2021年11月09日

成約データで見る東京都心部のオフィス市場動向(2021年上期)ーエリア別・業種別・ビルクラス別に見た「オフィス拡張移転DI」の動向

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.296]

金融研究部 准主任研究員   佐久間 誠

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1―オフィス拡張移転DIの低下にいったん歯止め

新型コロナウイルス感染拡大の影響によりオフィス市況は調整局面に入り、不透明感の強い状況が続いている。そこで本稿では、オフィス拡張移転DIをもとに、企業のオフィス移転動向を確認する。オフィス拡張移転DIは三幸エステートとニッセイ基礎研究所がオフィス移転の成約データをもとに共同で作成し、0%から100%の間で変動し、基準となる50%を上回ると企業の拡張意欲が強いことを表し、50%を下回ると縮小意欲が強いことを示す指標である。
 
東京都心部のオフィス拡張移転DIは、オフィス市況が活況であった2019年は70%台で推移していた[図表1]。
オフィス拡張移転DIと空室率
2018年以降、新築オフィスビルの大量供給が続いたにもかかわらず、こうした企業の旺盛なオフィス拡張意欲がオフィス床の大量供給を吸収し、空室率は2019年1月に初めて1%を下回り、その後もタイトな需給バランスが継続した。
 
しかし、2020年にコロナ危機が訪れると、オフィス拡張移転DIは2020年第1四半期の69%から2020年第4四半期の51%へと急低下した。空室率についてもその後やや遅れて上昇に転じ、2020年末には2.36%へ上昇した( ボトム対比+1.57%)。
 
2021年第1四半期と第2四半期のオフィス拡張移転DIは53%となり、拡張と縮小が均衡する水準で横ばいに転じた。昨年来の低下にいったん歯止めがかかる一方で、オフィス床解約の影響が大きく空室率の上昇が続いており、9月末時点では4.48%となった(昨年末比+2.12%)。

2―オフィス拡張移転DIのエリア格差が拡大

東京都心部の16エリアのなかで2021年上期にオフィス拡張移転DIが高かった上位5エリアを見ると、第1位が「渋谷・桜丘・恵比寿(オフィス拡張移転DI77%)」となり、続いて「麹町・飯田橋(同69%)」、「内神田・外神田(同67%)」、「京橋・銀座・日本橋室町( 同60%)」、「五反田・大崎・東品川(同57%)」の順となった。
 
これに対して、オフィス拡張移転DIが低かった下位5エリアを見ると、同DIが低い順に、「新宿・四谷(オフィス拡張移転DI35%)」、「新橋・虎ノ門( 同38%)」、「赤坂・青山・六本木(同44%)」、「丸の内・大手町(同45%)」、「浜松町・高輪・芝浦(同47%)」となった。

また、2020年下半期のオフィス拡張移転DIと、その後半年間の空室率の変動を比較すると、オフィス拡張移転DIが低いエリアほど、その後の空室率が大きく上昇する傾向にあった[図表2]。
エリア別
もちろん、空室率の変動は、オフィス拡張移転DIが示す企業の拡張意欲の他に、テナント退去やオフィスビルの新規供給など様々な要因が関係する。しかし、2021年上期は前年と比較して、上位エリアと下位エリアのオフィス拡張移転DIの格差が拡大しており、今後は両エリア間で空室率格差が拡大する可能性があると言える。

3―業績悪化を理由とした縮小移転は昨年で一巡か

東京圏におけるオフィス拡張移転DIを業種別に比較すると、縮小移転の理由が変化してきていることが読み取れる。図表3は、横軸に売上高の前年からの変動を、縦軸にオフィス拡張移転DIを示している。
業種別
2020年は、両者の相関が高く、業績不振の業種を中心に縮小移転が増加し、オフィス拡張移転DIが低下した。具体的には、売上高の減少率が大きい「宿泊業・飲食サービス業」や「教育・学習支援業」のオフィス拡張移転DIが低いのに対して、売上高の減少率が小さい「不動産業・物品賃貸業」や「その他サービス業」、「情報通信業」のオフィス拡張移転DIは総じて高い傾向が見られた。
 
しかし、2021年上期は、売上高の変動とオフィス拡張移転DIに相関関係は見られない。オフィス拡張移転DIが高い業種として、「不動産業・物品賃貸業」や「建設業」が挙げられる一方で、「情報通信業」や「製造業」の低下が目立つ。IT系や電機メーカーの一部の企業では、オフィス戦略を見直し、移転や解約などによりオフィス床を削減する方針を発表している。このようなオフィス拡張移転DIの変化は、業績悪化を理由とした縮小移転の動きが昨年で一巡するとともに、コロナ禍を起点とした各企業の本格的なオフィス再構築の動きが、顕在化し始めていることを示唆しているのではないだろうか。

4―Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大きく低下し50%を下回る

最後に、オフィス拡張移転DIのビルクラス別の推移を確認する[図表4]。
ビルクラス別
2019年のAクラスビルの拡張移転DIは92%と、ほとんどのテナントが拡張移転であった。当時は、IT企業を中心に企業の拡張意向が強く、人材確保や働き方改革を目的としたオフィス移転も多く見られるなか、立地やスペックに勝るAクラスビルがこれらの需要の受け皿となった。
 
しかし、コロナ禍以降、Aクラスビルの拡張移転DIは、2020年に61%、2021年上期には35%まで低下した。Bクラスビル(2019年85%→2020年67%→2021年上期59%)やCクラスビル(同79%→63%→63%)と比較しても、Aクラスビルの下落幅が大きい。現状、Aクラスビルへの拡張移転を決める企業は少なく、グループ会社の集約などを中心とした縮小移転が多いようだ。
 
ただし、Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大幅に低下したにもかかわらず、空室率の上昇は小幅にとどまる。Aクラスビルは、解約時期が限られる定期借家契約や大企業の割合が高いため、今のところオフィス床を実際に解約する動きは限定的である。また、大口のオフィス需要が乏しいなか、賃借面積の縮小と引き換えに立地やスペックなどのオフィス環境の改善を目的とした需要を小まめに拾い上げているほか、賃料を柔軟に調整することで空室の早期解消を図っていることが考えられる。しかし、オフィス拡張移転DIが示す通り、Aクラスビルにおける企業の拡張移転意欲は乏しく、定借期限を迎える大口テナントの動向や今後供給が予定される新築オフィスビルの内定動向を注視したい。

5―おわりに

オフィス拡張移転DIをもとに2021年上期のオフィス移転動向を確認することで、

(1)オフィス拡張移転DIは、企業の拡張・縮小意欲が拮抗する水準で横ばいとなり、昨年来の低下に歯止めがかかる一方で、オフィス床解約の影響が大きく、空室率の上昇が続いていること

(2)業績悪化を理由とした縮小移転の動きは昨年で一巡し、コロナ禍を起点とした企業のオフィス再構築の動きが顕在化し始めた可能性があること

(3)Aクラスビルのオフィス拡張移転DIが大幅に低下するなか、定借期限を迎える大口テナントの動向や企業のオフィス戦略の動きによっては、空室率が想定以上に上振れする可能性があること、

がわかった。
 
ポストコロナのワークプレイス戦略を明確に打ち出している企業は依然少ない。しかし、2021年下期にはオフィス再構築に動く企業が増える可能性があり、データを丹念に確認していくことが求められる。
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金融研究部   准主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

(2021年11月09日「基礎研マンスリー」)

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