2021年12月22日

グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決

保険研究部 常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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(2)Googleの慣行は差別的ではないとの主張
次の論点は、(1)ハ)取引態様や目的が排他的・差別的かどうかについてである。ちなみに(2)イ)である一定の取引分野についても若干の検討がなされている。

(A)Googleの主張
Googleの主張としては、1)商品検索は自然検索結果とは異なる仕組み、すなわち、販売業者から送られてきたデータをもとに、商品固有の関連性の特性(product-specific relevance signals)により検索結果を表示している。自然検索結果と商品検索結果はそれぞれの関連性基準に従って表示されており、差別的なものではない。また、2)Shopping Unitsは広告枠であり、Googleのビジネスモデルに照らせば無償の検索結果と表示が異なることは差別的とは言えない。またShopping Unitsが上位に表示されるのは、それを表示することでテキストリンクのみの場合よりも良い検索結果を示すことになる場合に限られる。3)Google ShoppingはGoogle検索に付属する単なるウェブページであって、Google Shoppingとしては利益を得ていない。Google Shopping経由で得た利益はGoogleの一般検索サービスに割り当てられている。4)Shopping Unitsに、競合する比較ショッピングの商品を掲載しており、不当な差別的取扱はなかった10(図表4)。
【図表4】Googleの主張する事業構造
 
10 パラグラフ271~276、305~306、321~324、341~344
(B)裁判所の判断
裁判所は、1)´Googleの検索結果ページにおいては、Shopping Unitsに掲載されるGoogle Shoppingは必ず一般検索結果ページの上部に目立つ形で表示され、それ以外の競合する比較ショッピングの商品は調整アルゴリズムの結果により目立たない形でしかより下部にしか掲載されない(なお、これらのことを以下ではGoogleの慣行と呼ぶ)と認定した。また、商品検索については販売業者のデータに基づいて表示順位を定めており、関連性基準で必ずしも定まるものでもないと認定した。2)´問題となっているのはShopping Unitsに表示されるGoogle Shoppingと、一般検索結果である他の比較ショッピングサイトとの表示の差異であり、有料広告ではない他の比較ショッピングサイトの商品が、Google Shoppingとは異なるランク付け方法によって一般検索結果ページの下位に表示されることを消費者は理解していない。3)´比較ショッピングサイトサービスとは、オンライン販売業者や商業プラットフォームに掲載されている商品を横断的に検索し、価格や特徴を比較できるものであり、かつ販売業者は商業プラットフォームへのリンクを表示するものと定義されており、このことはGoogleによって争われていない。このような定義の下で、Shopping UnitsとGoogle Shoppingは、利益がどこに帰属するかにかかわらず、消費者および販売業者からは単一の比較ショッピングサイトとして認識されている。4)´Shopping Unitsに掲載されるためには、比較ショッピングサービスはそのサイトに購入機能を追加する必要があるとされており、そうした場合、もはや競合する相手ではなく、Googleの顧客となることを意味する。したがって競合する比較ショッピングを掲載しているという主張は認められないとする11(図表5)。
【図表5】裁判所の認定した事業構造
 
11 パラグラフ278~301、309~320、327~340、346~355
(C)評価
Googleの主張としては、1)そもそもGoogle ShoppingはGoogle検索サービスとは分離できない一部を構成するものであって、単独の比較ショッピングサイトと認識すべきではない、また2)仮に独立したサービスだとしても、Shopping Unitsはそもそも広告枠であり、広告枠と一般検索結果が異なるのは当然である。広告枠同士、一般検索結果同士について差別的に取り扱ってはいないというものである。

まず1)に関連して、指針では、表計算ソフトとワープロソフトで市場シェア一位であった事業者が、PCに競合他社のワープロソフトが搭載されて販売されることが自社ソフトの販売について障害になると考え、PCメーカーに自社表計算ソフトとワープロソフトの両方を搭載して販売する契約を受け入れさせたことは不公正な取引に該当するとした例が記載されている(指針第2の4(3)、抱き合わせ販売の例)。このことを参考にすると、比較ショッピングサイト市場という独立した市場が成立している以上、仮にGoogleにおいては一体のものとして見ているとしても、他の事業者と競争関係にないとは言えないと考えられる(この点は(b)イ)一定の取引分野の認定にもかかわる)。

