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- 平成30年度に向けた予算・税制改正等の動き
2017年10月04日
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今年も、そろそろ来年度予算や税制改正に向けた議論が始まる季節となった。まずは振り返って、今年の通常国会(第193回国会)の様子であるが、「加計・森友」問題、あるいは自衛隊の「日報問題」で、結局は防衛大臣が辞任することになるなど、予算以外の話題で騒がしいこととなった。
ところで、税制も含めた予算については、まずは衆議院・参議院の予算委員会で審議されるのだが、聞くところによれば、少なくとも自民党政権が始まった1955年以降、審議の過程で予算そのものが修正されたことは、一度もないのだとか。国会(より正確には衆議院、参議院それぞれ)には、衆議院規則等により、法務委員会、外務委員会等様々な委員会の設置が定められており、その審議すべき内容はほぼ名前通りの省庁毎の縦割りで定められているが、予算委員会だけは「予算」としか書かれていない。予算そのものの内容に関しては、各省庁と財務省の激しい議論、あるいは政治的配慮も絡んで、相当整合性あるしっかりしたものになっており、予算委員会でのちょっとした異議などは跳ね返されてしまい、修正に至ることはないらしい(そんなことでいいのかという問題はあろうが)。それでは、ということで、予算を執行する政府・与党の不手際、不祥事をしつこく追求することにより、「そんな人たちに大事な予算執行を任せられるのか」という議論で、野党側は存在感を示そうとしたりする。そして与党側としても、期限内に予算を成立させる力量を示す必要もあり、予算委員会が最も注目を浴びることになるが、ほとんどの場合、予算以外の話題が委員会の議論に挙げられるということになるようだ。
さて、その予算についてだが、まず各省庁からの要望(概算要求)が8月末までに出された。 各省庁からの要望は公開されているので、平成30年度予算についても自分で集計できるはずだが、ここは省力化して、新聞報道等を読んで特徴を見ておこう。一般会計の要求総額は101兆円程度で4年連続して100兆円を突破したが、最終的には3兆円程度は絞りこんでいくようである。社会保障費を持つ厚生労働省の概算要求は31.4兆円(2.4%増)であり、その9割以上を占める年金・医療等にかかる経費が対前年度予算+6,491億円(2.3%増)となり、過去最大となっている。財務省が持っている国債費は約23.8兆円で、これは昨今の低金利を反映して基準となる利回りを引き下げたことにより、前年度の要求時(24.6兆円)を下回っている。しかし、前年度は予算成立までに、さらに低い金利を基準とする修正をしたので23.5兆円に減っており、これから見ると増えている。今回も金利の実態に応じて修正されるものと思われるが、他の予算が年々増大していく中で、規模が大きく、減額傾向にある数少ない項目である。防衛省の要求額も過去最大の5.2兆円となり、離島防衛やミサイル防衛を中心とした防衛力整備に重点が置かれている。昨今の情勢からすると、無理からぬことのようでもある。
それと同時に、支出である予算を策定する前提の一つとして、収入としての税制改正の議論がある。各省庁が出す税制改正要望は、自らの政策が有効に機能するよう、関連する項目については減税を求めることが多い。露骨に税金をもっと取れというものはむしろ少ない(酒税・たばこ税についてはそんな印象もあるが)。余談だが、要望を認めると税収が減る。すると別のところから税を取ってこなければならない(と考えたとしよう)。すると財務省はその省庁に代替の増税項目を要求したり、あるいは全く別の分野で増税するような調整をしたりするかもしれない。だから、全然関係ないところで増税したりすることもある(たばこ税の値上げなどはそうだったのか?)。さて、産業界もそれぞれ要望を出して、所管省庁と連携しながら、関係者に説明活動などを進めていくことになる。最終的には、12月の与党税制改正大綱の発表で税制の内容はほぼ決まる。ということは世論の動向、政治情勢などを横目でみながら、政治家が決定するということになるので、説明活動先は政治家である。それを前提の一つとした予算案が年明けの国会で審議されていく。先に述べた通り現状では、ここまでくると、国会の議論において覆ることはなさそうである。そうした全体の流れをみての政策決定は、財務省や国会議員が、自分の利益・省益に留まらず、わが国の将来を見据えて総合的により良い方向に進めてくれていることを期待するしかない(たとえ実質的には財務省など役所が作った予算を、まがりなりにもチェックする国会議員は大変な仕事である)。
