2021年11月10日

共同富裕に舵を切った中国-文化大革命に逆戻りし経済発展が止まるのか?

三尾 幸吉郎

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■要旨
 
  • 習近平政権が「共同富裕(皆が共に豊かになる)」の実現に向けて自由を制限し、統制を強化する動きを強めている。そして文化大革命を発動した毛沢東が唱え始めた共同富裕に動き出したことで、文化大革命へ逆戻りするのではないかとの懸念が浮上している。それでは本当に文化大革命に逆戻りしてしまうのだろうか。また共同富裕に向かうことで中国経済はどんな影響を受けるのだろうか。
     
  • 改革開放前の中国では、共同富裕を最優先する毛沢東らと経済発展を最優先する鄧小平らが対立し、それが文化大革命の原因でもあった。毛沢東死後もその対立は続いたが、鄧小平が「先富論(一部の地域や一部の人々が先に富みを得てもよく、あとで他の地域や他の人々を助けて、徐々に共同富裕に到達することにしよう)」を唱えて共同富裕を棚上げしたことで、中国は経済発展の道を歩み始め世界第2位の経済大国となった。
     
  • 習近平政権における共同富裕の位置づけを公式文書などから読み解くと、[1] 現在を社会主義初級段階と認識している点、[2] 画一的な平均主義を明確に否定している点、[3] 共同富裕を長期目標としている点から見て、毛沢東よりも鄧小平の位置づけに近いと考えられる。共同富裕モデル区を浙江省に設けて段階的に展開しようとしている点も、経済特区を沿海部に設けて先に豊かになることを許した鄧小平のスタンスに近い。
     
  • 文化大革命に逆戻りする可能性を考えると、[1]習近平政権の共同富裕に対する考え方が毛沢東のそれよりも鄧小平のそれに近いこと、[2] 最近の統制強化の動きは「改革を全面的に深化させる」ための措置の一環と考えられること、[3] 習近平の政権基盤は既に固まっており階級闘争を呼びかける動機がないことの3点から、その可能性は低いと考えられる。
     
  • 中国経済に与える影響を考える上では、[1] 共同富裕に向かうスピード、[2] 貧富の格差をどの程度まで縮めるか、[3] 第1次分配、再分配、第3次分配に関する具体的な制度設計の3点がポイントとなる。過大な労働分配率の引上げを性急に行なえば企業は疲弊するし、不動産税や相続税を急ぎ過ぎれば不動産バブルが崩壊する恐れがある。一方、適時適切な労働分配率の引上げや個人所得税の累進性は、中間層を育て個人消費を盛り上げる。
     
  • 今後の経済見通しとしては、世間並みでごく普通な成長率(一人当たりGDPで第2分位に位置する国の平均的な成長率)に収束していく可能性が高い。改革開放後の中国では、極めて自由度の高い経済活動を許容し世界第2位の経済大国になったが、共同富裕を実現するためには、統制を強化して自由だった経済活動に制限を加えることが必要となるからだ。但し、「実事求是」や「漠着石頭過河」が根付いおり、盲目的に共同富裕に邁進するとは考えにくく、経済発展が止まるようなことにはならないと考えている。


■目次

1――問題の所在
2――習近平政権が誕生する前の「共同富裕」
  1|「共同富裕」と「4つの近代化」の対立
  2|「共同富裕」から「4つの近代化≒改革開放」へ
  3|鄧小平の後継者たち(江沢民、胡錦涛)と「共同富裕」
3――習近平政権が目指す「共同富裕」の方向性
  1|習近平政権における「共同富裕」の位置づけ
  2|「共同富裕」の実現に向けた習近平政権の具体策
4――結語
  1|文化大革命に逆戻りすることはないのか?
  2|「共同富裕」が中国経済に与える影響
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