次に、2)はいわゆるランキングの公正性・透明性にかかわる論点である12。この点、消費者からすると、Shopping Unitsも一般検索結果も同一の検索結果として表示されることから、関心に合致する関連性の度合いで順番づけられて表示されるものであると認識されるのが自然と思われる。

他方、比較ショッピングサイトからみると、掲載対価を払わなければ一般検索で下位に表示されるにとどまること、他方で、掲載対価を払えばShopping Unitsに掲載されることは可能とされてはいるものの、競合するGoogle ShoppingはShopping Units掲載の対価を負担していないこと、Shopping UnitsはGoogle Shoppingの商品ですでにスペースが埋まっているということ、および掲載されるには購入機能を追加しなければならない(=単なる比較ショッピングサービスではなくなる必要がある)等の事実を前提とすると、合理的な範囲を超える差別的な取り扱いであると裁判所が認定したことは妥当であると考えられる。

以上(1)、(2)から排除行為の存在が認定できると考えられる。
 
12 この点について、参考になるのが、EUのオンライン仲介サービスのビジネスユーザーに対する公平性と透明性を促進するための規則7条2項である。本条によるとオンライン検索サービス会社は自社又は自社の支配下にあるサービスと、その他の会社の提供するサービスを別取扱とする場合には、その旨を公表しなければならないとしている。https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63181?site=nli 
(3)Googleの慣行により反競争効果は生じなかったとの主張
本論点は主に、(b)イ)取引市場の確定、および(b)ロ)Googleの慣行が事業活動を困難にさせるものであるかという点に関連するものである。

(A)Googleの主張
Googleは、1)欧州委員会は Shopping Units (前身はProduct Universals)の存在がトラフィックを増減させたと主張しているが、それは誤りで、トラフィックは一般検索サービス部分における調整アルゴリズム基づく掲載の順序により増減するものである。たとえばイギリスとアイルランドのようにShopping Unitsが導入された国とそうでない国における、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックはおおむね同様の増減を示している。2)欧州委員会はGoogleの慣行によって、Googleの一般検索結果から、不正にGoogle Shoppingへのトラフィックが増加したことを立証できていない。Shopping Unitsはトラフィック全体を増加させただけであり、一般検索結果で競合する比較ショッピングサイトの犠牲において、Google Shoppingへのトラフィックを増加させたとは言えない。3)欧州委員会はGoogleの慣行が反競争的な効果をもたらし、価格の上昇やイノベーションを阻害した可能性を立証できていない。4)商業プラットフォーム(Amazonのようなサイト上で購入できるもの)が強力な競争相手であり、少なくともの競争圧力を加えうる点について、欧州委員会は考慮に入れていない。5)欧州委員会は比較ショッピングサイトへのアクセスをあたかもGoogleからのトラフィックだけを見て反競争的効果があるとしているが、アプリや直接的なアクセスなどを勘案するとGoogleからのトラフィックは排他的効果を生み出すにはあまりに低すぎると主張する13(図表6)。
【図表6】Googleの主張(排除効果はない)
 
