2020年03月04日

2020年度税制改正(主に年金関係)について

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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2020年度税制改正については、自民党と公明党が2019年12月12日に「令和2年度税制改正大綱」を公表し、12月20日には予算案全体の中で閣議決定された。この稿では、年金とその周辺を含む社会保障関係における記載事項を見ていくわけだが、思い返せば2019年には、老後生活資金のいわゆる「2000万円(不足)問題」もあり、また5年毎の節目の年ということで公的年金の財政検証も行われた。そうしたこともあってか、今回の税制改正大綱では私的年金や老後生活資金に向けた資産形成について、いつもより詳細な記載となっている。従ってここで全てを引用し紹介するのは冗長なので、適宜要約しながら内容を追ってみる。

まず、基本的な考え方の中では、「人生100年時代」への対応というテーマが掲げられ、そのための環境整備を進める旨が述べられている。大方針だけは引用して紹介しておく。
「一 令和2年度税制改正の基本的考え方
・・・(略)・・・
人生100年時代を迎え、高齢期における就労の拡大や働き方の多様化に対応し、私的年金の加入可能年齢等の引上げや、中小企業への企業年金の普及・拡大等に取り組む。」
(令和2年度税制改正大綱 1ページ)

その後に記された、主要項目及び今後の税制改正に当たっての基本的考え方では、要旨として以下のような項目が示されている(同12~14ページ)。
(1)私的年金に関する公平な税制のあり方
・働き方やライフコースが多様化する中で、老後の生活に備えるための支援について、働き方によって税制上の取扱いに大きな違いが生じないような姿を目指す必要がある。
・年金課税については、拠出・運用・給付の各段階を通じた適正かつ公平な税負担を確保する観点から検討を進めていく。
・また、退職給付が一時金か年金払いかによって税制上の取扱いが異なるという課題や、転職の増加に対応していないといった指摘を踏まえ、給付・退職一時金・年金給付の間の税負担のバランスについても検討する。
・あわせて、NISAを念頭において、金融所得に対する課税のあり方について、NISAの普及状況や所得階層別の公平性を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、検討する。

これらは中長期的な検討事項であり、今回すべてが解決されたわけではもちろんない。2020年度税制改正においては、高齢期の長期化や就労の拡大・多様化等に対応するための確定拠出年金等の加入年齢の見直しや、中小企業向け制度の対象範囲の拡大等の際に、現行の税制上の(優遇)措置を適用するなどの規定の整備が行われる予定である。

またこれらを事業主サイドから見た場合の、法人税の取り扱いについても所要の措置がなされることが盛りこまれている。そのひとつである今回期限切れが迫っていたいわゆる特別法人税課税の停止措置も3年延長された。いつまで経っても、企業年金関係業界が要望するような「撤廃」ということにはならないようである(個人所得課税は40ページ、法人課税は72ページより 内容はかなり技術的なので省略)。

(2)NISA(少額投資非課税制度)の見直し・延長
人生100年時代にふさわしい安定的な資産形成を支援していくという観点から、年金制度の税制とともに、NISAについても概ね拡充の方向で見直しを行い、口座開設可能期間が延長される案となった。

NISAには「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類がある。非課税期間5年の「一般NISA」については、別枠の非課税投資を可能とする2階建ての制度に見直す(2024年から)とともに、口座開設期間を5年間延長して2028年までとする。その投資対象商品については、1階部分は「つみたてNISA」と同様、比較的安全な投資信託等20万円までとし(現時点では、「一般NISA」が比較的広く投資信託等を運用対象としているのに比べ、「つみたてNISA」はそのうち信託報酬が一定以下などの限定条件あり)、2階部分は現行の「一般NISA」から高レバレッジ投資信託など一部の商品を除く上場株式等102万円までとなる。また、非課税期間20年の現行の「つみたてNISA」は5年延長して2042年までとする一方、利用実績が乏しい「ジュニアNISA」については延長されず、新規の口座開設を予定通り2023年までのままとし、実質廃止となる(同18~22ページ)。

今後の年金課税の方向性については、「検討事項」に以下の通り、示されている
「1 年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意するとともに、平成30年度税制改正の公的年金控除の見直しの考え方や年金制度改革の方向性も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。」(同103ページ)。

年金課税は、毎年「検討事項」のトップに挙げられており、税制において最重要検討項目の一つという認識に変わりないようだ。

税制改正をひとつの前提として含む2020年度予算案は、一般会計102兆6,580億円と当初予算として2年連続で100兆円を超えた(2019年度当初予算101兆4,571億円)。年金を含む社会保障費は35兆8,608億円と対前年当初予算5.1%増加している。

今回のトピックとしては、初めて消費税収入が所得税収入を上回ることになりそうだということもあるようだ。だからといって使われ方が変わるということではないが、税収の構成比としては国際的な傾向と同様の状況にあるということだろう。予算案は現在国会で審議中であり、例年並みの状況であれば、本稿が出る頃にはほぼ政府案通りに決まっているものと思われる。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2020年03月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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