2021年12月17日

ECB政策理事会-「平時の金融政策」に向けた出口方針を決定

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:PEPPの購入ペースの減速と来年3月での終了予定を決定

12月16日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
 

【金融政策決定内容】
PEPPの購入ペースの段階的な減速を決定
PEPPの購入を22年3月で終了する予定であることを明記
PEPPの元本償還分の再投資期間を少なくとも24年末までに延長(従来は23年末)
APPの購入ペースのPEPP終了後の増額を決定(22年4-6月期は月額400億ユーロ、7-9月期は月額300億ユーロで、いずれも月額200億ユーロから増額)

【記者会見での発言(趣旨)】
成長率見通しは21年5.1%、22年4.2%、23年2.9%、24年1.6%(22年を下方修正、23年を上方修正)
インフレ率見通しは21年2.6%、22年3.2%、23年1.8%、24年1.8%(大幅上方修正)

2.金融政策の評価:コロナ対応からの出口について一連の方針を決定

今回の理事会では、コロナ禍後に導入していた各種の金融緩和手段についての出口について一連の方針が発表された。

これまで出口に関する議論は12月の理事会で包括的に扱う予定としており、今回の理事会ではその通りに出口方針が決定されたと言える。

足もと感染拡大やオミクロン株の流入しており、経済への不確実性も増していたことから、出口に関する決定が後倒しにされる可能性も指摘されていたが、声明文を見る限り、「平時の緩和策」に向けた移行方針が出そろったように思われる。
 
決定内容としては、PEPPを予定通り3月に終了し、それまでの購入ペースは減額する。PEPP終了後はAPPでの購入のみとなるが、激変緩和措置としてAPPを増額する(従来は月額200億ユーロであったが、22年4-6月期は400億ユーロに増額、7-9月期は300億ユーロに増額)。

これにより来年1年間の資産購入の削減スケジュールをほぼ決めたということになる(ただし、不確実性に鑑みてPEPPの再開を含めた政策の変更余地も残している)。

また、PEPPの特徴であった柔軟性や例外(資産保有比率の出資比率から乖離を認めるほか、投機的格付けであるギリシャ国債の購入、国債保有の33%上限ルールの引き上げ)についてAPPに移行することはなく、柔軟性や例外が認められているPEPPの償還再投資についての実施期間が延長された。

資産購入策については段階的な削減スケジュールが決められる一方、流動性供給策については、TLTROIIIの追加実施や拡充などは見送られ、声明文において資金調達環境を監視する旨が記載されたのみとなった。また政策の変更はないものの、今回の声明では付利の階層1についても評価することが明記されている。

さらに、金融政策方針に記載されている政策スタンスについて、「必要に応じ、すべての手段をいずれの方向にも調整する」として、追加緩和を意識した記載から、引き締め方向にも配慮した記載に変更されている。加えて「良好な資金調達環境(favourable financing conditions)」という文言も削除されている2。緩和に傾斜した方針から、引き締めを意識したバランスの取れた内容となったと言える。
 
なお、今回の経済見通しでは22年のインフレ率がかなり上方修正され、見通し期間の後半でも1.8%と目標にかなり近づく予想となった。ECBのリスクバランスは中立という判断であったが、インフレについては上方リスクが意識されやすい状況にある。ラガルド総裁は22年の利上げは考えにくいとしているが、近い将来にフォワードガイダンスの条件が満たされる可能性も考えられ、インフレの動向により一層注目が集まるだろう。
 
1 超過準備のうち、預金ファシリティ金利が適用される部分は一部であり、現在は法定準備額×6を超える部分(この6は階層化乗数と呼ばれる)。
2 経済および金融・通貨環境を評価した冒頭説明分(「statement」)には一部記載がある。

3.声明の概要(金融政策の方針)

