2021年09月30日

税制改正要望(2022)の動き-保険・年金関係の要望事項など

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――2022年度予算と税制改正の動きが始まる

8月末までに各省庁の概算要求が提出され、2022年度に向けた予算や税制改正の動きが始まったところである。

予算の方は、一般会計で111兆円を超えるということで、最も多いのが、例年通り厚生労働省の33兆9,450億円で高齢化による社会保障費が増加している。また財務省分は、新型コロナウィルス対策の国債発行が増えて、その利払いなどで30兆2,362億円にかさむことになりそうだ。

こうした予算全体の動きの評価は別の専門家に譲り、ここではそのほんの一部分ではあるが、保険・年金あるいはそれに近い金融商品に関する税制改正要望がどんなものかについてみておく。

2――2022年度税制改正要望

2――2022年度税制改正要望

1各業界の要望
主に保険、年金とその周辺の要望事項を列挙すると以下のようなものである。
 
<生命保険協会>
〇生命保険料控除の拡充 
現在の制度では、
平成23年12月までの契約は生命保険が所得税5万円、地方税3.5万円、個人年金保険もそれぞれ同額(合計控除額 所得税10万円、地方税7万円)、平成24年以降契約は一般、介護、個人年金それぞれで所得税4万円、地方税2.8万円、(合計控除額 所得税12万円、地方税7万円)であるところを拡充し、
一般、介護、個人年金それぞれ、所得税5万円地方税3.5万円(合計控除額所得税15万円 地方税7万円)とする要望である。(このところ例年同じ要望を続けている。)
 
〇企業年金保険関係
確定拠出年金や確定給付年金の積立期間中に、残高に課税する仕組みである特別法人税の廃止・少なくとも課税停止期間の延長、を要望している、また確定拠出年金、確定給付年金ともに、現在よりもさらに要件を緩和するなどの、税制上柔軟な取り扱いに向けたいくつかの要望となっている。

なお、特別法人税については、この後述べるように、関連する業界は例年、制度としての撤廃を要望しているが、差し当たって2023年3月までは「凍結」されているので、たとえ今年何も改正されなくてもすぐには影響しない。
 
〇相続税関係
死亡保険金の非課税限度額は現在、「法定相続人数×500万円」であるが、さらに「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めている。(これも例年と同様)
 
<日本損害保険協会>
〇異常危険準備金の無税積立率を、現行の6%から10%に引き上げること。またその洗替保証率を現行の30%から40%の引き上げること
 
〇地震保険料控除
従来あった損害保険料控除制度が、2007年より地震保険料のみを対象とするよう改正され、現在の控除限度額は所得税5万円、地方税2.5万円である。近年の地震災害への備えの意識の高まりに対応して、金額上限に留まらずさらに制度として充実させるよう、検討を要望している。
 
〇企業年金関係
特別法人税の撤廃
 
<信託協会>
信託協会は信託、年金、金融制度全般、不動産の各分野について要望をまとめている。うち年金については、特別法人税の撤廃を、最も優先順位の高い「主要要望」として取り上げ、その他の「一般要望」として企業年金について、確定拠出年金の利便性をより向上させるような税制優遇範囲の拡大や手続きの簡素化につき、いくつかの要望を出している。また金融制度のなかでは、金融課税の一体化や、時限措置であるNISA(少額投資非課税制度)の恒久化にむけた要望が含まれている。
 
<銀行協会>
確定拠出年金制度に関連して、特別法人税の撤廃、制度のさらなる普及のための利便性の向上や優遇措置などを要望している。

また金融資産への課税の簡素化、中立化の観点から、金融商品課税の一体化を要望している。
2各省庁の要望
そもそも様々な業界がこの時期に税制改正要望をまとめるのは、今後予算・税制の検討が政府、省庁、最終的には国会にむけて検討が進められるのに、時期を合わせているためである。ではその各省庁において、概算要求とともに、税制改正要望事項はどうなっているのか、をみる。

例年に比べて、保険年金関係の要望は少ないように見受けられるが、以下の通りである。
 
<金融庁>
保険・年金関連では、上記の生保業界の要望を受けて生命保険料控除拡充を、また、損害業界の要望を受けて、異常危険準備金の拡充・現在の特別措置の延長を要望している。
 
