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2021年JC・JK流行語大賞を総括する-「第4次韓流ブーム」と「推し活」という2つのキーワード
生活研究部 研究員 廣瀬 涼
1――2021年JC・JK流行語大賞発表
1 JC・JK流行語大賞2021を発表「きまZ」「ガルプラ」「渡韓ごっこ」がランクイン! 2021/11/29 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000019.000017469.html
2――キーワード1「韓国」
まずキーワード1「韓国」について論じる。現在、特に若年層の間で「第4次韓流ブーム」が起きている。そもそも「韓流」とは何なんだろうか。1970年代後半の韓国演歌ブームや、1988年のソウルオリンピック、2002年の日韓サッカーワールドカップ開催年など、韓国そのものが注目されたことは過去何度もあったが、当時は「韓流」という言葉は日本では存在・定着していなかった。というのも、韓流という概念は、韓国の文化観光部によって提唱されたと言われており、1997年前後に生まれた韓国ドラマ、映画など韓国の大衆文化が人気を集めるようになった現象を意味していたからである3。1999年韓国では、文化産業振興基本法が制定され、文化産業事業の振興や海外輸出のために助成が行われたことでK-POPやドラマなどのコンテンツ産業が活気づくこととなる4。日本では地方局、BS・CS放送局、増加や日本のテレビドラマの価格上昇、香港映画の衰退などを背景に、韓国の大衆文化が輸入されるようになり、人気が高まった。そして、日本でもこのブームに対して既に台湾や香港で使われていた「韓流」という言葉が用いられるようになったのである。
2017年以降になると、いったん韓流ブームは下火となり、新大久保における韓国系の店舗数は384軒まで減少した7。2019年度のJC・JK流行語大賞をみても、韓国に関するキーワードが突出して多かったわけでもない8。しかし、韓国のプチプラのコスメやファッションなどは若者からの支持を受け続け、お洒落やファッションに興味があるJC・JKにとって新大久保は美容と親和性の高い街として認知されていくこととなる。元々若者の流行は原宿発祥のモノが多かったように思われるが、何か新しいモノを求めて新大久保へと向かうという消費文化が若者の間で定着していったのである。そして2020年以降の我々は、新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の事態の只中にあるわけだが、ステイホーム中のエンターテインメントとして韓国コンテンツの存在感が増していくことになった。このステイホーム期間中の韓国コンテンツの人気が「第4次韓流ブーム」の始まりであった。2020年上半期のJC・JK流行語大賞9「モノ部門」をみると音楽プロデューサーJ.Y.パークによる「Nizi Project」や、牛乳の上にふわふわに泡立てたコーヒーがのった韓国で人気のドリンク「ダルゴナコーヒ―」、アジア圏を中心にNetflixのランキング上位を独占した「愛の不時着」がランクインしている。その他にも第92回アカデミー賞で作品賞など複数の賞を受賞した『パラサイト 半地下の家族』やBillboard Hot 100にて2週連続で1位を獲得したBTSの「Dynamite」が世界的に大ヒットした。2020年JC・JK流行語大賞(下半期)10と2021年上半期のJC・JK流行語大賞11をみると、突出して韓国に関するキーワードが多かったわけではないが、2021年下半期のJC・JK流行語大賞では韓国関連のワードの存在感が増している。
モノ部門1位の『Girls Planet 999(通称ガルプラ)』は2021年8月6日から10月22日まで放送されていた韓国の音楽専門チャンネルMnetによる日中韓ガールズグループオーディション番組で、応募総数約1万3000人の中から選出されたプロジェクト・グループであり、日中韓各地域33人、合計99人の中から9人のメンバーが「Kep1er」としてデビューが決まった。
モノ部門2位の『イカゲーム』は読者の中にもハマっている人がいるのではないだろうか。筆者の上司も絶賛ハマっているようで世代を問わず流行している韓国のサバイバルドラマシリーズである。若者においてもその人気は例外ではなく、韓国語のだるまさんが転んだに当たる「ムグンファ コッチ ピオッスムニダ」が学校で行われたり、ハロウィン期間にはイカゲームコスチュームが最も検索された仮装のキーワードの一つになるなど、人気コンテンツなのである。
モノ部門4位の「渡韓ごっこ」とは新型コロナの流行に伴い海外旅行ができなくなった若者の間で流行している消費行動で、日本にいながらにして韓国へ旅行した気分になれる行動をいう。例えば、
(1) 韓国っぽい場所へ行く。(自宅をそれらしく飾り付ける。韓国っぽく見えるホテルへ宿泊する。)
(2) 韓国フードを用意する。(ハングルの記載されたカップラーメンや韓国チキンなど)
(3) お揃いのパジャマを着る。(ホテルで楽しく夜を過ごしている感を演出するためのアイテム12)
といった消費行動によって「ごっこ」をよりリアルに演出しようとしているのである。
モノ部門5位の「トレカデコ」は好きな韓流アイドルや俳優のトレーディングカードをシールやペンでデコレーションする行為を指す。元々韓国の若者の間で流行していたようで、そのデコレーションした写真を「渡韓ごっこ」としてSNSに投稿する写真に紛れ込ませたり、食事と一緒に写真に写すなどして楽しむようである。
