2021年12月03日

2022年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1. トピック: 2022年はどんな年?金融市場のテーマと展望

師走に入り、今年も残すところ1カ月を切った。少々早いうえ、足元の市場不安定化によって年末の着地点も不透明ではあるものの、例年同様、今年の金融市場を振り返り、来年の市場のテーマと動向を展望したい。
(2021年の振り返り・・・株価・ドル円は内外の景気格差を反映)
まず、2021年のこれまでの市場の動きを振り返ると、日本株(日経平均株価)は年初27000円台前半でスタートした後、一進一退が続き、足元では28000円付近と年初を若干上回る水準にある。総じて上値の重い展開となった。
日米の株価指数 本来、日本株との連動性の高い米国株は同国でのコロナワクチン普及に伴う経済活動の再開や大規模な経済対策実施を受けた景気回復を反映する形で順調に上昇基調を続けた。こうした米株価の上昇が日本株の追い風になったものの、日本国内ではコロナ感染拡大に伴う医療崩壊を避けるための行動制限(緊急事態宣言など)が長引き、景気の低迷が続いたことが何より日本株の重荷になった。

また、国内では9月に自民党総裁選が実施されて岸田政権が発足し、直後の10月の衆議院選挙で自民党が絶対安定多数の議席を維持したが、政治への期待は大して盛り上がらず、外国人投資家による日本株買いも限定的に留まった。一方、近年、ETFを通じて日本株の最大の買い手となってきた日銀が3月の政策修正後に殆ど買わなくなったことも日本株低迷の一因となったとみられる。
なお、11月終盤以降は、コロナ変異株である「オミクロン株」の世界的拡大に対する懸念が急速に高まり、内外株価を押し下げている。
日米欧実質GDPの推移/外国人投資家の株買い越し額・日銀のETF買入れ額
一方、ドル円レートは年初103円台でスタートした後に円安ドル高が進み、先月下旬には一時115円台に到達した。その後オミクロン株拡大に伴うリスク回避の円買いが入ったことで、足元では113円台前半に下落しているが、それでも年初と比べると大幅な円安ドル高水準にある。

この円安進行の主因は、米国で景気回復と物価上昇が進んだことで、FRBによる金融政策正常化期待が高まったことだ。この結果、米国の長期金利が上昇し、低位に留まる日本の長期金利との間の金利差が拡大した。

また、今年は原油などの資源価格が大きく上昇したことで、資源をほぼ輸入に頼る日本の貿易赤字が拡大したこと、先月にかけて世界的に株価の上昇が進んだことでリスク選好的な円売りが入りやすかったことも円安進行に寄与した。この結果、通貨の総合的な強弱感を示す実効為替レートの年初からの動きを見ると、円の下落が突出している。
 
つまり、米株が上昇するなかで上値の重い展開となった日本株と、大幅に進んだ円安ドル高は「日米の景気格差を如実に反映したもの」と言える。
ドル円レートと米長期金利/名目実効為替レート(2021年)
2021年の日米国債利回り(直近まで) なお、年初の時点で0.0%台前半であった長期金利(10年国債利回り)は足元でも0.0%台半ばに留まっている。日銀による金利変動許容幅拡大観測によって、2月下旬から3月上旬にかけて0.1%台半ばまで上昇する局面があったものの、長続きしなかった。日銀は3月の政策修正の際に金利変動許容幅を実質的にやや拡大(±0.25%へ)したが、その後も低迷が続いている。

海外主要国では物価上昇率が上昇し、金融政策正常化期待を通じて金利上昇圧力となっているが、日本の場合は物価上昇の動きが相対的に乏しく、金融緩和の超長期化観測が揺るがないことが背景にある。
(2022年はどんな年?)
今月もまだ米国の債務上限問題や12月FOMCといった重要なイベントを残しているものの、来年2022年は金融市場にとってどのような年になるのだろうか?来年のスケジュールも確認しつつ、内外の主な注目材料を点検してみる。
2021年末~22年の主なスケジュール(見込み)
世界と日本のコロナ新規感染者数(100万人当たり) (1) 世界共通材料:コロナ禍の行方
まず、世界共通かつ何より重大なテーマは引き続き「コロナ禍の行方」となる。この行方次第で世界経済や主要国の金融政策が大きく左右されるためだ。

今年も多くの国で感染拡大がたびたび発生し、感染を抑制するための行動制限が採られた一方、欧米先進国ではワクチンの普及が早期に進んだことを受けて行動制限の緩和が進み、景気も回復に向かうなど、行動制限を巡って景気に大きな格差が生まれた。日本については、ワクチンの普及が欧米よりも遅れたうえ、容易に逼迫してしまう医療体制がネックとなり、秋にかけて断続的に行動制限を続けざるを得なかったことが景気の重荷になった。
そして、来年に向けてはコロナ禍を巡って期待ができる要素と不安を高める要素がそれぞれ存在している。

まず期待できる要素としては、先進国を中心に進められている(1)ワクチンの効果を高めるためのブースター接種(3回目の接種)、(2)感染拡大を抑えつつ経済活動を回すワクチンパスポート制度(ワクチン・検査パッケージ)の導入、そして、(3)在宅でのコロナ治療を可能とする経口薬の実用化などが挙げられる。

