2019年03月05日

平成31年度税制改正について

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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平成31年度税制改正については、平成30年12月14日に与党税制改正大綱が公表され、12月21日には閣議決定された。今回の改正の焦点は、10月に予定されている消費税10%への引き上げに対する、駆け込み需要の平準化とされている。というわけで、比較的大きな買い物である住宅・自動車の分野で、増税後の購入にインセンティブを与えることで、駆け込みを抑制し、急激な消費の落ち込みを防止しようという改正が提案された。

住宅に関しては、2020年末までに消費税10%のもとで住宅を購入した人に対して、住宅ローン減税を拡充することで、消費税アップ分2%相当を住宅購入後11~13年目(現在住宅ローン減税は10年だが、それを3年延長する)の3年間で還元する、というものだ。自動車に関しては、10月以降の購入について、環境性能(燃費など)に応じて自動車税の軽減を行う案だが、これは新車の使用予定年数によっても、増税前後どちらで購入するのがお得なのか変わってくるので、損得については一概には言えない(単なる感想であるが、そんな複雑なことをするなら、最初から自動車と住宅は8%据え置き、としたらどうか。軽減税率についても食品など一部であいまいさが残るものは10%でいいじゃないか。いや、今回本稿のテーマではないので、そういうことはおいておくとしよう)。

さて、年金とその周辺を含む社会保障関係ではどうなったか。今回は年金等の分野で具体的な改正は示されていないが、与党税制改正大綱では、基本的な考え方として、以下のような記載がなされている。
 
「個人所得課税については、わが国の経済社会の構造変化を踏まえ、近年、配偶者控除等の見直し、給与所得控除・公的年金等控除・基礎控除の一体的な見直しなどの取り組みを進めてきた。今後も、これまでの税制改正大綱に示された方針を踏まえ、経済社会の構造変化への対応や所得再分配機能の回復の観点から、各種控除のあり方等を検討する。」
 
「老後の生活など各種のリスクに備える資産形成については、企業年金、個人年金等の年金税制、貯蓄・投資、保険等の金融税制が段階的に整備・拡充されてきたが、働き方の多様化が進展する中で、働き方の違い等によって税制による支援が異なること、各制度それぞれで非課税枠の限度額管理が行われていることといった課題がある。また、「人生100年時代」に向けて、全世代型社会保障制度の構築が進められていく中、税制においても、どのようなライフコースを歩んだ場合でも老後に備える資産形成について公平に税制の適用を受けることができる制度のあり方を考えることが必要である。こうした認識の下、関係する諸制度について、社会保障制度を補完する観点や働き方の違い等によって有利・不利が生じないようにするなど公平な制度を構築する観点から、諸外国の制度も参考に、包括的な見直しを進める。
その際には、拠出・運用・給付の各段階を通じた課税のあり方について、公平な税負担の確保等の観点から検討する必要がある。また、給与・退職金一時金・年金給付の間の税負担のバランスについて、働き方やライフコースの多様化を踏まえた検討が必要である。
あわせて、金融所得に対する課税のあり方について、家計の安定的な資産形成を支援するとともに、所得階層別の所得税負担率の状況も踏まえ、税負担の垂直的な公平性等を確保する観点から、関連する各種制度のあり方を含め、諸外国の制度や市場への影響も踏まえつつ、総合的に検討する。
NISAについては、その政策目的や制度の利用状況を踏まえ、望ましいあり方を検討する。」
(平成31年度税制改正大綱(H30.12.14 自由民主党・公明党)13~14ページ)
 
「第三 検討事項
1 年金課税については、少子高齢化が進展し、年金受給者が増大する中で、世代間及び世代内の公平性の確保や、老後を保障する公的年金、公的年金を補完する企業年金を始めとした各種年金制度間のバランス、貯蓄・投資商品に対する課税との関連、給与課税等とのバランス等に留意するとともに、平成30年度税制改正の公的年金控除の見直しの考え方や年金制度改革の方向性も踏まえつつ、拠出・運用・給付を通じて課税のあり方を総合的に検討する。( 同 121ページ)

年金課税は、毎年「検討事項」のトップに挙げられており、最重要検討項目の一つであることには変わりない。昨年の大綱から表現が変わったのは、上記「貯蓄・投資商品に対する課税」とある箇所である(昨年は「貯蓄商品に対する課税」)。年金制度だけではなく、所得税など他の税制との整合性や、他の金融・投資商品とのバランスが、これまで以上に詳細な検討の対象になるものと受け取れる。そもそも、上記の大綱の基本的な考え方においても、「貯蓄・投資、保険等の金融税制」という表現がなされている。生命保険業界からすると、一昔前であれば、「相互扶助という崇高なる理念の体現である保険を、その辺の金融商品と同列に扱ってほしくない。」と意見表明のひとつも出てきそうな表現だが、実際には外貨建保険、変額年金などのように、顧客から見れば金融商品そのものと見えるようなものも主役になっており、致し方ないところだろうか。なお、例えばこの方向で検討が進められると、所得税における生命保険料控除も、「他の金融商品にはそんな控除制度はない」というバランスから、昨年の配偶者控除同様、縮小の方向で検討される予感がするので、所得税の控除項目はますます厳しくなるということか。あるいは、近年、NISA、iDeCoといった金融税制が優遇されてきたので、バランスを考えて保険・医療関係も優遇が続くのか。いずれにせよ、今後社会保障あるいは金融税制全体の中でのバランスや財源の確保などが検討されると推測される。

今回の税制改正は、「消費増税対策」がメインだったためか、その他の分野でも抜本的な改正がなされているわけではないらしい。従って来年以降に本格的対応が持ち越されたということだろう。税制改正をひとつの前提とした平成31年度予算案(1月21日閣議決定時)は、一般会計101兆4,564億円と当初予算としてはじめて100兆円を超えた(平成30年度当初予算97兆7,128億円)。年金を含む社会保障費は34兆587億円と対前年当初予算3.2%増加している。予算案は今後国会で審議される予定である(本稿が出る頃には決まっているかもしれないが)。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

(2019年03月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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