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新興諸国 高齢化の急進展により退職後の生活レベル維持が課題-退職後の生活資金の不足額等の試算

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛
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1――はじめに
ここでは、その概要について紹介したい。
2――急速な高齢化が進む新興諸国
生産年齢人口が生み出す貯蓄が金融機関を経由して投資され、成長の原動力になる、と考えられているためであるが、新興諸国は、成長の初期段階であるにもかかわらず、既に高齢化が進行してきているため、「富む前に老いる」リスクがあると指摘されている。
なお、新興諸国のうちGDPの8割をカバーする17か国についての、労働人口(15歳から65歳の人口)に対する公的年金のカバー率は、「表2」の通りであり、国によってばらつきもある上、全体的にカバー率も低い。
1 Wordld Population Prospects 2019, United Nations
3――高齢化に伴う諸課題
2 同シグマレポートによれば、新興諸国の年金制度は、概ね、以下の3つの階層で成り立っており、上記推計に用いている公的年金制度は、主に第2の年金階層を対象としている。なお、新興諸国では、第2階層に依存する傾向がある、とされている。
第1階層 政府の財源から直接拠出され、一般的には定額で、普遍的または資力調査に基づくもの。
第2階層 強制的で、政府により定められた拠出型年金であり、年金財源の大半を占める。労働者と雇用主が掛金を拠出し、年金給付は労働者の所得履歴にリンクしている。
第3階層 民間の任意年金基金ならびに保険。先進国市場ではより典型的である。
3 当推計は、既出の新興諸国のGDPの8割を占める17か国を対象にスイス再保険にて行ったものである。
なお、退職後の生活に必要な資金は、退職前所得の65%水準と仮定している。その他の前提の詳細については、同シグマレポート、P13に記載されている。
上記のような退職後の生活資金の不足が見通せる中で、新興諸国の個人は退職後資金を貯蓄する必要があるが、退職後資金を貯蓄する過程のみならず、退職後に取り崩していく過程においても、死亡、長寿、疾病罹患、思うように投資収益が得られない等の諸リスクがあり、それらのリスクへの対応も必要になってくる。
しかしながら、新興諸国では、それらのリスクへの対応も不十分であり、同シグマレポートでは、必要な保護(保障)に対する不足額(保護ギャップ)を保険料ベースで試算している。
例えば、死亡リスクに対する保護について、現存保障額/必要保障額は、「表4」の通り、地域により27%~43%、不足額は、新興諸国合計で4680億ドル(保険料換算ベース、USドル、以下同じ。)となっている。
4――おわりに
しかしながら、そもそも社会保障制度自体も整備途上の国が多いと考えられる中では、高齢化が先行する日本をはじめとする先進国とも大きく状況が異なり、退職後の生活資金確保をはじめ抜本的な解決は、容易ではなさそうに思える。
時間の経過とともに、高齢化の進行は進むことが予想されていることから、同シグマレポートでも、早急な対応が必要と指摘している。
グローバル化が進展する中では、我が国も含めた周辺諸国も少なからず影響を受けるものと考えられることから、各国の対応には今後も注視して参りたい。
4 高山武士「アジア新興国・地域の少子高齢化が経済にもたらす影響」『ジェントロジー ジャーナル』No.11-013、ニッセイ基礎研究所、2012年1月25日
(2021年09月28日「保険・年金フォーカス」)
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- 【職歴】
1989年 日本生命入社
1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職
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