コラム
2021年12月15日

韓国の新規感染者数が7日連続で5000人超え-新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす世代間の対立と宗教間の対立-

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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韓国では、新型コロナウイルスの感染拡大と共に世代間と宗教間の対立が深刻化している。12月7日の1日あたりの新規感染者数は7,174人で過去最高を記録した。その後も感染は収まらず12月14日(0時基準)まで7日連続で新規感染者数が5,000人を超えた。
韓国における1日当たりの新規感染者数と累積感染者数の推移
日本と異なり韓国で新規感染者が増加している理由として、筆者は(1)韓国では新型コロナウイルスのワクチンの接種者のうち、アストラゼネカ社製やヤンセンファーマ社製(ヤンセンファーマ は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの医療用医薬品部門)のワクチン接種者が多いこと、(2)韓国政府が、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために続けてきた厳しい行動制限を大きく緩和したこと、(3)ソウルを中心とする首都圏の気温が日本より低いことを挙げた1
 
韓国政府は新型コロナウイルスのさらなる拡大を防ぐため、今後(1)ファイザー製やモデルナ製のワクチンを中心に日本より早く11月から始まった3回目の接種率(12月14日現在13.9%)2を増やすことと、(2)飲食店の営業時間の制限など規制を強化する、方針である。
 
韓国政府が12月3日に発表した、新型コロナウイルス特別防疫対策の主な内容は次の通りである。
 
・特別防疫対策の期間:2021年12月6日~2022年1月2日(感染者数増加の状況により期間が延長される可能性もある)
 
・私的な集まりの人数制限:ワクチン接種の有無にかかわらず首都圏では最大10人、非首都圏では最大12人としていた私的な集まりの人数を首都圏では最大6人、非首都圏では最大8人まで制限する(但し、同居家族と要保護者(児童・高齢者・障害者など)などの既存の例外範囲は維持される)。
 
・防疫パス義務(ワクチン接種証明・陰性確認)適用施設の拡大:防疫パス義務適用施設を既存の5種から16種に変更した。これらの施設を利用するには、ワクチン接種完了日から14日が過ぎたことの接種証明書、または遺伝子分析(PCR)陰性確認書が必要だ。12~18歳の接種完了者は、2022年2月1日から防疫パスが適用される。今後、防疫パスの有効期限が6カ月になった場合、6カ月ごとに新型コロナウイルスのワクチンを追加接種することが定例化される可能性が高い。
防疫パス義務(ワクチン接種証明・陰性確認)適用施設
新型コロナウイルスの感染が拡大する中で世代間の対立に続き、宗教間の対立も広がろうとしている。韓国社会における世代区分は、大きく(1)ベビーブーム世代(1955年~1963年生まれ)、(2)386世代(1960年代生まれ)、(3)X世代(1970年代生まれ)、(4)Y世代(1980年~1995年生まれ、ミレニアル世代ともいう)、(5)Z世代(1996年~2012年生まれ)に区分することができる。その中で世代間の対立は主に386世代とそれ以降に生まれた世代、そして若者世代や高齢者世代を中心に発生している。
 
386世代とは、1990年代に年齢が30代で、1980年代に大学生活を送り民主化運動に関わった1960年代に生まれた者を指しており(30代、80年代、60年代の3,8,6を取って386世代と称する)、現在はほぼ50代になったことで、最近では586世代とも呼ばれている。
 
韓国社会の中心とも言える386世代は、政治や経済に与える影響力においてX世代やY世代を大きく上回っている。1960年代生まれの386世代は、1970年代末~1980年代に大学に入学した。当時の高校卒業生の大学進学率は3割を少し上回っていたので、約7割が大学に進学する今とは大学生の存在感が大きく異なる。
 
386世代は学業より学生運動や民主化運動に重きを置いたにもかかわらず、大きな問題なく労働市場に加わることができた。だが、1997年に起きたアジア通貨危機により状況は急変した。ウォンが暴落し、金利が急激に上昇すると企業倒産が相次き、街には失業者が溢れた。アジア通貨危機の影響はX世代やその後のY世代、そして最近のZ世代まで及んでいる。卒業すれば正規職が当たり前だった386世代とは異なり、X世代やY世代、そしてZ世代の多くは非正規職として労働市場に参加した。その結果、386世代との間で所得格差が発生し対立が広がった。
 
さらに、このような状況の中で新型コロナウイルスが発生し、若者と高齢者それぞれが原因で集団感染が起きたことにより、両者の間の対立が激しくなっている。先に集団感染の原因となったのは若者である。彼らは密閉された居酒屋やクラブ等に出入りし、酒を飲んだり、踊ったりしていた。そしてマスクを着用せず、社会的な距離を確保しなかった結果、2020年5月6日に梨泰院のクラブ等で集団感染が発生し、感染が広がった。
 
