コラム
2019年03月25日

公的年金等に係る税制について

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   梅内 俊樹

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国民年金や厚生年金といった公的年金のほか、厚生年金基金や確定給付企業年金、確定拠出年金などから受け取る年金には、所得税が軽減される優遇措置が設けられている。しかし、税制改正にともない2020年に受け取る分からは所得税の負担が一部で高まることになる。

所得課税においては、個人が受取る収入がその源泉や性質に応じて幾つかの区分に分けられ、それぞれの収入ごとに定められた「所得計算上の控除」もしくは必要経費を差し引いた上で合計し、合計所得金額を算出する。この合計所得金額から基礎控除などの所得控除を差し引いて、課税所得ひいては所得税額を計算する仕組みとなっている(図表1)。国民年金や厚生年金、企業年金などから受け取る年金は、公的年金等収入という区分で、年金収入の合計額から公的年金等控除と呼ばれる「所得計算上の控除」が差し引かれて、課税所得が計算される。このため、収入が公的年金等に限られる場合は、年金収入合計額から公的年金等控除額と基礎控除などを差し引いた残額が課税対象となり、公的年金等控除の分だけ、所得税が軽減される。なお、個人年金保険の場合は、年金収入から、支払った保険料に応じて算出される金額を必要経費として差し引いた上で、所得金額が算出される。
図表1 個人所得課税のイメージ
公的年金等控除の額は年齢や年金収入金額に応じて決まるが、現行では、65歳未満で70万円、65歳以上で120万円が下限(最低保証額)になっている。このため、公的年金等の収入が、この下限と基礎控除38万円を合算した額(65歳未満で108万円、65歳以上で158万円)までは所得税が非課税になる。また、公的年金等控除に上限は設けられておらず、公的年金等の収入金額が増えると、公的年金等控除額も増える仕組みとなっている。このため、公的年金等の収入金額がどんなに多くても、相応の控除が受けられるだけでなく、公的年金等以外の所得がどんなに高くても、公的年金等の収入に対しては、収入が公的年金等のみに限られる場合と同じ額の控除が受けられるなど、公的年金等収入が多く、所得水準の高い人にとって手厚い制度となっている。
 
こうした現行の税制は、平成30年度税制改正により見直され、2020年の年金収入分からは改正後の税制が適用される。現行からの改正点には、以下の3点がある。

1)公的年金等控除額を一律10万円引き下げ
2)公的年金等控除額の上限を195.5万円に設定
3)公的年金等の収入以外の合計所得金額に応じて公的年金等控除額を引き下げ、公的年金等の収入以外の合計所得金額が1000万円超2000万円以下で一律10万円、2000万円超で更に一律10万円、公的年金等控除額を引き下げ

公的年金等控除額の一律10万円引き下げは、基礎控除への振替を目的とするものであり、基礎控除は10万円引き上げられる。(基礎控除についても、合計所得金額 2,400 万円超で控除額が逓減を開始し、2,500 万円超で消失するように改正されている)。このため、公的年金等の収入金額が1000万円以下で、かつ、公的年金等の収入金額以外の合計所得が1000万円以下の場合には、公的年金等控除額と基礎控除を合わせた控除額に変化はなく、改正前と同様の税制優遇を受けられる。しかしながら、改正により、公的年金等に上限が設けられるとともに、公的年金等の年金収入以外の所得が高額となる場合には公的年金等控除額が減額されるため、公的年金等の収入金額が1000万円を超える、もしくは、公的年金等以外の所得が1000万円を超える場合には、公的年金等の収入に課される所得税負担は、現行に比べ高まることになる(図表2)。
図表2 改正前後の公的年金等控除額
こうした改正の背景には、働き方の多様化が進むなかで、どのようなライフコースを辿ったとしても税制上公平に扱われるようにする必要があり、そのためには、公的年金等控除のように、収入の種類ごとに「所得計算上の控除」を設けて負担を調整する現行の仕組みを改め、どのような収入にも適用される基礎控除に、負担調整の比重を移していく必要があるとの考え方や、65歳以上人口の割合が高まるなかで、年金受給世代においても所得再分配機能の強化を図る観点から、経済力に応じた負担を実現する必要があるとの認識がある。負担の変動が急激とならないような配慮から、今回は小幅な改正となったが、こうした基本的な考え方のもと、引き続き公的年金等に係る税制の見直しが継続される見通しである。
 
しかし今後の公的年金等に係る税制の改正に際しては、低所得者層への配慮が欠かせないだろう。公的年金については、財政の健全性を維持する改正が進められており、中長期的に給付水準の調整が避けられない。5年前の公的年金の財政検証をもとにすれば、国民年金(2019年度の月額65,008円)の実質的な給付水準は5年前に比べ将来的に3割程度減額され、標準世帯が受け取る厚生年金(夫が平均的収入で40年間就業し、妻がその全期間において専業主婦であった世帯の、2人分の基礎年金を含めた給付水準、2019年度の月額221,504円)についても実質的に2割程度減額される可能性がある。これらは経済の良好な推移を前提とする場合であり、経済情勢が前提を下振れる場合には、減額率はさらに拡大する恐れもある。5年に一度の財政検証は現在進められており、最新の検証結果がいずれ公表されるが、公的年金が実質的に調整される方向性に大きな変化はないだろう。
 
公的年金の実質的な減額が見込まれるなかで、それを補完するために、就労期間の長期化や現役時代の積み立てを促す政策が進められている。65歳以上の労働参加率は10年前に比べ上昇しており、今後もある程度の上昇が期待される。自助努力に関しても、個人型確定拠出年金の加入可能範囲が拡大されるなど、自助努力をサポートする年金制度の改正が進められ、加入者数は増加している。しかし、収入の全てを公的年金に依存する高齢者世帯が全体の5割以上を占め、「生活が苦しい」と感じる高齢者世帯の割合が5割を超える状況のなか、将来的に公的年金の減額分を他の収入で補えたとしても、生活にゆとりが感じられる高齢者世帯が大幅に増える未来は想定しがたい。少なくとも、公的年金の調整によって個人に圧し掛かる長寿リスクへの備えを、就労の長期化や自助努力による資産形成で補うには限界がある。
 
税制改正にあたっては考慮すべき視点は多岐にわたり、また、他の政策との総合的な観点からの見直しが必要となろう。しかしながら、公的年金の調整が避けられないなか、高齢期の就労や自助努力による資産形成への意欲を阻害しないような配慮や、特に、高齢期の低所得層に対する現行並みの実質的な税制優遇の継続は、今後の税制改正において極めて重要なポイントとなる。こうした点に十分配慮した税制改正が望まれる。
 
 

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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
リスク管理、年金運用

(2019年03月25日「研究員の眼」)

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