13 パラグラフ358~366、396~399、421~428、462、496~500、510~516
(B)裁判所の判断
裁判所は1)´欧州委員会の主張は、Shopping Unitsの存在と、一般検索結果の調整アルゴリズムによって表示が引き下げられる傾向にあることの組み合わせを主張しているものである。そして欧州委員会は13か国で、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックが実際に全体として減少し、侵害があったと認定しているが、Googleはこれに反論する証拠として何も示していない。2)´Googleの上記1)´で述べたような慣行を行う前には、Googleの比較ショッピングサイトは成功しておらず、年間20%近くの割合でトラフィックを失っていた。しかし、慣行の導入後、13か国でGoogle Shoppingへのトラフィックが増加したことが示されている一方、競合する比較ショッピングサイトへの一般検索結果ページからのトラフィック全体が13か国で減少している事実についてGoogleは何ら提示していない。したがってGoogleの慣行は、一般検索結果からの競合する比較ショッピングサイトへのトラフィック減少につながったと認定できる。3)´比較ショッピングサイト市場における競争に関して、競合する比較ショッピングサイトへのトラフィックを減少させ、Google Shoppingへのトラフィックを増加させたことが示されている。そして競合する比較ショッピングが、ほかの選択肢によってトラフィックを増加させることはできず、したがってこれら慣行が、イノベーションの意欲を低下させるか、有料のトラフィック源に依存することで利益を犠牲にすることが示されている。またGoogle自身の革新インセンティブを減少させ、慣行がなければ競合する比較ショッピングサイトがもっと存在したであろうことから、消費者の選択を狭めたと認められる。4)´確かに商業プラットフォームは比較ショッピングサイトと競合する部分があるが、事業者の間の認識として、商業プラットフォームは労働力を使って製品を販売しており、比較ショッピングサイトの競争相手というよりビジネスパートナーとされている。また、消費者にとっても商品を購入するのが商業プラットフォームであり、価格を比較するのが比較ショッピングサイトという役割分担があり、欧州委員会が市場として商業プラットフォームを除外したことは正当と言える。また潜在的反競争的効果が比較ショッピングサイト市場内においてのみ認められることから、商業プラットフォームの影響は軽微と言える。5)´欧州委員会はGoogleからのトラフィックだけではなく、直接検索、アプリその他のソースなどを含めて示しており、そしてGoogleの一般検索からのトラフィックがほとんどを占めていることを示している。さらに、Googleの検索結果からのトラフィックの減少をほかの手段では補完できないことも示している14(図表7)。
【図表7】裁判所の認定した排除効果
 
14 パラグラフ368~395、401~420、432~459、466~495、501~509、518~543
(C)評価
ここは指針でいえば「一定の取引分野」における「競争の実質的制限」に該当する論点である。特に「競争の実質的制限」があったかどうかは、i)行為者の地位及び競争者の状況、また、ii)潜在的競争圧力で判断される(そのほか、効率性という重要な要素があるが次項を参照)15

i)における行為者の市場シェアがまず課題となるが、本事案でのシェアとは、あたかも独占的なシェアを持つ一次製品製造事業者が川下事業者へ製品を供給するように、Google検索が生み出す検索に基づくトラフィックのシェアと捉えるのが妥当と考える。上記(B) 5)´にある通り、他からのトラフィックで代替可能性がないことも合わせ、このトラフィックが川下事業者の事業活動に対する絶大な影響力につながっていると考えられる。この影響力は持続的でもあり、競争制限効果が強いと考えられる。また、ii)潜在的競争相手または競争圧力として、本事案では商業プラットフォームが論点となっている。この点、判決では商業プラットフォームと比較ショッピングサイトの機能・役割、利用者の認識などを挙げて、競争制限的効果を減殺するものではないと認定した(加えて、商業プラットフォームは同一の取引分野に属さないことも明らかにした)。確かに実際に掲載商品を在庫として仕入れて発送し、代金の収受も行う商業プラットフォームと、単に電気通信手段を用いて情報だけを仲介する比較ショッピングサイトでは別の取引分野と見るのが妥当と思われ、判決は首肯できる。
 
15 本文で紹介したほかには、需要者の対抗的な交渉力や消費者利益の確保があるが省略する。
(4)Googleの慣行は競争法上正当化できるとの主張
本論点は(b)ハ)効率性の点から正当化できるかにかかわるものである。

(A)Googleの主張
Googleは、一般検索サービスにおける調整アルゴリズムは結果の質を維持するため、競争を促進するものであり正当化されるなどと主張した。また、競合する比較ショッピングサイトの検索結果の評価についてGoogleは判断できないものであるとした16
 