梨泰院の集団感染が発生してから3カ月が過ぎた頃、今度は高齢者の間で集団感染が発生した。高齢者が多く参加する複数の保守系団体は、2020年8月15日にソウルの光化門広場で文在寅大統領の退陣を要求する集会に参加した。人と人の間の距離は近く飛沫感染のリスクが高かったものの、数万人の参加者は声を高め、文在寅政権を批判した。その結果、感染は全国に広がり始めた。
 
高齢者は若者を「生意気だ」と非難する一方、若者は高齢者を「コンデ」と呼んで非難し始めた。韓国語でコンデとは、「自身の経験を一般化して若者に考えや行動などを一方的に強要したり、自分の若い頃の自慢話ばかりをしたり、なんでも経験して分かっているように語る高齢者世代(広くは中高年世代)」を意味している。
 
新型コロナウイルスの感染拡大により、宗教間の対立も広がろうとしている。韓国における最初の感染拡大は、新興宗教団体「新天地イエス教」が原因であった(2020年2月18日)。つまり、韓国における31人目の感染者(当時61歳、女性)が韓国の南東部の大邱広域市にある新興宗教団体「新天地イエス教」の「新天地イエス教大邱教会」を訪ねてから感染が広がった。
 
そして、2020年8月15日には保守系のプロテスタント教会「サラン第一教会」を中心に感染が広がった。「サラン第一教会」は、教会を率いるチョン・グァンフン牧師が文政権に反対する等強烈な政治活動をしており、「保守系の極右教会」というレッテルが貼られている教会である。「サラン第一教会」の信徒の多くは、政府の防疫対策を守らず、文在寅大統領の退陣を要求する集会に参加し、政府からの検査要求にも応じなかった。
 
その後も多くのプロテスタント教会で礼拝や集まりが原因で集団感染が続々と発生しており、それに対する世間の眼は未だに冷たい。さらに、2021年11月24日、韓国でオミクロン株が最初に確認された感染者も仁川(インチョン)に位置する信徒2万人の大型教会の牧師夫妻であった。 
 
ナイジェリアから帰国した夫妻は、空港に出迎えに来た信者の車で自宅に戻ったものの、彼に迷惑をかけたくないと思い、防疫当局には空港から防疫タクシーを利用して自宅に戻ってきたと、虚偽の報告をした。更に彼らはオミクロン感染が確定するまでの5日間、教会など地域社会を歩きまわり、その結果、同じ教会の信者や家族などにオミクロン株の感染が広がった。
 
韓国キリスト教社会問題研究院がまとめた資料によると、2020年5月1日から2021年2月24日まで宗教施設で発生した集団感染54件(感染者数7,866人)のうち、プロテスタント教会で発生した件数は51件(同2,953人)で、全体発生件数の約95%を占めている。非難がプロテスタントに集中している理由がうかがえる3
 
さらに、今後も礼拝等によりプロテスタント教会で集団感染が発生し続けると、プロテスタント教会に対する非難が高まり、宗教間の対立がさらに拡大する可能性が高い。以前からの地域間の対立、世代間の対立、男女間の対立等に続き宗教間の対立が拡大すると韓国社会はさらに分裂することになる。
 
来年の大統領選挙の最大のポイントは、韓国社会に広がりつつある多様な「対立」をどう解決するかにある。与野党の候補は相手の誹謗中傷だけに時間を浪費せず、韓国社会に拡大している様々な「対立」を解決するための対策を講じる必要がある。それこそが韓国を危機から救う良策であり、次のリーダになる条件であるだろう4
 
1 詳細は「韓国の新規感染者数が初の4000人超え-なぜ、韓国では新規感染者数が増加し続けているのか?」研究員の眼、2021年11月26日を参照すること。
2 新型コロナワクチンの接種率 → 1次:83.8%、2次:81.3%(12月14日0時基準)
3 世論調査会社「韓国ギャラップ」が2021年3月から4月まで実施したアンケート調査によると、2021年現在韓国で宗教を信仰する人の割合は40%で、2004年の54%より大きく低下した。宗教を信仰する人の分布をみると、「プロテスタント」が17%で、仏教(16%)とカトリック(6%)を上回っている。
4 本稿は、「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす世代間の対立と宗教間の対立激化」ニューズウィーク日本版 2021 年 12月11日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/12/37000.php
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
労働経済学、社会保障論、日・韓における社会政策や経済の比較分析

(2021年12月15日「研究員の眼」)

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