2021年07月06日

英国EU離脱プロセスの回顧-貿易協力協定の合意から完全離脱後まで-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■はじめに

英国が2016年6月23日の国民投票で欧州連合(EU)離脱を選択してから5年が経過した。EU離脱の選択直後、世界の金融市場には激震が走り、英国の政治は、EU離脱をどのよう離脱するのか、しないのかを巡って混乱が続き、離脱期限は3回にわたって延期された。しかし、19年12月の総選挙で、ジョンソン首相率いる保守党が議会の過半数を制した後は、早期の主権の回復を優先する方針が定まり、20年1月末の正式離脱、20年末の移行期間終了による完全離脱が一気に実現した。英国の正式離脱から完全離脱のタイミングは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大期と重なり、準備不足のままでの移行期間終了による混乱も危ぶまれたが、結果として、離脱選択直後に世界の金融市場が身構えたようなシステミックな危機に発展することなく、英国とEUが新たな関係に移行してから、半年が経過した。

英国のEU離脱と主権の回復は、一見、平穏に進展したが、3つの理由から、今後の展開を慎重に見守るべきと考えている。

まず、EU離脱の影響が、新型コロナのパンデミックというより大きな危機下にあって、小さく見えているに過ぎない可能性があることだ。英国はコロナ対策に大胆な経済対策を講じた国の1つである。大胆な経済対策が、コロナ禍の影響だけでなく、EU離脱の打撃も緩和している可能性がある。

次に、EU離脱による競争条件悪化の影響は、短期的なショックではなく、中長期的に持続するものであり、向こう数年にわたって、コロナ禍の後遺症と共振し続ける恐れがあることだ。

最後に、EU離脱で浮き彫りになった英国内の分断は、離脱の実現で解消するものではなく、むしろ、離脱後に深まり続けるであろうことだ。とりわけ離脱を支持したイングランドと残留を支持したスコットランドとの亀裂は、21年5月地方議会選挙でのイングランドでの保守党の勝利、スコットランドでの独立派の過半数確保という結果によっても確認された。移行期間終了で、事実上、英国の他地域から切り離された北アイルランドでは、暴力行為が散見されるようになっており、アイルランド和平への悪影響は現実のものとなりつつある。スコットランド、北アイルランドともに独立支持は若年層で高い。時間の経過とともに連合王国の遠心力は高まる可能性がある。

以下では、英国のEU離脱のプロセスに関わる記録として、将来にわたる問題の原点となる英国とEUの新たな関係に関わる協定の合意から、新たな関係の移行後に表面化した問題について紹介した3本のレポート(「英EU貿易協力協定発効へ-主権回復の見返りはEU市場へのアクセスの悪化-(「Weeklyエコノミスト・レター」2020年12月28日号)」、「英国のEU完全離脱からの1カ月で見えてきたこと(「Weeklyエコノミスト・レター」2021年1月29日号)、「聞こえてきた英連合王国分裂の足音(「研究員の眼」2021年02月25日号)」を再掲する。

■目次

≪英EU貿易協力協定発効へ-主権回復の見返りはEU市場へのアクセスの悪化-(「Weeklyエコノミスト・レター」2020年12月28日号再録)≫

≪英国のEU完全離脱からの1カ月で見えてきたこと(「Weeklyエコノミスト・レター」2021年1月29日号再録)≫

≪聞こえてきた英連合王国分裂の足音(「研究員の眼」2021年2月25日号再録)≫
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

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