我が国でも新政権のもとでこれらの導入に向けた取り組みが進められているほか、他の先進国と比べた場合の課題となってきた医療体制整備に向けた取り組みも進められている。

これらがうまく機能すれば強い行動制限措置の導入が回避できることになり、経済活動再開を進めることが可能になることが期待される。
日本のコロナ対応の課題と対策
一方、不安を高める要素となるのは、新たな強力な変異種の拡大だ。既に直近では新たな変異株である「オミクロン株」が世界中で急速に拡大している。同株に関しては、まだその性質に不明な点が多いが、(1)強い感染力を持ち、(2)重症化率が高く、(3)既存のワクチンが効きづらいのであれば、事態は深刻になる。感染の拡大を食い止めるために、多くの国で再び強い行動制限が採られることになり、世界経済にとって強い逆風になる。

また、リスクはオミクロン株だけではない。変異は感染の繰り返しの中で生まれるため、世界中で感染が抑制されない限り、新たな強力な変異株が生まれる可能性は残る。
世界のコロナ感染者に占める変異株等の割合 なお、オミクロン株の拡大を受けて、現在、我が国も含めて多くの国でその流入を防ぐための水際対策(入国規制)が強化されているが、人流を完全に遮断することができない以上、侵入を防ぐことは難しい。現に、我が国も含めて、これまで世界におけるコロナ感染の主流が「従来株→アルファ株→デルタ株」と大きく塗り替わってきたことが、その事実を物語っている。

水際対策は、出来るだけ変異株の流入を遅らせることでワクチンをはじめとする対策を採る時間を稼ぎ、感染爆発を回避するための手段として位置付けられる。
(2) 海外材料
次に各国に目を転じると、海外では特に米国の材料が注目される。

1) 米利上げの行方
まず注目されるのはFRBの金融政策、具体的には利上げの行方だ。FRBは世界の中心的な中央銀行であるため、その動きは世界経済・金融市場に多大な影響を及ぼす。

FRBは雇用の最大化と物価の安定という2つの使命を負っているが、現在は消費者物価上昇率が前年比6%台と31年ぶりの伸びに達しており、インフレが景気の逆風となっている。今週の議会証言において、政権から再任の方針を示されているパウエル議長はインフレへの警戒姿勢を強め、先月から開始したテーパリング(量的緩和縮小)の加速を示唆した。テーパリングを早期に終了できれば、その分次のステップである利上げの時期を早めることが可能になる。
 
来年、FRBが利上げを進めることは、基本的には米金利の上昇を通じて円安ドル高要因になる。一方、日本株にとって円安は追い風になるものの、近年ではドル円レートと日本株の関係性が薄れている。むしろ、米国の利上げは米金利上昇を通じて米株の逆風となることで、日本株の上値を押さえる要因になる可能性が高い。
米雇用者数の回復度と物価上昇率/米政策金利の見通し(FRBとFF金利先物)
ただし、米国の来年の利上げは既に市場で織り込まれているため、市場の織り込みがどう変化していくかがドル円や日本株にとって重要なポイントになる。
2) 米中間選挙の行方
次に注目されるのが米中間選挙の行方だ。来年11月8日に実施され、議会下院の全議席と上院の1/3の議席が改選される。現在は民主党が大統領・上院過半数・下院過半数を占めるトリプルブルーの状況にあるが、上下院はギリギリ優勢を保っているにすぎない。
 
従来、中間選挙は大統領(が属する党)への批判票が集まりやすいとされ、上院か下院で、大統領と異なる政党が過半数を占める「ねじれ」が多く発生してきた。近年でも新大統領が就任する際(具体的には2008年・16年の大統領選後)にはねじれが一旦解消したが、その2年後の中間選挙でねじれが発生してきた。この点から言うと、来年の中間選挙では民主党が不利ということになる。
米議会勢力の状況/米大統領と議会の関係(ねじれの有無)
バイデン大統領の支持率(Real clear politics集計) さらに、現在は民主党に対する逆風が強まっている。それはバイデン政権に対する支持率の低下だ。1月の政権発足時には55%前後であったものが、じりじりと低下し、直近では42%となっている。8月に実施された米軍のアフガニスタン撤退が大混乱をもたらす事態となったほか、不法移民の急増やインフレが支持離れに繋がっているとみられる。
 
中間選挙において、民主党が上下院のいずれか若しくは両方で過半数を割り込む「ねじれ」が発生した場合、バイデン政権の政権運営は厳しさを増すことになる。予算が絡む政策は共和党の反対で実現が困難になるうえ、上院を落とした場合には人事や条約の承認も難しくなるためだ。この場合、政治の停滞が経済の重荷になる可能性が高い。

また、バイデン政権がレームダックに陥ることで2024年大統領選での再選が見通せなくなり、米国の政治・経済の先行き不透明感も強まるだろう。
(3) 国内材料:参議院選挙の行方
国内では、参議院選挙の行方が注目される。7月頃に実施され、議席の半数が改選対象になる。

現在は与党である自民・公明党が過半数を占めているが、仮に、与党が過半数を割り込んで「ねじれ」が発生する場合には、米国の例と同様、政権運営に様々な支障が出ることになる。なぜなら、現在与党が過半を占めている衆議院の優越規定が適用されるのは予算と条約の承認、首相指名のみであるためだ。仮に与党が衆議院で2/3以上の議席を有していれば、参議院で否決された法案の再可決も可能だが、現在の与党の議席数は2/3に達していない。従って、参議院選で与党が過半数を割り込めば、法案が成立しづらくなり、経済にとっても重荷になる。

与党は非改選議席数が野党よりもやや多いため、過半数獲得に向けては多少有利な面があるものの、今後夏にかけてのコロナ情勢・政権運営次第の面も否めない。
参議院の議席数(会派別)/参議院の議席数(改選対象)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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