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李在明候補の再分配政策は、基本所得(ベーシックインカム)、基本貸出、基本貯蓄が中心!
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
一方、11月4日には野党「国民の党」の安哲秀(59歳、アン・チョルス)党代表が来年の大統領候補に選出された(単独出馬、賛成92.18%、反対7.82%)。そして11月5日には保守系最大野党「国民の力」の公認候補に尹錫悦(ユン・ソクヨル)元検察総長(60歳)が選ばれた。尹錫悦氏の累計得票率は約47.9%で、2017年の前回大統領選にも出馬した国会議員の洪準杓(67歳、ホン・ジュンピョ)氏(66)の41.5%を上回った。
今後大きな異変がない限り、この3人のうち一人、より正確に言うと「共に民主党」の李在明氏と「国民の力」の尹錫悦氏のうちいずれかが韓国の第20代大統領になる可能性が高い。韓国社会世論研究所が11月8日に発表した世論調査の結果によると、尹錫悦氏と李在明氏の支持率はそれぞれ43.0%と31.2%で、他の候補の支持率を大きく上回った(安哲秀氏:4.7%、正義党の沈相奵氏(62歳、シム・サンジョン、正義党の元党代表): 3.7%、金東ヨン氏(64歳、キム・ドンヨン、前経済副首相):1.4%)。
また、世論調査会社リアルメーターが9日に発表した調査結果でも尹錫悦氏が46.2%、李在明氏が34.2%と2強の構図になっている(安哲秀氏は4.3%、沈相奵氏は3.7%)。
そこで、本コラムでは、李在明氏と尹錫悦氏を中心に各候補の主な選挙公約と来年3月の選挙前後の韓国情勢を連続して紹介していく。今回はまず最も注目度が高い李在明氏の再分配政策の一部を紹介したい。
「共に民主党」の李在明氏の代表的な分配政策は言うまでもなく基本所得(ベーシックインカム、以下、基本所得)だ。彼は、2020年6月20日に出演したテレビ番組(MBC、100分討論)で、2020年5月に新型コロナウイルス感染症に関連して支給された緊急災難支援金により、消費が増え伝統市場を含めた地域経済が活性化したことを成功例として挙げながら、基本所得の導入の必要性を強調した
彼は京畿道の城南市長として在任していた2016年に城南市に居住している満24歳のすべての若者に四半期ごとに地域通貨で25万ウォン(約23,932円、為替レートは2021年11月9日の1ウォン=0.095728円、以下同じ)を年4回(計100万ウォン、約95,728円)「青年配当」という名前で支給した。また、2018年6月に京畿道知事に当選した彼は、2019年から京畿道の24歳のすべての若者に「青年基本手当」を支給する政策を行った。さらに2020年5月には新型コロナウイルス感染症に対する緊急経済対策として、京畿道に居住しているすべての人(外国人を含む)に一人当たり10万ウォン(約9,573円)の第1次災難支援所得を支給した。
彼は、番組で今後、「青年基本手当」の適用対象を京畿道のすべての住民を対象に拡大した後、将来的には韓国国内のすべての人々に定期的に一定金額の手当を支給したいという意向を明らかにした。具体的には最初は1年に2回程度、すべての国民に一定金額を支給した後、段階的に支給回数や支給金額を増やし、将来(10~15年後)には増税分を財源に一人当たり実質1月50万ウォン(約47,864円)程度の基本所得を支給することが望ましいと主張した。2019年の人口約5200万人を基準に計算すると、基本所得を導入するための必要財源は年間312兆ウォン(約29.9兆円)にのぼる。この金額は韓国政府の2021年予算558兆ウォン(約53.4兆円)の約56%に相当する規模である。
李在明氏は、基本所得を実現するために次々と関連政策を実施しており、2021年2月には京畿道に居住しているすべての人(外国人を含む)を対象に一人当たり10万ウォン(約9,573円)のコロナ関連第2次災難支援所得を支給した。さらに2021年10月には韓国政府の5回目の災難支援金(コロナ相生1国民支援金、所得下位88%の韓国国民に1人当たり25万ウォン、約23,932円)が受給できなかった人に1人当たり25万ウォンを支給する第3次災難支援所得の申請を受け付けた。
李在明氏は2021年6月5日、自身のFacebookに「大韓民国は福祉後進国だ。(中略)基本所得の導入は福祉先進国ほど難しく、大韓民国のような福祉後進国で導入することがより簡単だ」との意見を示した。
但し、彼の主張に対しては野党のみならず、与党からも批判の声が高い。その内容は次の通りだ。
- 野党「国民の力」の劉承旼(ユ・スンミン、63歳)前国会議員:「福祉予算で200兆ウォンを使う大韓民国が福祉後進国?李知事の考えが後進的だ」
- 野党「国民の力」の元喜龍(ウォン・ヒリョン、57歳)前済州島知事:「基本所得の概念も分からない李知事が基本所得に固執するのは、若者と庶民の挫折を食べて暮らす寄生虫と何が違うのか」
- 与党「共に民主党」の丁世均(チョン・セギュン、71歳)元国務総理:「李知事が主張する基本所得は基本所得の基本要件も揃えておらず、自分の主張を広げるための根拠として引用した学者らの主張までも歪曲した。ノーベル経済学賞を受賞したアビジット・ヴィナヤック・バナジー教授がベーシックインカムの必要性を主張したことは正しいが、彼の主張は福祉行政力を揃えることが難しい貧しい国で有用という意味で、先進国では普遍的基本所得よりは選別的財政支援が適切であるという趣旨だ」
- 与党「共に民主党」の李洛淵元国務総理:「金持ちと貧しい人に同じお金を渡すことは、両極化の緩和に役に立たない」
このような非難があったからか、李在明氏は最近、基本所得の導入に関する発言の頻度を減らし、大統領選挙の公約として、2024年以降19~29歳の若者に一人当たり年間200万ウォン(約191,456円)を、19~29歳の若者以外の全国民に一人当たり年間100万ウォン(約95,728円)を支給することを掲げている。
さらに、李在明氏は全国民を対象に長期間(10年~20年)にわたり、最大1000万ウォンまで低金利でお金が借りられる「基本貸出」と、500万ウォンから1000万ウォンまでの金利を一般預金金利より高く適用する「基本貯蓄」等を実施し、格差解消と所得再分配を実現すると表明した。
李在明氏は10月19日に「共に民主党」に約500頁の「分野別公約集」を提出しているが、まだその詳細は公表されていない。基本所得(ベーシックインカム)、基本貸出、基本貯蓄以外に、格差の解消や所得再分配のためにどのような具体策が含まれているのか、公約集の内容が気になるところだ3。
1 物価の変動の影響を取り除いて
2 二人以上がお互いを励まして協力しながら過ごすという意味
3 本稿は、「李在明候補の格差是正策は、ベーシックインカムにとどまらない」ニューズウィーク日本版 2021 年 11 月9日に掲載されたものを加筆・修正したものである。
https://www.newsweekjapan.jp/kim_m/2021/11/post-46.php
(2021年11月11日「研究員の眼」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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