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- 英国金融政策(11月MPC)-今後数か月での利上げが必要と判断
2021年11月05日
1.結果の概要:金融政策の変更なし
11月2日、英中央銀行のイングランド銀行(BOE:Bank of England)は金融政策委員会(MPC:Monetary Policy Committee)を開催し、4日に金融政策の方針を公表した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利を0.1%で維持(変更なし)
・国債および投資適格級社債を総額8950億ポンドまで購入する(変更なし)
【議事要旨(趣旨)】
・GDP成長率見通しは、2021年7%、22年5%、23年1.5%、24年1%で8月より下方修正
・CPIインフレ率は、22年4月にはピークの5%程度に達した後、来年下半期にはかなり低下すると予想する(8月見通しより上方修正)
・11月見通しに沿えば、今後数か月(over coming months)での政策金利の引き上げが必要
2.金融政策の評価:今後数か月での利上げが必要と判断
イングランド銀行の今回のMPCでは、金融政策の変更はなかった。
景気判断では、11月のMPR(金融政策報告書)を公表、成長率については前回のMPRが作成された8月時点より若干下方修正し、コロナ禍前の水準に回復する時期を22年1-3月期とやや後倒ししている。一方で、インフレ率については上方修正しており、MPCでも賃金伸び率のリスクが上方に傾いているとの判断を示した。
今回のMPRでは、22年後半にインフレ率が低下すると見込んでいるものの、インフレリスクについては、MPCメンバー内でも見方が様々であることが明らかになった。またMPRでも、中央見通しの前提として使われているエネルギー価格(直近の実績を利用し、高止まりが続く前提)と政策金利(市場見通しを利用し、年内に利上げが開始され来年には1%に到達する前提)にリスクがあると注意喚起しており、代替シナリオとしてエネルギー価格の低下(ガスの先物価格を利用)や、政策金利の据え置きを前提とした見通しを提示している。
金融政策の決定においては、高インフレに対応するために、今回のMPCでの利上げを予想する向きもあったが、資産購入策の継続も含めて現行政策を維持する決定だった。ただし、声明文において「今後数か月での政策金利引き上げが必要」と明記され、金融政策の正常化がかなり近いことが示唆された。
ベイリー総裁は、「高インフレは一時的」「金融政策では、供給問題を解決することはできない」と市場が織り込むような積極的な利上げを否定しつつ、「中期のインフレ期待を支えるには、政策金利の引き上げが求められる」「労働市場の動向が、引き上げの規模とペースを決める上で重要」とし、利上げ関する見解を示している。
今後のインフレ動向については、エネルギー価格に大きく左右され、ベイリー総裁も利上げで需要を必要以上に低下させることには慎重な姿勢を見せていることから、年内は資産購入策を予定通り終了させる一方で、積極的に利上げに踏み切ることはないだろうと思われる。来年以降、エネルギー価格や労働市場の動向を確認、雇用維持政策終了後の労働環境などを評価した上で利上げに踏み切るものと見られる。
景気判断では、11月のMPR(金融政策報告書)を公表、成長率については前回のMPRが作成された8月時点より若干下方修正し、コロナ禍前の水準に回復する時期を22年1-3月期とやや後倒ししている。一方で、インフレ率については上方修正しており、MPCでも賃金伸び率のリスクが上方に傾いているとの判断を示した。
今回のMPRでは、22年後半にインフレ率が低下すると見込んでいるものの、インフレリスクについては、MPCメンバー内でも見方が様々であることが明らかになった。またMPRでも、中央見通しの前提として使われているエネルギー価格(直近の実績を利用し、高止まりが続く前提)と政策金利(市場見通しを利用し、年内に利上げが開始され来年には1%に到達する前提)にリスクがあると注意喚起しており、代替シナリオとしてエネルギー価格の低下(ガスの先物価格を利用)や、政策金利の据え置きを前提とした見通しを提示している。
