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ふるさと納税はなぜ3割か?-課税状況データを基に最適な返礼品の割合を考える

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子
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1――高額納税者ほどふるさと納税の利用率が高い
ふるさと納税返礼品の経済的メリットは寄付上限が高いほど大きいため、当然、所得が多い人ほどふるさと納税制度を利用している人の割合が高いと考えられる。市区町村の一人当たり課税対象所得とふるさと納税利用率データを用いた分析で、課税対象所得が高い市区町村ほど、ふるさと納税利用率が高い傾向も確認できる2 。実際に総務省「令和2年度 市町村税課税状況等の調」(以下、課税状況データ)を用いて課税所得階級別のふるさと納税利用率を推計した結果、所得が多い人ほどふるさと納税制度を利用している様子が鮮明に分かる(図表1)。ふるさと納税利用率の推計にあたっては、各階級の一人当たり総合課税額や所得税率を基準に算出した「ふるさと納税上限額の階級代表値(図表1の2列目)」と、各階級の寄付控除額合計から推計した「一人当たりふるさと納税額」を参考にした。なお、住民税は前年の所得に応じて課税されるため、2019年(令和元年)に行われたふるさと納税を基準とした利用率である。
1 総務省 ふるさと納税の返礼品に関する全国知事会・全国市長会・全国町村会の意見の概要(平成29年4月1日)
2 研究員の眼「利用しているのは誰?-ふるさと納税シリーズ(5)ふるさと納税に関する現況調査結果より」(2016年11月2日)参照
2――ほとんどの所得階級においてふるさと納税利用率は増加している

そもそも寄付金は経済的利益の無償の供与であるため、『寄付者に対しては、お礼状と寄付事業の報告で十分であり、本来返礼品は必要ない』3という意見がある。一方、『返礼品がなければ、制度がここまで定着し、活用されることは無かったと思われ、また地方の特産品のPRや振興に資している効果も無視すべきではない。』4という意見もある。過度な返礼品競争は困るが、返礼品を一律廃止し制度がほとんど利用されないのも困るのである。
3 総務省 ふるさと納税の返礼品に関する地方団体の実務者の意見の概要(平成29年4月1日)
4 総務省 ふるさと納税の返礼品に関する有識者の意見の概要(平成29年4月1日)
3――返礼品の割合はなぜ3割か?

様々な観点から検討された結果ではあるが、その観点の中に重要であると思われる納税者がふるさと納税をするかしないかの判断(以下、納税者の意思)は何故か含まれていない。返礼品が制度の普及に大きく影響し、返礼品の割合によっては寄付者が減少するかもしれないのに、納税者の意思は勘案されていない。それにもかかわらず、ふるさと納税利用率が低下しない絶妙な水準であったのなら奇跡ではないだろうか。それとも、有識者などから意見は出なかったが決して奇跡ではなく、事務局が内々に納税者の意思も勘案した結果なのだろうか。
3 総務省 ふるさと納税の返礼品に関する地方団体の実務者の意見の概要(平成29年4月1日)
4 総務省 ふるさと納税の返礼品に関する有識者の意見の概要(平成29年4月1日)
5 総務省 宝くじの現状と課題について(平成30年10月4日)によると、46.9%である。
4――課税状況データを基に最適な返礼品の割合を考える

その他費用の割合は2割(固定)と仮定すれば、返礼品の割合に対して自治体に残る割合は一意に決まる。このため、返礼品の割合の水準に対応するパイの大きさが分かれば、最適な返礼品の割合を導き出すことが可能になる。そこで、返礼品の割合とパイの関係は、経済合理的な納税者、つまり上限額までふるさと納税した場合に得られる返礼品の経済的価値が特定の金額(万円:以下、閾値)を超過するか否かでふるさと納税をするかしないか判断する納税者を前提に考える。要は、返礼品の経済的価値が閾値以下の場合、ふるさと納税をしないという簡単なモデルである(図表5)。閾値さえ決まれば、ふるさと納税をするかしないかが決まり、課税状況データを参考に、パイの大きさを推計することができる。パイの大きさの推定において、重要な役割を果たす閾値は、冒頭の課税状況データから導かれる所得階級別ふるさと納税利用率を参考に設定する。

当然、閾値は納税者によって異なると考えられるので、ふるさと納税上限額の階級代表値に3割を乗じた返礼品の経済的価値と、ふるさと納税利用率(図表1参照)をプロットし、直線補間したグラフ(図表6)用いて、寄付者の閾値分布を見積もる。閾値が0.5以下(5,000円以下)の人が全体の2.5%を占め、閾値が0.5~1.1(5,000円超11,000円以下)の人が全体の1.6%(4.1%-2.5%)を占めるといった具合である。なお、ふるさと納税の自己負担額が2,000円なので、閾値が2,000円以下の人はいないこととした(図表6の最左下のプロットを追加)。また、所得階級の最上位においても32.8%であることから、ふるさと納税利用率の上限は32.8%(閾値が19.1万円を超えてもふるさと納税をしない人の閾値は無限大で、ふるさと納税上限額や返礼品の割合が上がってもふるさと納税はしない)こととした。
既に気が付いているかもしれないが、「返礼品の割合が低下すると、すべての所得階級のふるさと納税利用率が低下する」という仮定は、返礼品の割合を3割以下に抑えることを厳格化された2019年においても、ほとんどの所得階級においてふるさと納税利用率は上昇していたという現実に即していない。これについては、ふるさと納税の利用率が上昇しつつあるので、返礼品の割合低下を理由にふるさと納税をやめた人もいるが、それ以上にふるさと納税制度を新たに始めた人の方が多かった可能性もある。いずれにせよ、ふるさと納税の利用率が上昇しつつある現段階においては、制度の認知度や理解度の影響が大きいので、課税所得階級別ふるさと納税利用率を過度に信頼すべきではないし、「ふるさと納税利用率の上限は32.8%」という仮定の信ぴょう性も乏しいかもしれない。
そこで、既にふるさと納税を利用している人の閾値は相対的に低く、寄付者の閾値に大きな差は無いことを前提に考える。ふるさと納税を既に利用している人の閾値は、2018年から2019年にかけてふるさと納税寄付率が変化しなかった所得階級(課税所得が10万円超100万円以下)が受け取る返礼品の経済価値である5,000円相当と仮定する。
この場合、返礼品の価値が5,000円相当を下回らない限りふるさと納税をやめない。このため、返礼品の割合が低下しても、ほとんどの所得階級においてふるさと納税利用率は低下せず、パイの縮小も限定的である。自治体に残る割合の増加に伴い、自治体に残る金額が増加し、返礼品の割合が1割で最大となる(図表8左)。つまり、最適な返礼品の割合は1割という結論に至る。ふるさと納税を既に利用している人の閾値が5,000円相当というのは低すぎるのかもしれないが、やめる閾値が11,000円相当(課税所得が100万円超200万円以下の人が受け取る返礼品の経済価値)でも、最適な返礼品の割合は2割となる(図表8右)。やめる場合の閾値の設定によって最適水準は異なるが、返礼品の割合を引き下げた方が、自治体に残る金額が増えるという結論に変わりはない。
(2021年09月07日「基礎研レポート」)
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- 【職歴】
1999年 日本生命保険相互会社入社
2006年 ニッセイ基礎研究所へ
2017年4月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会検定会員
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