さて、実は今回はあまり目新しい話題がないので、こうして一般論ばかり述べているわけだが、年金とその周辺の項目につき、一通り具体的な中身を見てみることにしよう。厚生労働省の今回の要望は、子育てあるいはそれに関わる働き方支援というテーマが真っ先に挙げられている。年金関係は一つも要望事項がないといってよい。特段大きな懸念事項が現在ないというのもあろうし、毎年の与党税制改正大綱でも年金税制は基本的には追い風が吹いており、テクニカルな問題が生じればいつでも復活できるということであろう。金融庁も同様で、年金税制に関する要望事項がない。
業界からの要望も、今回の年金関連事項は、実務的な修正事項に留まっているようだ。なお毎年挙がっている「特別法人税の撤廃」要望は、昨年の議論で制度としての撤廃には至らなかったものの、課税停止期間が平成32年3月まで延長された。生命・損害の両保険協会、企業年金連合会など一部の業界団体が、忘れないように要望し続けてはいるが、あと3年は撤廃機運の盛り上がりに欠けることにはなるだろう。その他、確定拠出年金については個人型のものは、昨年9月に「iDeCo」の愛称が決まり今年1月からは専業主婦も含むほぼ誰でも加入できるまで範囲拡大され、順調に加入者を増加させているところである。またNISAについては、平成26年1月に創設され、こどもNISAが平成28年度から始まった。また普通のNISAに比べて年間投資枠は小さいが長期に非課税の恩恵がある「つみたてNISA」は、いよいよ今年10月から口座開設がスタートし、来年1月より運用が開始される。金融庁は、今回の税制改正要望の中で、現在は期限付きの優遇税制であるNISAを、恒久化するよう求めているが、昨年積立型が認められたばかりであり、今回すぐの実現は難しそうである。
今後は、12月の税制改正大綱に向けて議論がなされ、年明けの国会に進められることになる。報道によれば、その前に衆議院が解散される可能性も出てきたが、今回税制改正全般に関しては、いったんお休みという印象ではある。
ところで、税制も含めた予算については、まずは衆議院・参議院の予算委員会で審議されるのだが、聞くところによれば、少なくとも自民党政権が始まった1955年以降、審議の過程で予算そのものが修正されたことは、一度もないのだとか。国会(より正確には衆議院、参議院それぞれ)には、衆議院規則等により、法務委員会、外務委員会等様々な委員会の設置が定められており、その審議すべき内容はほぼ名前通りの省庁毎の縦割りで定められているが、予算委員会だけは「予算」としか書かれていない。予算そのものの内容に関しては、各省庁と財務省の激しい議論、あるいは政治的配慮も絡んで、相当整合性あるしっかりしたものになっており、予算委員会でのちょっとした異議などは跳ね返されてしまい、修正に至ることはないらしい(そんなことでいいのかという問題はあろうが)。それでは、ということで、予算を執行する政府・与党の不手際、不祥事をしつこく追求することにより、「そんな人たちに大事な予算執行を任せられるのか」という議論で、野党側は存在感を示そうとしたりする。そして与党側としても、期限内に予算を成立させる力量を示す必要もあり、予算委員会が最も注目を浴びることになるが、ほとんどの場合、予算以外の話題が委員会の議論に挙げられるということになるようだ。
さて、その予算についてだが、まず各省庁からの要望(概算要求)が8月末までに出された。 各省庁からの要望は公開されているので、平成30年度予算についても自分で集計できるはずだが、ここは省力化して、新聞報道等を読んで特徴を見ておこう。一般会計の要求総額は101兆円程度で4年連続して100兆円を突破したが、最終的には3兆円程度は絞りこんでいくようである。社会保障費を持つ厚生労働省の概算要求は31.4兆円(2.4%増)であり、その9割以上を占める年金・医療等にかかる経費が対前年度予算+6,491億円(2.3%増)となり、過去最大となっている。財務省が持っている国債費は約23.8兆円で、これは昨今の低金利を反映して基準となる利回りを引き下げたことにより、前年度の要求時(24.6兆円)を下回っている。しかし、前年度は予算成立までに、さらに低い金利を基準とする修正をしたので23.5兆円に減っており、これから見ると増えている。今回も金利の実態に応じて修正されるものと思われるが、他の予算が年々増大していく中で、規模が大きく、減額傾向にある数少ない項目である。防衛省の要求額も過去最大の5.2兆円となり、離島防衛やミサイル防衛を中心とした防衛力整備に重点が置かれている。昨今の情勢からすると、無理からぬことのようでもある。