<厚生労働省>
福祉・子育て 健康・医療 雇用 生活衛生 の各分野の要望となっており、年金についての要望はない。

3――今後の動きについて

3――今後の動きについて

各省庁から財務省に要望が出されたあと、その要望に沿って財源と対費用効果について折衝がなされ、政府あるいは与党の税制調査会で議論がなされていく過程からすると、たとえ関係業界から、年金関係の要望が出されていても、対応する省庁(金融庁、厚生労働省など)からそれらの要望が出ていない今回のような場合は、検討の対象に上がることは事実上ないように思われる。(逆に優遇税制が廃止されるなどの厳しい場面がでてくることもない?かどうかはわからない。)

今回も、必ず今後のどこかで衆議院議員選挙があるために日程的に厳しい面もあろうが、それでも12月中旬の与党税制改正大綱の発表で実質的に決定される、という例年通りの動きになると想定されている。

4――(参考)主な税制改正要望の内容を少しだけ詳しく

4――(参考)主な税制改正要望の内容を少しだけ詳しく

この機会に、生命保険、損害保険それぞれの最重要の要望事項について、いつもより少し詳しくその趣旨などを見ておくことにする。
1生命保険協会~生命保険料控除の拡充
毎年民間の生命保険会社(または共済、以下保険とだけ表記するが、共済についても同じ)に支払った保険料が記載されたハガキが届くことだろう。特に年末調整の時はこれが証明書類として必要なわけだが、これがあると、それに対応していくらかの所得税が(他の控除と併せて)還付されることになる。これが生命保険料控除で、多くの方がその時期だけ目にしてあとは忘れるだろうが、相当額の還付を(知らない間に?)受けているのである。

当初は生命保険普及のために、この控除が設けられたのであるが、その後、老後資金の充実のための個人年金が重要になってくると個人年金保険もその対象となった(1984年から)。その後介護への備えが重要だとなると、それも拡充され、2012年より介護医療保険料控除が加わり、3本立て(一般、介護医療、個人年金)の仕組みとなっている。その控除金額にはそれぞれの、あるいは合計での上限があるが、それをさらに拡充してほしいというのが、要望事項である。これは保険会社が自分の払う税金を軽減してほしいということではなく、保険加入者全員にその恩恵をというものであって、保険普及の意義を高めるものである。その効果が販売促進につながり、生命保険会社の利益にもつながる性質のものである。
2日本損害保険協会 ~異常危険準備金の積立率引上げ等
損害保険会社は、異常危険準備金という準備金を毎決算期に積み立てるよう法令で義務付けられている。これは突発的な自然災害などにより、一時に多額の保険金支払いが生じることに備えて、一定の基準(正味保険料の一定%)を毎年繰入れ、「異常な」保険金支払いがあった時(「異常」とは保険種類にもよるが、正味保険料の金額の50%以上にあたる規模の保険金支払いがあった時、とする規定が多い。それが本当に異常といえるのか?については別途検討されるものであろう。)には、一定のルールに基づいて取り崩す(損益計算書上はその分、利益を押し上げ、損失を補填する。)ことができる準備金である。

ところで、保険会社には各種の準備金(一般に責任準備金、支払備金、価格変動準備金などなど)があるが、その繰入(損益計算書上は費用項目)は、法人税の計算上そのまま損失とみなされるものもあるが、有税(益金算入)のものもある。異常危険準備金は定められた上限を超える部分については有税である。積み立てたいのはやまやまだが、その分税金負担がのしかかる。

ここでこの要望になるわけだが、現在無税となっている積立上限金額を拡充してもらって、法人税の負担を軽くして、異常危険準備金を準備したい。それで近年の自然災害による保険金支払いにも対応しようということである。

これは損害保険会社自身の法人税を軽減する要望であるので、個々の加入者には見えにくい話ではあるが、加入している損害保険会社の財務基盤の安定を通じて、保険加入者にとっても効果が現れるものである。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年09月30日「基礎研レター」)

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