金融政策の決定においては、高インフレに対応するために、今回のMPCでの利上げを予想する向きもあったが、資産購入策の継続も含めて現行政策を維持する決定だった。ただし、声明文において「今後数か月での政策金利引き上げが必要」と明記され、金融政策の正常化がかなり近いことが示唆された。
ベイリー総裁は、「高インフレは一時的」「金融政策では、供給問題を解決することはできない」と市場が織り込むような積極的な利上げを否定しつつ、「中期のインフレ期待を支えるには、政策金利の引き上げが求められる」「労働市場の動向が、引き上げの規模とペースを決める上で重要」とし、利上げ関する見解を示している。
今後のインフレ動向については、エネルギー価格に大きく左右され、ベイリー総裁も利上げで需要を必要以上に低下させることには慎重な姿勢を見せていることから、年内は資産購入策を予定通り終了させる一方で、積極的に利上げに踏み切ることはないだろうと思われる。来年以降、エネルギー価格や労働市場の動向を確認、雇用維持政策終了後の労働環境などを評価した上で利上げに踏み切るものと見られる。
3.金融政策の方針
今回のMPCで発表された金融政策の概要は以下の通り。
1 今回の反対票はソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で、どちらも政策金利を0.15%引き上げ、0.25%にすることを主張した。前回は反対票がなかった。
2 今回の反対票はマン委員、ソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で、どちらも社債・国債の合計で8750億ポンド(200億ポンドの減額)を主張した。前回9月は7対2での決定(反対票はソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で社債・国債の合計で8600億ポンド(350億ポンドの減額)を主張)だった。
- MPCは、金融政策を2%のインフレ目標として設定し、経済成長と雇用を支援する
- 委員会は現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
- 政策金利(バンクレート)を0.1%で維持する(7対2で決定1、変更なし)
- 投資適格級の非金融機関社債で200億ポンド保有を維持する(全会一致で決定、変更なし)
- 国債を総額8750億ポンド購入する(6対3で決定2)
- 資産購入額の総額は8950億ポンドとなる
1 今回の反対票はソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で、どちらも政策金利を0.15%引き上げ、0.25%にすることを主張した。前回は反対票がなかった。
2 今回の反対票はマン委員、ソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で、どちらも社債・国債の合計で8750億ポンド(200億ポンドの減額)を主張した。前回9月は7対2での決定(反対票はソーンダース委員およびラムスデン委員(副総裁)で社債・国債の合計で8600億ポンド(350億ポンドの減額)を主張)だった。
- MPCは11月のMPR(金融政策報告書)で経済活動とインフレ率の中央見通しを更新した
- この見通しは資産・エネルギー価格について、10月27日までの15日間の平均価格とすることを前提としている
- また、政策金利は市場予測にもとづき、22年末までに1%近くまで上昇するとしている
- 卸売電力価格は6か月先までは先物価格を基準にして、それ以降は横ばいとしている
- これらの前提には重大なリスクが内在している
- 世界および英国のGDPは、8月の報告書の見通しも緩やかなペースではあるが、21年7-9月期に上昇した
- 成長率は供給網の混乱によりいくぶん抑制されている
- 世界的な財需要の急増とともに、いくつかの部門で供給制約(supply bottlenecks)が生じている
- また、英国の消費需要にも弱さの兆しが見られる
- 短期的には供給制約が成長の抑制材料となるものの、世界および英国はコロナ禍からの回復が続くと見られる
- 英国のGDPは22年1-3月期に19年10-12月期の水準を回復すると見られる
- 市場予測の政策金利を前提に、予測期間の後半にかけて、成長率は鈍化すると見られる
- 成長の鈍化は、潜在成長率のコロナ禍前の伸びへの回帰と、高水準にあるエネルギー価格や金融・財政政策による需要の伸びへの支援の縮小とともに起きるだろう
