2021年08月05日

「オフィス出社率指数」をもとにポストコロナの働き方を探る-人流データをもとにしたオフィス出社率指数の開発

基礎研REPORT(冊子版)8月号[vol.293]

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

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1―ポストコロナの働き方とは?

ワクチン接種が進むなか、コロナ禍という長いトンネルの出口が徐々に見えてきた。コロナ禍においては、ニューノーマルが盛んに議論された。しかし、トンネルを抜けた先にどのような世界が待ち受けているかは、依然不透明である。

ポストコロナの焦点の一つが、働き方や働く場所の変化である。在宅勤務が急速に普及したコロナ禍当初は、「オフィス不要論」が注目を集めたが、在宅勤務のデメリットも明らかになるにつれ、聞かれなくなった。現在は、オフィスと在宅での勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方が主流になるとの見方が多い。ただし、オフィスと在宅での勤務割合について、一定の見解は得られていない。

2―アメリカのオフィス回帰は緩慢

ワクチン接種が拡大し、ポストコロナに足を踏み入れつつあるアメリカでは、オフィス回帰の動きが進んでいるのだろうか。一部の金融機関やIT企業では、今夏からオフィス回帰を進めるとの報道も見られる。

米国では、Kastle Systemsが入退管理システムの入館記録をもとに、全米10都市のオフィス出社率を公表している[図表1]。新型コロナウイルスの感染拡大前を基準として、全米10都市平均のオフィス出社率は2021年6月30日の週に33%と、最も落ち込んだ2020年4月15日の週の15%よりは回復したものの、依然として低水準である。

また、オフィス出社率は都市ごとに大きく異なる。10都市のなかで、最もオフィス出社率が高いのは、米国南部のテキサス州オースティン(51%)で、同州のダラス(50%)が続く。一方、最も低いのは、IT企業が集積するサンフランシスコ(19%)で、2番目に低いのは大手金融機関が集まるニューヨーク(22%)である。
[図表1]米国のオフィス出社率の推移
このように、米国では、ワクチン接種が進むなかでもオフィス出社率の回復は緩やかなものにとどまっている。コロナ禍で拡大した在宅勤務が定着しつつあることで、オフィス出社率が構造的に低下していることを示唆しているのではないだろうか。また、回復のスピードは都市間で大きな差があり、今後の働き方とオフィス活用は都市ごとに異なる可能性がある。

3―東京のオフィス出社率を測る

日本では、米国のようにオフィス出社率を定量化した指標が存在しない。そのため、株式会社ニッセイ基礎研究所とクロスロケーションズ株式会社は、スマートフォンの位置情報データをもとにした人流データを用いて「オフィス出社率指数」を共同で開発した。
1|オフィス出社率指数の推移
コロナ禍における東京のオフィス出社率指数の推移を確認すると、コロナ感染動向や政府の感染症対策にあわせて、オフィスワーカーが働き方や働く場所を変化させてきたことがわかる[図表2]。
[図表2]コロナ禍における東京のオフィス出社率指数の推移
感染拡大の第1波では、オフィス出社率指数は2020年4月22日に34%まで落ち込んだ。その後、新規感染者数が減少に転じても、指数は50%以下で推移したが、2020年5月25日に全国で緊急事態宣言が解除されると上昇し、6月後半には60%前後まで回復した。

第2波では、新規感染者数の増加に伴い、指数は2020年8月21日に50%まで低下した。企業やオフィスワーカーのコロナ慣れが進んだことに加え、緊急事態宣言の発令が回避されたため、出社率の低下は第1波より小幅にとどまった。

第3波では、新規感染者数の増加や緊急事態宣言の再発令により、指数は2021年2月15日に48%まで低下した。ただし、新規感染者数の急増と比較して、指数の低下幅は小さかったと言える。また、新規感染者数が減少に転じた後でも、緊急事態宣言期間は指数の回復スピードが穏やかであった。一部の企業では、新規感染者数が減少しても宣言期間中はオフィス出社を抑制する方針を維持したためだと考えられる。

第4波では、新型コロナウイルス変異株の感染拡大への警戒感から、まん延防止等重点措置に続いて、4月25日に3回目の緊急事態宣言が発令されたため、2021年6月4日に46%まで低下した。その後、新規感染者数が減少に転じ、6月20日に東京などの緊急事態宣言が解除されたことから、6月30日現在の指数は58%に上昇した。指数は一時的に50%を割り込んだものの、感染拡大局面においても50~60%前後で推移していることは、第2波以降一貫して変わらない。

このようにオフィス出社率指数は、第1波で34%まで急落した。その後は、新規感染者数の増減にあわせて概ね50%~70%のレンジで上下動を繰り返しているが、新規感染者数の増減に対する指数の感応度は徐々に小さくなってきているようだ。これは、多くの企業が1年を超えるコロナ禍を経験するなかで、ウイズコロナを前提とした新たなワークスタイルやワークプレイスが定着してきたためと考えられる。
2|オフィス出社率指数のエリア比較
東京16エリアのオフィス出社率指数を比較すると、オフィス出社率が高い3エリアは、代々木・初台(64%)>目黒区(62%)>湯島・本郷・後楽(61%)である[図表3]。これらエリアは、東京オフィス市場の周縁エリアで、中小規模のテナントが多い。また、テレワークとの親和性が高い金融・保険業や専門サービス業(法律・会計事務所やコンサル会社など)、情報通信業などが少ないエリアでもある。
[図表3]東京のオフィス出社指数のエリア別比較
また、オフィス出社率が低い3エリアは、麹町・飯田橋(46%)、丸の内・大手町(46%)>浜松町・高輪・芝浦(40%)である。丸の内・大手町は、金融・保険業と専門サービス業の比率が高く、大企業が多い。また、浜松町・高輪・芝浦は、テレワークと親和性が高いとされる産業の比率が高いわけではないが、大企業が多く所在しているエリアである。また、麹町・飯田橋は、中小規模のテナントが多いが、専門サービス業が占める割合が大きいエリアである。

このようにエリア毎のオフィス出社率指数には大きな差異がある。企業規模や産業毎に、テレワークの親和性が異なり、エリア毎に特色があるためである。現在オフィス出社率が低い企業は、ポストコロナにおいてもテレワークを積極的に活用していくだろう。そのため、このようなオフィス出社率のエリア間差異は今後も残存する可能性がある。

4―今秋以降のオフィス出社率に注目

2021年7月12日から4回目の緊急事態宣言が発令されたため、オフィス出社率指数は、再び50%前後へ低下するだろう。さらに、オリンピック期間中は、一時的に下振れる可能性がある。

また、ワクチン接種が進んだ2021年秋以降のオフィス出社率の動向にも注目したい。働き方は企業や従業員だけでなく、社会や経済などに幅広い影響を与える。依然不透明なポストコロナの働き方を探る上でも、オフィス出社率指数をモニタリングしていくことが重要になりそうだ。
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金融研究部   主任研究員

佐久間 誠 (さくま まこと)

研究・専門分野
不動産市場、金融市場、不動産テック

経歴
  • 【職歴】  2006年4月 住友信託銀行(現 三井住友信託銀行)  2013年10月 国際石油開発帝石(現 INPEX)  2015年9月 ニッセイ基礎研究所  2019年1月 ラサール不動産投資顧問  2020年5月 ニッセイ基礎研究所  2022年7月より現職 【加入団体等】  ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター  ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年08月05日「基礎研マンスリー」)

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【「オフィス出社率指数」をもとにポストコロナの働き方を探る-人流データをもとにしたオフィス出社率指数の開発】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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