP統計(1994年度~)では2011年度の前年度差▲6.3兆円を上回る過去最大の悪化幅となることが予想される[図表1]。
[図表1]交易利得の見通し
交易条件悪化に伴う海外への所得流出は、企業と家計が負担することになる。企業が輸入物価上昇に伴うコスト増を価格転嫁できなければ企業収益が圧迫され、価格転嫁が十分に行われた場合には、企業の負担は軽減される一方、消費者物価の上昇を通じて家計の負担が増加するという関係がある。

財務省の「法人企業統計」によれば、2021年度上半期の製造業の経常利益は、コロナ禍で2020年度に大きく落ち込んだこともあり、前年差9.1兆円の大幅増益となった。経常利益の増加額を売上数量と交易条件に要因分解すると、売上数量の高い伸びが経常利益を16.5兆円押し上げる一方、輸入物価上昇に伴う交易条件の悪化が経常利益を▲4.8兆円押し下げている(その他が▲2.6兆円)。

一方、企業間取引の物価(輸入物価、国内企業物価)が大きく上昇している中、消費者物価上昇率はほぼゼロ%にとどまっており、現時点では輸入物価上昇に伴う家計負担は限定的にとどまっている。しかし、燃料費の変動が価格転嫁されやすいエネルギー(電気代、ガス代、灯油、ガソリン)はすでに大幅に上昇している。原油高の影響が遅れて反映される電気代、ガス代は今後上昇ペースが加速するため、家計の負担は一段と高まる公算が大きい。

エネルギーは生活必需品に近い性質を持つため、価格の上昇に合わせて購入量を減らすことが難しい。灯油の使用量が多い寒冷地域を中心にエネルギー以外の選択的支出を控えることが消費全体を抑制するリスクがある。

3―緊急事態宣言の解除で消費が急回復

2021年に入ってからほとんどの期間で実施されていた緊急事態宣言、まん延防止等重点措置は9月末で解除された。人流データ(小売・娯楽施設の人出)を確認すると、2021年夏場の人出は前年を下回ったが、緊急事態宣言の解除を受けて持ち直している。10月の人出は感染症への警戒感が残っていることもあり前年とほぼ同水準にとどまっていたが、新型コロナウイルスの感染者数が低水準で推移していることを反映し、11月に入ってから前年の水準を明確に上回っている。

2021年10月以降の消費関連指標は、緊急事態宣言の解除を受けて、これまで低迷が続いてきた外食、旅行などの対面型サービスを中心に個人消費が急回復していることを示している。

日本銀行の「消費活動指数」によれば、2021年10月の実質消費活動指数(旅行収支調整済)は前月比4.3%の増加となり、特に人出との連動性が高いサービス消費が同8.0%の高い伸びとなった。11月の人出が10月よりも明確に増えていることを踏まえると、11月のサービス消費はさらに水準を切り上げる可能性が高い[図表2]。また、総務省統計局の「家計調査」によれば、対面型サービス消費(一般外食、交通、宿泊料、パック旅行費、入場・観覧・ゲーム代)は、2020年秋頃にいったんコロナ前の8割程度の水準まで回復した後、2021年入り後は緊急事態宣言の再発令を受けて5割前後の水準に落ち込んでいたが、2021年10月は緊急事態宣言の解除を受けて前月比47.4%と急回復し、2020年秋頃の水準に戻った[図表3]。
[図表2]小売・娯楽施設の人出とサービス消費
[図表3]対面型サービス消費は緊急事態宣言解除後に急回復
夏場の景気を大きく下押しした供給制約も和らぎつつある。自動車生産は、半導体不足や東南アジアからの部品調達難の影響で、2021年7月から9月までの3ヵ月で40%以上減少し、自動車販売の急速な落ち込みにつながっていた。しかし、10月の自動車生産は前月比15.9%と4ヵ月ぶりの増加となり、11月、12月も大幅増産計画となっている。また、自動車販売は9月に前月比▲32.0%と大きく減少した後、10月が同13.3%、11月が同23.8%の増加となり、9月の落ち込みの8割以上を取り戻した。供給制約に伴う自動車生産の落ち込みには歯止めがかかっており、先行きは挽回生産とそれに伴う販売増が期待できるだろう。

4―実質GDP成長率の見通し

2021年10-12月期は前期比年率8.3%の高成長になると予想する。緊急事態宣言の解除を受けて外食、旅行などの対面型サービス消費が回復し、民間消費が前期比2.8%の高い伸びとなることが高成長の主因となる。7-9月期に減少した設備投資も、企業収益の改善を背景に基調としては持ち直しの動きが続いており、10-12月期は増加に転じる可能性が高い。

この結果、2021年10-12月期の実質GDPはコロナ前(2019年10-12月期)の水準を上回ることが予想される。ただし、2019年10-12月期は消費税率引き上げの影響で前期比年率▲9.2%の大幅マイナス成長となっており、新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化する前に平常時よりも経済活動の水準が落ち込んでいた。コロナ前(2019年10-12月期)の実質GDPは直近のピーク(2019年4-6月期)より▲2.5%も低い。実質GDPがコロナ前の水準を回復したとしても経済正常化が実現したとはいえない。

先行きの日本経済はこれまでと同様に、新型コロナウイルスの感染動向とそれに対応する公衆衛生上の措置によって大きく左右される展開が続くだろう。現在、日本では感染状況が非常に落ち着いた状態が維持されているが、世界的にはいったん落ち着いた感染者数が再び増加している国が散見される。日本でも、オミクロン株の流行などによって、今後感染者数が増加に転じる可能性は否定できず、その際に緊急事態宣言などの行動制限の強化に踏み切れば、対面型サービス消費を中心に経済活動が再び落ち込むリスクがある。一方、医療体制の拡充や医療資源の適正な配分などを十分に進めておけば、感染者数が一定程度増加しても経済活動を制限する必要性は低下し、景気が大きく上振れる可能性がある。

実質GDP成長率は2021年度が2.7%、2022年度が2.5%、2023年度が1.7%と予想する。実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2021年10-12月期、直近のピーク(2019年4-6月期)に戻るのは2023年4-6月期と予想している[図表4]。
[図表4]実質GDPが元の水準に戻る時期
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2022年01月11日「基礎研マンスリー」)

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