- 秋季予算案(Autumn Budget)と歳出計画(Spending Review 2021)において、政府は、今後数年にわたって、政府消費をやや高めでの推移させることを公表した
- 予測期間の終わりには生産力余剰(spare capacity)は解消すると見られる
- 労働力基準の失業率は6-8月平均で4.5%となり、歳入関税庁の給与所得者データは引き続き強い伸びを見せている
- 雇用維持政策が終了する9月末の直前時点で、100万人以上が一時休業していると見られ、8月の報告書での見通しよりもかなり多い
- それにも関わらず、人員整理解雇(redundancies)の増加の兆しは引き続きほとんどなく、求人数はさらに増加、採用が困難になっていることを示している
- 労働市場には、大きな不確実性があり、初期のデータは21年10-12月期の失業率が若干増加することを示唆している
- 賃金基調の伸び率は引き続きコロナ禍前のペースを上回っていると見られるが、11月の中央見通しでは、現在の(高い)伸び率からは低下すると予想している
- CPI前年比上昇率は8月の3.2%から9月には3.1%とやや低下した
- 主に卸売ガス価格急騰の公共料金への影響によって10月には4%近くまで上昇すると見られる
- CPIインフレ率は11月には4.5%まで上昇したのち、コア財や食料品のインフレによって冬の期間も同じ程度の水準で推移すると見られる。
- 卸売ガス価格は8月以降に急騰している
- CPIインフレ率は22年4月にはピークの5%程度に達すると見られ、これは8月見通しよりかなり高い
- 時間が経過し、供給制約が緩和、世界的な需要も調整(rebalance)され、エネルギー価格の上昇が止まれば、CPIインフレの上昇圧力は低下すると見られる
- 結果として、CPIインフレ率は来年下半期にはかなり低下すると予想する
- 市場予想の政策金利とMPCの現在のエネルギー価格の見通しを前提とすれば、先々2年間のCPIインフレ率は2%をやや上回り、予測期間の終わりは目標を下回ると見られる
- 11月の見通しでは、エネルギー価格が将来期間にわたって先物価格の通り推移するとの前提を置いた代替シナリオを公表しており、このシナリオでは、CPIインフレ率は中央見通しより早期に2%の目標に到達し、予測期間の後半では目標を大きく下回る
- MPCの責務は、英国の金融政策枠踏みにおける物価安定の優位(primacy)を反映して、常にインフレ目標の達成である
- この枠組みでは、ショックや混乱の結果、物価が目標から乖離する場合があることを認識する
- 最近の前例のない状況下で、経済は大きなショックを経験してきた
- 金融政策の変更がインフレ率に影響するまでに時間を要することも考慮し、適切な金融政策スタンスを判断するにあたっては、MPCは一時的な要因ではなく、常に中期的なインフレ期待を含む、中期的なインフレ見通しに焦点をあてる
- 最近の委員会では、中期的に2%インフレ目標で維持するには、見通し期間における若干の引き締めが必要である、と判断した
- その後の進展と委員会の見通しの更新は、この見解を補強する
- しかしながら、特に労働市場の見通しと国内のコスト・価格上昇圧力が中期的にどれだけ持続するのか、といった点に関して、短期的には不確実性が残る
- 委員会は今回の会合で、現行の金融姿勢を維持することが適当だと判断した
- 委員会は、最新のデータ、特に労働市場のデータが、広く11月のMPRに沿うことを前提に、CPIの持続的な2%の目標達成には今後数か月(over coming months)での政策金利の引き上げが必要であると判断した
- 委員会は、11月見通しにおいて使われている市場で観測の政策金利と今後の生産力余剰の余地を考えると、予測期間の終わりに2%を下回っているCPIインフレ率は、今後さらに低下するかもしれないことを補足する
- 今後数か月について、引き続き、いつものように委員会は中期のインフレ見通しに焦点をあてる
- 委員会は中期的な経済を取り巻く状況には、上下双方のリスクがあると判断しており、今後に明らかになる関連データに照らして、そのバランスを評価する
(2021年11月05日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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