12月16日の政策理事会で発表された声明は以下の通り。

 
  • 理事会は、経済活動の回復と中期的なインフレ目標を勘案して、次の四半期の資産購入ペースの段階的な減速(step-by-step reduction)が可能だと判断した
    • しかしながら、インフレ率が2%目標で中期的に安定するためには、引き続き金融緩和が必要である
    • 現在の不確実性に鑑み、理事会は柔軟性と選択肢を維持する
    • この点を考慮して、理事会は次の決定を行った
 
(パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
  • PEPPの継続と終了予定
    • 22年1-3月期については、理事会はパンデミック緊急購入策(PEPP)による純資産購入を、前四半期から減速したペースで実施(購入ペースの減速を決定)
    • PEPPの純資産購入は22年3月末に終了するだろう(終了予定を明記)
 
  • PEPP元本償還分の再投資の実施(再投資の期間を延長)
    • PEPPの元本償還の再投資は少なくとも2024年末まで実施(23年末から延長)
    • 将来のPEPPの元本償還(roll-off)が適切な金融政策に影響しないよう管理する(変更なし)
 
  • 柔軟性およびPEPP再開の可能性について(文章の追加)
    • コロナ禍による緊迫した環境下で、資産購入の設計・実施の際の柔軟性が、金融政策の伝達への悪影響に対抗し、理事会の目標達成への取り組みをより効果的にすることを示した
    • 我々の責務の範囲内において、緊迫した環境下で、金融政策の伝達性が脅かされ物価の安定が危うくなる場合には、柔軟性が引き続き金融政策の一要素となるだろう
    • 特に、コロナ禍に関連して、市場の分断(fragmentation)が再発する場合には、いつでもPEPPの再投資は、実施期間、資産クラス、国構成を柔軟に調整する
    • これには、国構成に関して購入が中断され、コロナ禍の余波からの回復途上にあるギリシャ経済への金融政策の伝達が阻害されることを避けるために、償還再投資についてのギリシャが発行する国債を購入することも含まれる
    • PEPP下での純資産購入は、コロナ禍の負の影響に対抗するため、必要があれば再開する
 
(資産購入プログラム:APP)
  • APPの実施(PEPP終了後の増額を決定)
    • 資産購入の段階的な減速と平仄をあわせ、金融政策の姿勢の中期的な物価安定目標との一貫性をとるために、理事会はAPP下での純資産購入を4-6月期は月額400億ユーロ、7-9月期は月額300億ユーロとすることを決定した(月額200億ユーロから増額)
    • 22年10月以降は、理事会はAPP下での純資産購入を月額200億ユーロで維持する(変更なし)
    • 毎月の購入は、緩和的な政策金利の影響が強化されるまで必要な限り継続(変更なし)
    • 政策金利の引き上げが実施される直前まで実施(変更なし)
 
  • APPの元本償還分の再投資(変更なし)
    • APPの元本償還分は全額再投資を実施
    • 政策金利を引き上げ、十分な流動性と金融緩和を維持するために必要な限り実施
 
(政策金利)
  • 政策金利の維持(変更なし)
    • 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:0.00%
    • 限界貸出ファシリティ金利:0.25%
    • 預金ファシリティ金利:▲0.50%
 
  • フォワードガイダンス(変更なし)
    • 対称的な2%のインフレ目標と金融政策戦略に沿って、見通し期間が終わるかなり前(well ahead)までにインフレ率が2%に達し、その後見通し期間にわたって持続的に推移すると期待され、現実に中期的な2%に向けたインフレ率の安定という十分な進展が見られると判断されるまでは、理事会は政策金利を現在もしくはより低い水準で維持する
    • そのため、一時的にインフレ率が目標をやや上回る可能性もある
 
