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IMF世界経済見通し-回復傾向は続くものの、リスク要因も多い
経済研究部 主任研究員 高山 武士
1.内容の概要:21年は下方修正、22年は変更なし
2.内容の詳細:主要国は22年中にコロナ禍前の水準を回復
世界経済成長率は、21年の成長率が若干下方修正、22年の見通しは変更されなかった。21年の数値は先進国で下方修正(21年5.6→5.2%)されており、米国の供給混乱による在庫減や消費鈍化(21年7.0→6.0%)、ドイツでの部品不足による生産低迷(21年3.6→3.1%)、日本の感染拡大と緊急事態宣言延長(21年2.8→2.4%)などが背景にある。
新興国・途上国は21年の成長率でやや上昇修正(21年6.3→6.4%)された。中国での公共投資の予想以上の縮小(21年8.1→8.0%)やアジア新興国での感染拡大(例えばASEAN5で21年4.3→2.9%)は引き下げ要因だったか、商品価格の上昇を受けて一次産品輸出国で見通しが上方修正された(例えばロシアで21年4.4→4.7%)ことで、新興国・途上国全体では若干の改善となった。また、低所得国ではワクチン接種の遅れが回復の阻害要因となり、成長率が大きく引き下げられている(21年3.9→3.0%)。
低所得国での回復は相対的に遅れる見通しとなったが、主要国は概ね22年までにコロナ禍前の水準(19年の実質GDP水準)を回復する見通しとなった。7月時点ではイタリアや南アフリカで22年にコロナ禍前水準には届かない見通しとなっていたが、今回の見通しでは上方修正され、22年にはコロナ禍前の水準を回復すると予想されている(図表3・4)。
雇用については、IMFは回復ペースが経済(生産)の回復ペースと比べて遅れ、特に先進国よりも新興国・途上国、働き盛りの世代(prime age)や高技能労働者より若年層や低技能労働者における雇用減少が大きく、回復に時間を要する点を挙げている。実質GDP水準は2022年までに多くの国での回復が見込まれているが、雇用が2022年にコロナ禍前の水準を回復する国は、先進国でも新興国・途上国でも全体の3分の2程度にとどまると想定されている。
物価については、IMFは半導体不足にみられるような需給のミスマッチ、商品価格の上昇、政府による政策の効果(例えば、ドイツの一時的なVAT引き下げの終了や米国の家賃滞納者の立ち退き猶予期間の終了など)によって押し上げられているとしている。また、賃金については経済全体としては抑制傾向にあるが、米国の娯楽・接客業、小売業、輸送業など一部の国の特定部門で上昇圧力が生じている点にも言及している。
一方、IMFはベースラインの見通しとして、①求人数は増加しているが、労働市場の弛み(slack)は引き続き大きいこと②多くの先進国でインフレ期待の上昇が見られないこと③自動化などの構造変化が労働市場の弛みが解消されることにともなう価格への感応度を低下させていること、から22年中にはインフレ率はコロナ禍前の伸び率まで低下するとしている(前掲図表1)。
見通しに対するリスクとしては、依然として不確実性が高いことを喚起しており、成長率については下振れリスクが大きく、物価については上振れリスクが大きいと評価している。
IMFは具体的な下振れリスク要因として、「感染力や毒性の強い変異株の出現」「インフレ圧力の長期化と(それに伴う)金融政策の早期正常化」「金融市場の不安定化(コロナ禍の動向のほか、米国債務上限問題や中国不動産部門での債務不履行・再建問題など)」「米国財政支援策の縮小」「社会不安(アフガニスタンの混乱など)」「気候変動に関連した悪影響(自然災害・異常気象など)」「サイバー攻撃」「貿易・技術における緊張の高まり(地政学的リスク)」を挙げている。
一方、上振れリスク要因として「ワクチン生産と普及の迅速化」「生産性の向上」を指摘する。
さらにそれぞれのシナリオで「(1)-1米国の期待インフレ上昇(と政策対応)」「(1)-2さらに新興国のリスクプレミアム上昇」、および「(2)-1人流減少」「(2)-2構造変化(テレワーク推進などによるさらなる人流抑制)」と分類されており計4パターンの見通しを示している(図表6)。
世界の実質GDPへの悪影響では、インフレ期待の上昇と合わせて、新興国のリスクプレミアムも上昇するシナリオが最も大きく、ベースラインとの比較で2026年において1.25%ポイント程度GDPが押し下げられる(一方、新興国のリスクプレミアムが上昇しなければGDP影響は軽微にとどまる)。
この特集では、脱炭素移行に伴う低炭素技術(例えば、再生可能エネルギー、電気自動車、水素、二酸化炭素回収技術など)が化石燃料に比べてより多くの金属を必要とするため、供給力が需要に追い付かい場合、価格上昇圧力となる可能性について言及している。
特集では、銅、ニッケル、コバルト、リチウムを取り上げ、2050年の炭素排出量実質ゼロを目指すシナリオ(IEAの定めるネットゼロ排出シナリオ)のもと、ニッケル、コバルト、リチウムについては供給側のボトルネックによって価格が持続的に上昇するリスクがある一方、銅はこれらの金属と比べて相対的に価格上昇リスクが抑えられていると指摘している(図表7-10)。
1 同日に「深い分断が回復の足かせに(A Hobbled Recovery Along Entrenched Fault Lines)」との題名のブログも公表している。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2021年10月13日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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