コラム
2021年08月17日

ふるさと納税:3割5割は関係ない-2019年度は減少したというのは本当か、その理由は?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任   高岡 和佳子

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2019年度のふるさと納税額は減少したが、2019年のふるさと納税額は増加した

【図表1】 ふるさと納税額及び寄付者数の推移 今から1年前の話。2019年度のふるさと納税額が7年ぶりに減少に転じたと報道された。しかし、暦年ベースの2019年のふるさと納税額は前年より増加している。2019年度のふるさと納税が減少に転じたニュースは、フェイク・ニュースではないし、2019年のふるさと納税額が増加したことも事実である。図表1は、総務省の「ふるさと納税現況調査」の公表データをグラフ化したものである。なぜ、2019年度のふるさと納税額は前年度より減少したのに(図表1、青色線)、2019年のふるさと納税額は前年より僅かに増加したのだろうか(図表1、オレンジ色線)。

2019年度のふるさと納税額(図表1、青色線)は、4月~翌年3月(年度ベース)に自治体が受け取った寄付額であるのに対し、2019年のふるさと納税額(図表1、オレンジ色線)は、1月~12月(暦年ベース)に支払った寄付額として納税者が申告した額である。常に、年度ベースのふるさと納税額の方が暦年ベースより多い理由として、寄付したのに税制優遇措置を受け忘れた納税者の存在も考えられるが、単純に集計期間の違いによる影響が大きいと考えられる。ふるさと納税は増加傾向にあるので、集計期間がより新しい年度ベースの方が多くなるのであろう。

新制度を理由にふるさと納税をやめた人は少ない

2019年度(2019年4月~2020年3月)の寄付額は前年度より減少している一方、2019年の寄付額は前年より増加している状況は2019年1月~3月の特殊事情も関係すると思われる。2019年1月~3月に行われた寄付は年度ベースでは2018年度に計上される一方、暦年ベースでは2019年に計上される。税制優遇措置を受けられる寄付上限額は暦年ベースで決まっているので、2019年1月~3月の寄付増は同年4月~12月の寄付額の減少を招く。2019年6月の返礼品の割合を3割以下に抑制する新制度開始を前にふるさと納税の寄付の前倒しが行われたことは想像に難くない。2019年の2月・3月限定で泉佐野市が行った「100億円還元閉店キャンペーン」を覚えている人も多いだろう。寄付額の最大20%分のAmazonギフト券が付与され、ギフト券付与の総額が100億円だったので、2か月間で500億(100億円÷20%)相当の寄付受け入れを目指していたことになる。2019年6月から税制上の優遇措置が受けられなくなった4つの自治体が、2018年11月~2019年3月に受け入れた寄付額は合計812億円である。この他、対象期間を制限された43の自治体が受領した不適切な返礼品にかかる寄付額は合計455億円(期間は同じ)で、総計1,267億円にも及ぶ1。2019年1月~3月に限った寄付額は分からないが、2019年度(2019年4月~2020年3月)の寄付額を前年度より減少させるだけ十分な寄付額であったと考えられる(2019年度の対前年度寄付減少額は252億)。
 
このように、2019年6月から始まった新制度の影響で2019年度のふるさと納税額が7年ぶりに減少したのは確かだが、「新制度により返礼品の割合が低下したから、ふるさと納税寄付総額が減少に転じた」のではなく、新制度開始前の還元率が高い特定の時期における駆け込み寄付による影響と考えることができる。税制優遇措置を受けた納税者数も減少していないことから(図表1、灰色線)、新制度により返礼品の割合が低下したとはいえ、返礼品の割合の低下を理由に、ふるさと納税をやめた人は少なかったことが分かる。
 
1 総務省自治税務局「ふるさと納税指定制度における令和元年6月1日以降の指定等について」参照

返礼品の割合が減ってもふるさと納税総額は減少しない理由

【図表2】 ふるさと納税をするか否かの判断(イメージ) そもそも、返礼品の割合が5割ならふるさと納税をするが3割ならしない人は、実は少ないのではないだろうか。図表2は収入や家族構成などによって決まる各人のふるさと納税額の上限を横軸、上限までふるさと納税をした場合に受け取れる返礼品の価値を縦軸に、ふるさと納税額と返礼品の価値の関係を示している。オレンジ色が返礼品の割合が5割の場合で、青色が3割の場合である。「返礼品の価値がふるさと納税に伴うコストを上回ればふるさと納税をするが、下回ればふるさと納税をしない」という単純な経済合理性に基づくモデルで考える。寄付額の上限が少ない人(図表2の白抜け左側グレイ部分)は5割でも寄付しないし、寄付額の上限が多い人(図表2の白抜け右側グレイ部分)は3割でも寄付するので、5割か3割でふるさと納税するかしないかの違いが出るのは図表2の白抜けしている部分のみである。

ふるさと納税に伴うコストには自己負担額の2千円の他、手続きの手間に見合う心理的な対価等を含むので、コストは人によって異なる。面倒くさがり屋で、手続きの手間が惜しいという人は、相対的にコストが高くなり、コストが高いと5割か3割でふるさと納税するかしないかの違いが出る範囲(白抜けの範囲)が広がる。しかし、コストが高く、返礼品の割合低下を機にふるさと納税をしなくなった人は極少数であろう。まず、ふるさと納税していた人は元々面倒をいとわない(コストが低い)人が多いと思われる。その上、コストが高いと白抜けの範囲は広がるだけでなく、その範囲も右方向(ふるさと納税額(上限)が高い方向)に移動し、対象となる人(ふるさと納税額の上限が高い人)自体が少なくなる。このモデルに基づくと、返礼品の割合が5割か3割かによってふるさと納税をするかしないかの判断をする人は限られるということが分かる。仮にコストを1万2千円(自己負担額2千円+心理的な対価1万円)と設定した場合、判断が異なる領域(横軸)はふるさと納税上限額が2万4千円~4万円の人で、これを課税標準額(収入から給与所得控除や基礎控除、配偶者控除などを差し引いた金額)に換算すると、93万円~161万円になる。課税標準額が93万円~161万円の納税者が、全納税者に占める割合は約20%2に過ぎない。

また、ふるさと納税額の上限が高い人ほど、ふるさと納税をしている人の割合は高く、課税標準額が93万円~161万円の納税者でふるさと納税をしていた人の割合は相対的に低い。このため、返礼品の割合が5割の場合に寄付する納税者に占める、3割の場合は寄付をしない納税者の実際の割合は20%よりはるかに少ないはずだ。その上、ふるさと納税額の上限は人によって異なるが、上限が高い人ほど、ふるさと納税額は高額であり、金額的にふるさと納税総額に及ぼす影響は大きい。一方で3割の場合は寄付をしない納税者は寄付の上限額が相対的に低いのだから、返礼品の割合が5割から3割になっても、金額的な影響は少なく、ふるさと納税総額はほとんど減少しない。このように考えると、返礼品の割合が5割から3割になっても、大多数のふるさと納税者にとっては得であることに変わりなく、ふるさと納税総額にほとんど影響を与えないという結論になる。
 
2 総務省「令和2年度市町村税課税状況等の調」を参考に推計(課税標準額の段階内は一様分布を仮定)
 
 

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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

(2021年08月17日「研究員の眼」)

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