(資金供給オペ)
  • 流動性供給策の監視(政策の変更なし)
    • 理事会は銀行の資金調達環境を監視し、TLTROⅢの満期が金融政策の円滑な伝達を阻害しないよう保証する(文章の追加)
    • 理事会はまた、条件付貸出オペが金融政策姿勢にどのように貢献しているかを定期的に評価する(文章の追加)
    • すでに公表したように、TLTROⅢの特別条件は来年6月に終了する(文章の追加)
    • 理事会はまた、豊富な過剰流動性がある環境下で、マイナス金利政策が銀行の仲介機能を制限することが無いよう、準備預金への付利の2階層制度の適切な運用(appropriate calibration)について評価する(文章の追加)
 
(その他)
  • 金融政策のスタンス(スタンスが双方向に変更されうることを明示
    • インフレが2%の目標に向け推移するよう、必要に応じ、すべての手段をいずれの方向にも調整する準備がある
       

4.記者会見の概要

政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
 
(冒頭説明)
  • 十分な政策支援の助けもあって、ユーロ圏経済は回復を続け労働市場も改善している
    • 成長率は鈍化しているものの、経済活動は来年にかけて再び力強さを取り戻すと見られる
    • 直近の感染の波とオミクロン株のため、一部の国では厳しい制限を再導入している
    • エネルギー価格は高騰している
    • いくつかの産業では、原材料、部品、労働力不足が見られる
    • これらの要因は経済活動の制限要因となり、短期的な見通しに対する向かい風となる
    • 公衆衛生危機は依然として続いているが、多くの人がワクチン接種を進め、ブースター接種が加速している
    • 総じて、社会は感染の波とその結果としての行動制限に対してより良く対処し始めている
    • そのため、コロナ禍の経済への影響は減少している
    • インフレ率は、エネルギー価格の高騰や、いくつかの部門における供給に制約があるなかで需要が上回っているために、急上昇している
    • インフレ率は短期的には引き続き高水準で推移すると見られるが、来年中には低下すると見ている
    • インフレ見通しは上方修正したが、予測期間にかけて2%目標を下回る水準に落ち着くと予想している
 
  • (第3章の金融政策方針の説明)
 
  • 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい

(経済活動)
  • 経済回復は、旺盛な域内需要をけん引役として回復が続くと予想する
    • 労働市場は改善し、職に就く人が増え、雇用維持政策の利用者は減少している
    • これは家計の所得と消費見通しを支援材料となる
    • コロナ禍期間中に積みあがった貯蓄もまた、消費の支援材料である
    • 現在の財政・金融政策支援は、世界的な回復の持続とともに、成長を支援するだろう
 
  • 経済活動は今年10-12月期に鈍化し、おそらく来年前半まで遅めの成長が続くだろう
    • 我々は生産がコロナ禍前の水準を上回る時期を2022年1-3月期と予想している
 
  • 現在の感染の波に対処するために、いくつかのユーロ圏の国では、厳しい制限措置を再導入している
    • これは回復を遅らせる可能性があり、特に、旅行、観光、接客、娯楽業が該当する
    • 感染拡大は消費者・企業の景況感の重しとなっており、新しい変異株の広がりが追加の不確実性をもたらしている
    • 加えて、エネルギー価格の上昇が消費の向かい風となっている
 
  • いくつかの産業における部品、原材料、労働力の不足、製造業の財生産の阻害、建設の遅れ、サービス業の一部での回復遅延をもたらしている
    • これらの制約はしばらく続くものの、22年の間には緩和されると見られる
 
  • 見通しについては、22年の力強い回復を見込んでいる
    • 新しいスタッフ見通しでは、実質GDP成長率を21年5.1%、22年4.2%、23年2.9%、24年1.6%と予想している
    • 9月の見通しと比較すると22年が下方修正、23年を上方修正した
 
  • 重点的かつ成長志向の財政政策が、引き続き金融政策を補完する
    • この支援はまた、現在進行している構造変化の助けとなる
    • 次世代EUプログラムと「Fit for 55」パッケージの効果的な実施は、ユーロ圏各国の力強く、地球に優しく、より均一な回復に貢献する
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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