16 パラグラフ544~548、580~583
(B)裁判所の判断
裁判所は欧州委員会がいうように、Googleは競合する比較ショッピングサイトへの不平等な取り扱いを相殺する競争促進的利益を主張できていない。Googleの慣行は価格の上昇や消費者の選択肢の減少を招いている。競合する比較ショッピングサイトの商品選択基準が明確ではない中で、比較ショッピングサイトの検索結果を降格させ、消費者の注意からそらすことはユーザーエクスペリエンスの向上による効率性の向上を生み出すことはできなかったということである。正当化事由は欧州委員会ではなく事業者サイドが立証すべきものであるが、その立証はできていない17
 
17 パラグラフ551~579、585~595
(C)評価
指針では前項(3)(C)に記載した指針の「競争の実質的制限」の判断要素のiii)効率性にかかる論点である。効率性の向上が考慮されるのは、指針では(α)行為の効果として効率性が向上し,それがより競争制限的でない他の方法によっては生じ得ないものであり,かつ,(β)当該効率性の向上により,商品の価格の低下,品質の向上,新商品の提供等の成果が需要者に還元され,需要者の厚生が増大するものであることが認められるときとされている。

この点、Googleは首尾一貫した主張の流れとして、Shopping Unitsと一般検索結果は別物であるという前提で効率性があると主張する。しかし、商品検索機能と表示方法の変更は、効率性を確保するというよりは、Google Shoppingへのトラフィックを増加させることへと向けられてきたことは上述の論点のところで述べた通りであり、効率性の確保ためという主張は説得力を欠くと考える。
(5)課徴金を科すことはできないとする主張
Googleは以下の3点から制裁を科すべきではないと主張する。この主張は法の適用ではなく、欧州委員会の法の運用に関するものであるのでGoogleの主張と判決の要点だけを示すこととする。

i)欧州委員会が、品質向上を目的とした行為に対して濫用的だと判断するのは初めてである。ii)欧州委員会は確約計画手続で処理することを決定していた。iii)欧州委員会の行政手続中に否定したGoogleの改善策を命令で求めている18

裁判所はi)市場において支配的な地位を有する事業者には特別な責任を有するところ、Googleは優越的地位の濫用に該当する可能性のある行為を意図的に行ってきた。したがって欧州委員会は制裁を科すことができる地位にあった。仮に「初めて」であったとしてもそれが制裁を回避すべき理由にはならない。ii)手続の途中で暫定的に確約計画に着手するという事実は手続途上の暫定的な選択肢に過ぎず、最終的に課徴金を課さないという正確な保証とはならない。iii)これも同様にGoogleが最終的に必要とした行動の変更を、手続途中に要求できなかったからといって、そのような措置をとるように要求する可能性を予見できないとは言えない19
 
18 パラグラフ598~601
19 パラグラフ605~639

5――おわりにかえて

5――おわりにかえて

本判決は、Googleという一般検索サービス市場における独占的地位を有する事業者が、自社サービスを有利に取り扱い、逆に競合するサービスを差別的に取り扱っている事例である。

上述の通り、Googleがその検索結果において、一方でGoogle Shoppingを表示方法や表示位置などで優遇し、他方で競合する比較ショッピングサイトからの結果を調整アルゴリズムによって、目立たなく表示することが、公正な競争から逸脱するものと認定した。

この判断にあたっては三つの要素の認定が特に重要であった。(1)Googleの一般検索サービスによって生ずるトラフィックが比較ショッピングサービスの事業において重要であること、(2)ユーザーが検索結果の上位の数件の結果にしか興味を有しないこと、(3)比較ショッピングサイト市場におけるトラフィックのうち、大きな割合を占める歪められたGoogleからのトラフィックと、そのトラフィックを埋め合わせる方法がないことという三つの要素が認められるとしている。そして、このような条件のもと、Googleのとった本文で述べたような慣行が競争の低下につながっているとしている。

このような特性はあるものの、大規模な川上事業者が川下事業者に対する排除行為や大規模量販店が小規模の卸売事業者への排除行為に類するものとみることができ、本判決の内容は本文で述べた通り、その結論には賛成することができる。

本判決はオンライン検索サービスというこれまでになかった分野の競争法の適用の判断を示したもので、先例としての価値は高いと思料する。
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保険研究部   常務取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

(2021年12月22日「基礎研レポート」)

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