アプリ部門4位の「Qoo10」は韓国やアジアを中心とした海外の日用品や化粧品、衣料品や食品を販売している通販サイトである。前述した通り、若者の間で韓流ファッションやコスメが人気であることを背景に、低価格で簡単に韓国商品を購入できるという点が支持されている。特にコロナ禍ということもあり、外出に対して消極的な若者にとっては、通販という非対面チャネルで購入できるという点はメリットがある。一方で外出する機会が少ない中で「いつ購入した服を着用するのか?」という疑問が出るかもしれないが、人によってはTikTokの撮影時に同じ服を着用したくないと考える者もいるようで、投稿で一度着用した服が二度と被らないよう洋服を購入しているようである。SNSがインフルエンサーやユーチューバーとしての芸能界への入り口になり得る現代において、SNS上でのセルフブランディングは彼女たちの大きな関心事でなのである。また、モノ部門4位の「渡韓ごっこ」と併せていえることは、コロナ禍で外出できないからせめて、行った気分になりたい、画面の中だけでも着飾りたいという、コロナ禍の生活様式に合わせた消費文化が若者の間で根付いて(適応して)きているという点である。
最後にアプリ部門5位の「UNIVERSE」であるが、韓国のアイドルのMVやLIVE、非公開映像等を日本語字幕付きで視聴できるアプリのことである。以上7つの流行語を簡単に解説したが、2021年下半期において、若者の多くが韓国文化の影響を大きく受けていた、ということがおわかりいただけたのではないだろうか。以前は原宿発のように一か所の拠点を中心に流行が各地へ伝わっていったが、SNSの普及により「SNSで流行っている=流行の発祥」となることが増えたように感じる。また、以前は韓国で流行っていたものが後追いで日本で流行するというケースが多かったが、UNIVERSEやYouTubeなどのSNSのおかげでタイムラグなしで、韓国の若者の日常を知ることができ、現地とほぼ同じタイミングでトレンドが消費されているようにも思われる。特に「ガルプラ」は日中韓3か国を巻き込んで行われていたこともあり、流行の規模が1か国単位ではなくアジアという大きな括りの中で行われた。コロナ禍において人々の生活様式は変化し、行動が制限されたことで、特に若者においては、自身が消費する行動(経験)や実体験よりもSNSにおける他人の投稿(疑似体験)やコンテンツからエンターテインメントへの欲求を充足する消費文化が浸透しつつある。言い換えれば人々は何か面白いモノをSNS上で探究し続けており、そのニーズを充足するかのように、昨今のSNSでバズるコンテンツの多くはボーダレスで、わかりやすく、画一化を意識して製作されている。国籍や年齢層関係なく楽しめるコンテンツがより好まれるようになったことで、SNSの利用頻度が高く、発信力も高い若者層で流行していくトレンドは、今後特定の年齢層や特定の地域だけで消費されていくのではなく、今よりも益々大きく、国際的な規模に拡大して消費が行われていくと筆者は考える。
2 各語の詳しい意味に関しては株式会社AMFの発表したプレスリリースを参照されたい
3 朴 倧玄(2012)「深韓流 -韓流の語源と韓流文化の考察-」深韓流からみた韓国事情 第 12 回 東アジアへの視点 : 北九州発アジア情報 23(3), 55-66, 国際東アジア研究センター.
http://shiten.agi.or.jp/shiten/201209/shiten201209_55-66.pdf
4 KDDI総研R&A「「韓流」にみる韓国のコンテンツ振興政策」2005/02
https://rp.kddi-research.jp/download/report/RA2005011
5 金 延景(2016)「東京都新宿区大久保地区における韓国系ビジネスの機能変容 経営者のエスニック戦略に着目して」『地理学評論』, 166‒182. https://www.jstage.jst.go.jp/article/grj/89/4/89_166/_pdf
6 中川 雅博「「韓国LCC」が日本の空に殺到する理由 関空、成田、福岡は毎日「韓国行き」だらけ」東洋経済ONLINE 2016/11/11 https://toyokeizai.net/articles/-/144618
7 山田 稔「女子高生が竹下通りから新大久保に流れるワケ 原宿では歴史がある雑貨店など閉店が相次ぐ」東洋経済ONLINE 2020/11/09 https://toyokeizai.net/articles/-/386569?page=5
8 韓国人YouTuberの動画からブームに火のついた「ハンドクラップダンス」や韓国の人気サバイバルオーディション番組の日本版「PRODUCE101 JAPAN」がランクイン
9 JC・JK流行語大賞2020年上半期を発表 「◯◯しか勝たん」「ぴえんこえてぱおん」がランクイン!2020/06/30 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000017469.html
10 JC・JK流行語大賞2020を発表 「きゅんです」「ぴえんヶ丘どすこい之助」がランクイン!2020/11/30 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000016.000017469.html
11 JC・JK流行語大賞2021上半期を発表「はにゃ?」「アセアセ」「地球グミ」がランクイン!2021/06/30 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000017469.html
12 若者の間で韓国のパジャマが人気なことも要因にあると筆者は考える
(2021年12月15日「基礎研レポート」)
03-3512-1776
- 【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
ニッセイ基礎研究所入社
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員
【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会
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