2021年08月13日

英国GDP(2021年4-6月期)-行動制限の緩和でサービス業が改善

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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1.結果の概要:前期比4.8%と大きく反発

8月12日、英国国家統計局(ONS)はGDPの一次速報値(first quarterly estimate)および月次GDPを公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【2021年4-6月期実質GDP、季節調整値)】
前期比は4.8%、予想1(4.8%)と同じで、前期(▲1.6%)から増加に転じた(図表1)
前年同期比は22.2%、予想(22.1%)より上振れ、前期(▲6.1%)から改善した

【月次実質GDP(4-6月)】
前月比は4月2.2%、5月0.6%、6月1.0%となりプラス成長が続いた

(図表1)英国の実質GDP成長率(需要項目別寄与度)/ 
(図表2)英国・ユーロ圏主要国のGDP水準(コロナ禍前との比較)
 
1 bloomberg集計の中央値。以下の予想も同様。

2.結果の詳細:行動制限の緩和でサービス業が改善、名目GDPはコロナ禍前の水準に

英国の21年4-6月期の実質成長率は前期比4.8%(年率換算20.7%)となり、1-3月期のマイナス成長(▲1.6%)から大きく反発した。前年同期比ではベース効果によって22.2%と高い成長率となったが、コロナ禍前(19年10-12月)と比較すると▲4.4%であり、ユーロ圏主要国と比較すると回復状況はやや遅れている2(図表2)。
(図表3)英国の月次GDPの推移 月次GDPでコロナ禍後の動きを追うと(図表3)、昨年末から年初にかけて3回目のロックダウンで成長が低迷していたが、春以降は段階的な制限緩和(4月12日に屋外飲食、5月17日に屋内飲食の制限をそれぞれ緩和)によって経済も回復、4月にはコロナ禍後のピークであった20年10月の水準を上回った。その後も6月まで順調に改善が続いている。

部門ごとの推移を見ると、まず生産部門(鉱工業)が相対的に早く回復したものの去年の年末から横ばい圏の推移となっている。英国でも半導体不足による自動車生産への影響が見られるほか、油田のメンテナンスで鉱業生産が鈍った。建設部門は年明け以降の回復の顕著で3月にコロナ禍前の水準を超えたものの、足もとでは原材料不足による失速が見られる。サービス部門の回復は出遅れていたが、4月以降は行動制限の緩和を受けて大きく改善している。
図表4ではより細かい産業分類における月次GDP(2019年12月比)を、コロナ禍後の昨年ピーク(20年10月)、直近ボトム(21年1月)、最新値(6月)の3種類で示している。6月は行動制限の影響を大きく受けていた住居・飲食業が急回復し、コロナ禍前との比較で▲7.7%とかなり改善が進んでいることがわかる。一方、芸術・娯楽業やその他サービス業は居住・飲食業と比較するとやや回復が遅れている。
(図表4)業種別のGDP水準
(図表5)英国の名目GDP(所得別) 成長率を需要項目別に確認すると、10-12月期では、個人消費が前期比7.3%(1-3月期▲4.4%)、政府消費が同6.1%(1.5%)、投資が同▲0.5%(▲1.7%)、輸出が同3.0%(▲6.1%)、輸入が同6.5%(▲13.5%)となった。コロナ禍前との比較では、個人消費が▲7.5%、政府消費が8.0%、投資が▲4.8%、輸出が▲21.5%、輸入が▲14.4%だった。個人消費がコロナ禍前の水準までやや距離があるほか、輸出入はEU離脱後の新しい通商関係が適用された1-3月期に大きく落ち込んだ後、4-6月期の回復力も弱かったと言える。

最後に名目GDPを確認すると、4-6月期は前期比3.6%(1-3月期は▲0.1%)となった。税負担はコロナ禍前と比べ低い水準にあるものの、雇用者報酬や営業余剰が順調に増加しており、4-6月期の名目GDPの水準はコロナ禍前を上回った(図表5)。
 
2 ONSは医療や教育といった非市場生産について英国は直接的に計測しているが、そうでない国も多いため、コロナ禍の影響が多い状況ではGDPの国際間比較だけでなく、政府支出を除いた数値も比較することが有用である点を指摘している。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年08月13日「経済・金融フラッシュ」)

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