2021年09月07日

ふるさと納税はなぜ3割か?-課税状況データを基に最適な返礼品の割合を考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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5――返礼品の割合引き下げると不平等も解消

ふるさと納税制度をより有効に活用するという点では、返礼品の割合の引き下げも検討に値する。2割に引き下げる場合、図表8の結果が正しければ、パイの大きさは小さくなってもふるさと納税総額の減少は限定的で、自治体に残る金額は増えると考えられる。万が一、図表7の結果が正しいとしても、パイは26%縮小するが自治体に残る金額の減少率は11%程度(ふるさと納税の減少額が)にとどまる。更に、2020年のふるさと納税の状況を鑑みると、現実的には自治体に残る金額が11%も減少しない可能性が高い。寄付者数が2019年に比べ増加し、かつ2020年の一人当たり寄付金額は10.7万円で、2018年と2019年の一人当たり寄付金額は11.6万円と比べ1万円以上低いので、中間層のふるさと納税利用率が上昇したと考えられる。未公表の2020年の寄付に対応する課税状況データを用いて図表6を描くと、左端の立ち上がりの傾斜が急で右に行くに従って傾斜が緩くなるはずだ。傾斜が緩いと言うことは、返礼品の割合が低下しても、ふるさと納税利用率はさほど低下しないと言うことだ。つまり、高額所得者層の大部分は、返礼品のへ割合が低下してもふるさと納税を続けると考えられる。パイの縮小を17%程度に抑えられれば、自治体に残る金額は減少しない。

返礼品の割合を下げると、実質的に、利用者は高額納税者に限られるのだから、公平性が失われると考えるかもしれない。しかし、現状においても既に公平性はない。返礼品が一種の還付となっており、所得が多い人ほど受けるメリットが大きいのは周知の事実である。そして、ふるさと納税返礼品の割合の低下は、不公平性を現状よりは緩和する効果が期待できる(図表9)。

2017年に事務局によって集約された意見の中には、実質的に高額所得者への優遇制度となっていることに対する懸念も多く、『現行の住民税所得割額の2 割という上限設定(定率)に加え、控除可能な寄附額の上限金額(定額)を設定することも考えられる』4や『高額所得者に対する返礼については一定の規制をすべき』1といった意見もあがっている。控除可能な寄付額に定額上限を設定すれば、ふるさと納税総額が大幅に減少することは明らかで、現時点では定額上限は設定されていない。また、返礼品は一時所得として課税対象となるが、課税対象者は極一部に限定される。一時所得の特別控除が50万円なので、寄付額に換算して170万円相当、課税所得に換算すれば4,000万円相当の納税者に限られる6。このように「高額所得者の優遇」に関しては、抜本的な改善には至っていない。返礼品の割合を2割程度に引き下げるという案は、自治体に残る金額の減少を抑えつつ、「高額所得者の優遇」という課題も緩和できる妙案ではないだろうか。
【図表9】返礼品の割合別  ふるさと納税による恩恵の差
 
6 一時所得がふるさと納税の返礼品のみの場合

6――まとめ

6――まとめ

ふるさと納税総額の増減した理由を解釈する際、返礼品の割合や制度の認知度向上に資する広宣活動(報道を含む)、甚大な災害の発生等の影響を引き合いに出すことが多い。しかし、これらの要素は納税者がふるさと納税をするかしないかという判断の際の検討材料に過ぎない。最終的には、納税者がふるさと納税をするかしないかを判断し、その結果がふるさと納税総額である(図表10)。返礼品の割合を決定する上で、幅広い観点から検討されてはいるが、納税者の意思決定プロセスが考慮されていない可能性がある。ふるさと納税に対する認知度や理解度の向上に伴いふるさと納税利用率が定常的に上昇している現在においては、限られたデータから納税者の意思決定プロセスを解明し、最適な返礼品割合を言及することに限界がある。しかし、遅かれ早かれふるさと納税も、利用率の上昇が止まり、飽和状態に達するはずだ。飽和状態に達した場合や、飽和状態に至らなくても制度の目的に照らして、ふるさと納税の寄付総額が十分な規模に到達した場合、返礼品の割合の引き下げを検討すべきだろう。さらに言えばそのような状態になるまで待たずに、まずは、ふるさと納税利用者に対するアンケートを実施する、実験的に返礼品の割合を引き下げる等の方策により、納税者の意思決定プロセスの把握に努め、より効果的な制度へ変更することが重要だと筆者は考える。
【図表10】ふるさと納税総額の決定プロセス(イメージ)
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2021年09月07日「基礎研レポート」)

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