それと同時に、支出である予算を策定する前提の一つとして、収入としての税制改正の議論がある。各省庁が出す税制改正要望は、自らの政策が有効に機能するよう、関連する項目については減税を求めることが多い。露骨に税金をもっと取れというものはむしろ少ない(酒税・たばこ税についてはそんな印象もあるが)。余談だが、要望を認めると税収が減る。すると別のところから税を取ってこなければならない(と考えたとしよう)。すると財務省はその省庁に代替の増税項目を要求したり、あるいは全く別の分野で増税するような調整をしたりするかもしれない。だから、全然関係ないところで増税したりすることもある(たばこ税の値上げなどはそうだったのか?)。さて、産業界もそれぞれ要望を出して、所管省庁と連携しながら、関係者に説明活動などを進めていくことになる。最終的には、12月の与党税制改正大綱の発表で税制の内容はほぼ決まる。ということは世論の動向、政治情勢などを横目でみながら、政治家が決定するということになるので、説明活動先は政治家である。それを前提の一つとした予算案が年明けの国会で審議されていく。先に述べた通り現状では、ここまでくると、国会の議論において覆ることはなさそうである。そうした全体の流れをみての政策決定は、財務省や国会議員が、自分の利益・省益に留まらず、わが国の将来を見据えて総合的により良い方向に進めてくれていることを期待するしかない(たとえ実質的には財務省など役所が作った予算を、まがりなりにもチェックする国会議員は大変な仕事である)。
さて、実は今回はあまり目新しい話題がないので、こうして一般論ばかり述べているわけだが、年金とその周辺の項目につき、一通り具体的な中身を見てみることにしよう。厚生労働省の今回の要望は、子育てあるいはそれに関わる働き方支援というテーマが真っ先に挙げられている。年金関係は一つも要望事項がないといってよい。特段大きな懸念事項が現在ないというのもあろうし、毎年の与党税制改正大綱でも年金税制は基本的には追い風が吹いており、テクニカルな問題が生じればいつでも復活できるということであろう。金融庁も同様で、年金税制に関する要望事項がない。
業界からの要望も、今回の年金関連事項は、実務的な修正事項に留まっているようだ。なお毎年挙がっている「特別法人税の撤廃」要望は、昨年の議論で制度としての撤廃には至らなかったものの、課税停止期間が平成32年3月まで延長された。生命・損害の両保険協会、企業年金連合会など一部の業界団体が、忘れないように要望し続けてはいるが、あと3年は撤廃機運の盛り上がりに欠けることにはなるだろう。その他、確定拠出年金については個人型のものは、昨年9月に「iDeCo」の愛称が決まり今年1月からは専業主婦も含むほぼ誰でも加入できるまで範囲拡大され、順調に加入者を増加させているところである。またNISAについては、平成26年1月に創設され、こどもNISAが平成28年度から始まった。また普通のNISAに比べて年間投資枠は小さいが長期に非課税の恩恵がある「つみたてNISA」は、いよいよ今年10月から口座開設がスタートし、来年1月より運用が開始される。金融庁は、今回の税制改正要望の中で、現在は期限付きの優遇税制であるNISAを、恒久化するよう求めているが、昨年積立型が認められたばかりであり、今回すぐの実現は難しそうである。
今後は、12月の税制改正大綱に向けて議論がなされ、年明けの国会に進められることになる。報道によれば、その前に衆議院が解散される可能性も出てきたが、今回税制改正全般に関しては、いったんお休みという印象ではある。
(2017年10月04日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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03-3512-1833
経歴
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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