2021年10月11日

米雇用統計(21年9月)-雇用者数(前月比)は教育関連雇用の季節調整の影響もあって、前月、市場予想を大幅に下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は前月、市場予想を下回る一方、失業率は市場予想を上回る改善

10月8日、米国労働省(BLS)は9月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+19.4万人の増加1(前月改定値:+36.6万人)と、+23.5万人から上方修正された前月を下回ったほか、市場予想の+50.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.8%(前月:5.2%、市場予想:5.1%)と前月から▲0.4%ポイント低下し、市場予想を上回る改善を示した(後掲図表6参照)。労働参加率2は61.6%(前月:61.7%、市場予想:61.8%)と前月、改善を見込んだ市場予想を下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:労働供給の回復に遅れ

9月の非農業部門雇用者数は、前月比で大幅に伸びが加速するとの予想に反して鈍化し、21年入り後で最低となった。もっとも、当月は民間・公的の教育関連雇用が前月比▲18.0万人(前月:+6.3万人)と大幅な減少に転じて雇用者数を押し下げたが、未季調では前月比+128.2万人(前月:+39.8万人)と大幅な増加となっており、BLSも指摘するように新型コロナでの影響で季節調整による歪みが生じている可能性がある。また、前月の雇用者数が+13.1万人大幅に上方修正されたことを考慮すると、9月はヘッドラインの数値が示すほどは悪くないと言えよう。

一方、失業率は失業者数の大幅な減少を伴って低下しており、失業保険の追加給付が9月6日に期限切れとなったことが影響しているとみられる。もっとも、労働参加率は低下しているため、労働供給の回復は依然として鈍い。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 また、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.6%(前月改定値:+0.4%、市場予想:+0.4%)と+0.6%から下方修正された前月、市場予想を上回った。前年同月比も+4.6%(前月改定値:+4.0%、市場予想:+4.9%)と+4.3%から下方修正された前月を上回った一方、市場予想に一致した(図表1)。このため、賃金上昇率は前月から伸びが加速しており、労働供給の回復の遅れを背景にした労働需給の逼迫が賃金上昇率を押し上げる状況に変化はみられない。

このようにみると、9月は失業保険の追加給付の期限切れに伴い労働供給の回復が見込まれていたものの、予想に反して労働供給の回復が遅れていることを示す結果と言えよう。

FRBは9月の雇用統計が余程悪い結果でない限り、11月のFOMC会合でテーパリングの開始を決定する方針を示している。当月の雇用統計は、テーパリング開始決定の障害となる程弱い結果とは言えないが、FRBの背中を押すような強い内容とはならなかった。

3.事業所調査の詳細:教育関連の季節調整の影響で政府部門の雇用が大幅に減少

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+26.5万人(前月:+29.5万人)と小幅ながら前月から伸びが鈍化した(図表2)。

民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊業が前月比+7.4万人(前月:+3.8万人)、医療・社会扶助サービスが+1.2万人(前月:+0.2万人)と前月から伸びが加速したほか、小売業が+5.6万人(前月:▲0.4万人)とプラスに転じた。一方、専門・ビジネスサービスが+6.0万人(前月:+8.5万人)、運輸・倉庫が+4.7万人(前月比:+5.5万人)と前月から伸びが鈍化した。

財生産部門は前月比+5.2万人(前月:+3.7万人)と前月から伸びが加速した。製造業が+2.6万人(前月:+3.1万人)と小幅ながら伸びが鈍化した一方、建設業が2.2万人(前月:横這い)と伸びが加速して全体を押し上げた。

政府部門は前月比▲12.3万人(前月:+3.4万人)と前月から大幅なマイナスとなった。内訳をみると、連邦政府が横這い(前月:+0.3万人)と小幅に伸びが鈍化したほか、州・地方政府が▲12.3万人(前月:+3.1万人)と大幅なマイナスに転じて全体を押し下げた。とくに、州・地方政府では教育関連が▲16.1万人(前月:+1.4万人)と前述のように季節調整の影響もあって大幅なマイナスとなったことが大きい。
前月(8月)と前々月(7月)の雇用増加数(改定値)は前月が+36.6万人(改定前:+23.5万人)と+13.1万人上方修正されたほか、前々月は+109.1万人(改定前:+105.3万人)と+3.8万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+16.9万人の大幅な上方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って10月6日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+56.8万人(前月改定値:+34.0万人、市場予想:+43.0万人)と+37.4万人から小幅下方修正された前月、市場予想を上回った。この結果、ADP統計は前月から伸びが鈍化した雇用統計とは不整合な動きとなった。ADP統計からは当月の政府部門を除いた民間部門の雇用の伸びが堅調であった可能性が示唆される。

9月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が30.85ドル(前月:30.66ドル)となり、前月から+19セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.8時間(前月:34.6時間)と前月から+0.2時間増加した。この結果、週当たり賃金は1,073.58ドル(前月:1,060.84ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口の減少に伴い労働参加率は低下

家計調査のうち、9月の労働力人口は前月対比で▲18.3万人(前月:+19.0万人)と4ヵ月ぶりにマイナスに転じた。内訳を見ると、就業者数が+52.6万人(前月:+50.9万人)と前月から小幅ながら伸びが加速した一方、失業者数が▲71.0万人(前月:▲31.8万人)と就業者数を上回る減少幅となって労働力人口を押し下げた。失業者数の大幅な減少は9月6日に失業保険の追加給付が期限切れとなったことが影響しているとみられる。もっとも、非労働力人口は+33.8万人(前月:▲4.9万人)と4ヵ月ぶりに増加に転じ、職探しを諦めて労働市場から退出した人の増加を示しており、労働供給の回復が遅れていることを示している。

これらの結果、労働参加率は3ヵ月ぶりに低下し、労働参加率の回復がもたついていることを示した(図表5)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は9月が81.6%(前月:81.8%)と前月から▲0.2%ポイント低下した。男女の内訳は、男性が88.1%(前月:88.4%)と前月から▲0.3ポイント低下したほか、女性も75.3%(前月:75.4%)と前月から▲0.1%ポイント低下した。9月は前述の追加給付の期限切れに加えて、学校再開に伴い子育て世代の労働市場への再参入が増加するとの見方があったが、足元でそのような動きはみられていない。
 
9月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は268.3万人(前月:317.9万人)と前月から▲49.6万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも34.5%(前月:37.4%)と前月から▲2.9%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は28.4週(前月:29.6週)とこちらも前月から▲1.2週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(174.4万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(446.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、9月が8.5%(前月:8.8%)と前月から▲0.3%ポイント低下した(図表8)。また、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.7%ポイント(前月:+3.6%ポイント)と前月から+0.1%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年10月11日「経済・金融フラッシュ」)

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