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インド経済の見通し~感染第2波からの経済回復が続くも、オミクロン株の流行が下振れリスクに(2021年度+9.3%、2022年度+7.6%)

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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経済概況:デルタ株の感染の勢いが弱まり、4期連続のプラス成長を記録

7-9月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が同+8.6%(前期:同+19.3%)、総固定資本形成が同+11.0%(前期:同+55.3%)と鈍化した一方、政府消費は同+8.7%(前期:同▲4.8%)とプラスとなった。
外需は、輸出が同+19.6%(前期:同+39.1%)、輸入が同+40.6%(前期:同+60.2%)となり、それぞれ大幅な伸びが続いた結果、純輸出の成長率寄与度は▲4.4%ポイント(前期:▲3.6%ポイント)とマイナス幅が拡大した。
7-9月期の高成長は、活動制限措置が緩和されたことによる影響が大きいとみられる。インドでは、感染第2波が5月上旬に1日当たり40万人もの感染者数を記録して深刻な医療崩壊が生じたが、その後は急速に感染状況が改善したため、政府は6~9月にかけて段階的に活動制限措置の解除を進めた(図表2)。このため、7-9月期は経済活動にかかるブレーキが和らぐこととなり、民間消費と投資が持ち直した。Googleが提供するCOVID-19コミュニティモビリティレポートによると、小売・娯楽関連施設への人流は今年7-9月期の平均が約2割減(コロナ前との対比)となり、引き続き減少したままだが、昨年7-9月期や今年4-6月期の5割減と比べると大きく改善している(図表3)。このように7-9月期の実質GDPは見かけ上、高い伸びを記録した4-6月期と比べて成長率は低下したが、前期比では+10.3%となった。
需要項目別に見ると、民間消費(同+8.6%)と総固定資本形成(同+11.0%)、政府消費(同+8.7%)、輸出(同+19.6%)がそれぞれ高い伸びとなった。コロナ禍前(2019年10-12月期)の水準と比べると、民間消費が1割ほど低い水準にとどまっているが、政府消費と総固定資本形成が同水準、輸出が2割ほど高い水準にあり、引き続き世界経済の回復による輸出拡大がインド経済の追い風となっているようだ。

産業部門別に見ると、第一次産業は同+4.5%(前期:同+4.5%)と堅調に拡大した。農業部門はコロナ禍でもプラス成長を続けている。
第二次産業は同+6.9%(前期:同+46.1%)と低下した。製造業が同+5.5%(前期:同+49.6%)、建設業が同+7.5%(前期:同+68.3%)、電気・ガスが同+8.9%(前期:同+14.3%)となり、それぞれ伸びが一桁台まで鈍化した。鉱業は同+15.4%と二桁成長が続いた。
第三次産業は同+10.2%増(前期:同+11.4%増)と好調を維持、国内各地の活動制限措置が徐々に解除されたことがサービス業の高成長に繋がった。商業・ホテル・運輸・通信が同+8.2%(前期:同+34.3%)、行政・国防が同+17.4%(前期:同+5.8%)、金融・不動産が同+7.8%(前期:同+3.7%増)となり、それぞれ堅調に拡大した。
1 11月30日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2021年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
経済見通し:新たな変異株の感染拡大による下振れリスクはあるが、経済活動再開で回復へ
来年も新型コロナウイルスの感染動向と、国内各地で実施される活動制限措置によって経済活動が大きく左右される状況が続くだろう。しかし、インド政府は感染封じ込めと経済活動の正常化を狙っており、ワクチンが普及するにつれて回復が遅れていた対面型サービス業が持ち直し、経済活動の安定感が増すとみられる。また国内外の需要拡大を受けて製造業は引き続き経済成長の牽引役となるほか、政府は経済再生を優先して道路や鉄道、農村開発などのインフラ整備を拡大させていることは、景気の追い風となりそうだ。
最近発見された新型コロナウイルスの新たな変異株(オミクロン株)が流行する場合には、国内各地で感染防止を目的とした活動制限措置が再び厳格化され、インド経済にブレーキがかかるだろう。足元では感染状況の改善するにつれて人流が増加し、社会的距離の確保やマスク着用・手指消毒などの感染対策への意識が下がりやすくなっているため、今後数ヵ月でオミクロン株の市中感染により第3波が到来する恐れがある。インドのワクチン接種は先進国より遅れながらも着実に進んでいるが(直近の完全接種率は約3割)、オミクロン株には現在使われているワクチンが効きにくい可能性が示唆されており、先行き不透明感が高まっている。
実質GDPは、前年度が低水準だったことによる反動増により21年度の成長率が前年度比+9.3%(20年度の同▲7.3%)に急上昇し、経済再開が更に進む22年度が同+7.6%と高めの成長が続くと予想する(図表6)。
(物価の動向)原油高や内需回復により高めの水準で推移、変異株流行なら一時的な下振れも

先行きのインフレ率は、当面は原油高の影響が輸送費や光熱費に加え、食料品や日用品などにも波及するだろうが、平年並みの降水量が得られた雨期作で良好な収穫が見込めるため、次第に食品価格の上昇が抑制され、横ばい圏の推移にとどまると予想する。その後はワクチン接種の進展に伴い国内需要の回復が加速すること、また輸入急増に伴う経常収支の悪化によってルピー安が進み、輸入インフレが物価の押し上げ要因となるだろう。しかし、世界的な供給網の改善や来年度に予想される利上げなどによって持続的な物価上昇には至らず、インフレ率は物価目標の中央値をやや上回る水準で推移するとみられる。また新型コロナウイルスの変異株の流行により、再び国内で活動制限措置が厳格化された場合にはインフレ率が一時的に下振れる展開も予想される。結果として、インフレ率は高水準の続いた20年度の+6.6%から21年度が+4.6%まで低下し、22年度は+5.3%まで上昇すると予想する。
(金融政策の動向)来年前半まで金利据え置きを予想

先行きは、RBIが来年前半まで政策金利を据え置くと予想する。当面は経済の本格的な回復が見込めず、インフレ率は目標圏内に収まると予想され、緩和的な金融政策が維持されるだろう。しかし、来年は内需の回復ペースが強まるなか、米金融政策のテーパリング終了によるルピー安を受けて輸入インフレのリスクが高まるため、年央から段階的な利上げを実施すると予想する。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年12月07日「基礎研レター」)

03-3512-1780
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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