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火災保険の契約期間短縮-自然災害の増加は予測困難~災害・防災、ときどき保険(16)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1――火災保険の保険料値上げと期間短縮
それに対応して、損害保険会社が引き受けている保険、主に火災保険(他には自動車保険(車両保険)、動産保険などの新種保険も)の保険金支払も増えており、収支面で経営を圧迫する要因の一つとなっている。
こうした現状に対して損害保険会社は、主に、保険料率の値上げや異常危険準備金による財源の準備などにより対応することになる。そうした中、損害保険料率算出機構が、2021年6月に「火災保険参考純率」を改定し、
・火災保険(住宅総合保険)の参考純率を全国平均で10.9%引き上げること
・その適用できる期間を現行の最長10年から最長5年に短縮すること
となることが決まった。実際には2022年に各社の保険料が値上げされることになりそうである。
こうしたことの仕組みも含めて、関連する動きをみていきたい。
2――自然災害による保険金支払いの増加
損害保険会社は、特に大きな自然災害(台風〇号とか、集中豪雨)については、保険金支払いの規模を、保険種目別に把握して損害保険協会などで集計している。なお、台風や豪雨とは別に、(今回の話には上らないが)地震・津波もそれぞれの保険金支払い規模を把握している。
これらは、主に火災保険(特に住宅総合保険)による支払いとなるが、そのほかに、自動車保険でも対人、対物の他に車両保険に加入していれば、車両の水没などの際に支払対象になることがある。また、傷害保険やその他各種の保険(動産保険など、まとめて新種保険などとも呼ばれる)に加入している場合も、保険金支払いの対象となることがある。
3――火災保険の保険料は、どうやって決められているか
まず、損害保険料率算出機構において、損害保険各社からの保険事故発生状況のデータ(自然災害ももちろん含まれる。)を収集し、基礎となる保険料率を提示する。(火災保険、自動車保険、傷害保険などそれぞれ。)
一般に保険料は、純粋に事故・損害等の保険金に充てられる「純保険料」と、保険会社の必要経費である「付加保険料」とから成るが、損害保険料率算出機構が算出するのは、このうち純保険料部分であり、これを「参考純率」と呼んでいる。この参考純率は毎年検証され、必要ならば金融庁長官への改定の届け出が行われ。金融庁において適合性審査が行われる1。
損害保険各社は、これを参考にして、付加保険料を加算し、あるいは自社の商品設計の内容に応じて修正することによって、実際の保険料を決定する。
毎回の参考純率の変更を採用するかどうかは各社の自由であり、またその適用時期も自由であるなど、あくまで参考という位置づけではある。しかし、損害保険料率算出機構には、自社だけのデータだけでなく、その会員会社全社のデータが集まり、それをもとに算出したのが参考純率であるから、精度が高く自社データだけの場合よりも信頼できるので、多くの場合は採用されることになる。
1 参考純率については、「損害保険料率算出団体に関する法律」による。
4――今回の対応~参考純率の引き上げと、その適用期間の短縮
さて、上のような仕組みにより、実際の保険料率が決定されるので、近年の自然災害の発生状況は最新の参考純率に反映されていることになる。その結果、今回の改定では、
・火災保険(住宅総合保険)の参考純率を全国平均で、10.9%引き上げる
ということとなった。
平均的に一言でいえばそういうことなのだが、実際には様々な契約条件(都道府県、構造、築年数、補償内容等)毎に、算出されるので、それら具体的な条件によって改定率は異なる。
ここ数年、火災保険の参考純率は、自然災害の増加を反映して、値上げが続いている。
(2014年:+3.5% 2018年:+5.5% 2019年:+4.9% に続き、今回2021年:+10.9%)
近年のような自然災害の発生状況においては、これまでの経験・傾向が今後も続くのかどうか不明である。こうした気候変動リスクについては、今後とも大きく変化するのではないかと見込まれており、現在世界的にもそうした評価・研究がすすめられているところである。
そのため、現在までのデータで、長期的にリスクを評価する(=参考純率を使い続ける)ことは、難しくなっている。そうした状況に対応するため、今回は参考純率の引き上げとともに
・この参考純率が適用できる期間を最長5年とする。(現行:最長10年)
という変更も同時に行われた。
以前は、火災に備える住宅総合保険は住宅購入時に住宅ローン完済までの長期間の保険があって、30年以上の期間のものがあった。この場合、いったん加入すると状況の変化に関わらず、30年以上保険料は変わらないということもありうるので、自然災害が以前より増加するなどの状況変化が反映できない仕組みであったことになる。
そうした状況を受けて、2014年の火災保険の参考純率の改定時に、「保険期間10年までの契約に適用できることとする」という短縮が初めて行われた(実際の保険料値上げは2015年頃から)。
それが今般、さらに5年に短縮されたわけで、それ以上先のことはその時の状況を分析して決める、ということである。ますます自然災害の頻度が高くなるかもしれない現在の懸念からすると、同じ条件の契約が、5年後に再引上げできる(加入者側からみると、余計なことだが)余地を残したということであり、ここ数年の状況を見ると実際そうなる可能性は高いだろう。この部分でも実質的に保険料率が値上げされたことになる。
5――今後の動き
こうして保険料の値上げが続く中ではあるが、その一方で自然災害などがあっても、その被害をできるだけ小さくすることは、加入者、損害保険会社、国や地方自治体など誰にとっても望ましいことである。
例えばこの損害保険料率算出機構、あるいは各損害保険会社も、そのためにできることなどの啓蒙活動を進めているところでもあり2、このレポートでも今後そうした状況も紹介していく。
2 例えば、「住宅の水災被害に備えるために」(損害保険料率算出機構 2019.9.19)https://www.giroj.or.jp/publication/accident_prevention_report/pdf/flood.pdf#view=fitV
(2021年09月29日「基礎研レター」)
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03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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