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- 離脱後の英国とEUの協議-EUは移行期間延長もゼロ・ダンピングの確約も得られない-
2020年01月24日
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■要旨
- 英国のEU離脱が実感されるのは、離脱日ではなく、20年末に予定される移行期間終了時だ。
- 離脱後の英国とEUは「将来関係協定」を協議するが、「政治合意」がカバーする幅広い包括的な協定の発効手続きを、移行期間延長なしに終えることは「不可能」と見られている。
- 英国政府は、移行期間中に、国際協定の再締結、米国とのFTA交渉、アイルランド国境の開放のための枠組みやヒトの自由移動の終了後のEU市民の権利保全、新たな豪州型のポイント制の移民管理制度の導入の準備、「英国の潜在力を解き放つ」政策を進める必要がある。
- ジョンソン首相が、「移行期間の延長はしない」方針を転換するとの期待は裏切られるだろう。延長による「権限の回復」の遅れは、支持者への裏切りとなる。移行期間中に発効手続きが可能な範囲で協定をまとめれば、事実上の合意なき離脱は回避できる。
- EUは、英国が基準や規制、税の不当な引き下げ(ダンピング)に動くことを警戒し、「ゼロ・ダンピング」を「関税ゼロ、数量規制なし」の条件にしようとしている。しかし、将来にわたって引き下げないなどの「確約」を得ることは難しいだろう。
- EUと英国政府との交渉上の力関係は、ジョンソン政権の誕生で変わった。ジョンソン首相が求める「カナダ型のFTA」は「いいとこどり」ではない。加盟国であった英国との間で、20年末までに物品のFTAも規制の同等性評価も終えられないはずはない。
- 21年以降、英国とEUの相互のアクセスには、現状よりも制限が加わり、多少の混乱もあり得る。不透明感も続くだろう。離脱の経済や雇用への影響もより明確になるだろう。
- たとえ、EUが「ゼロ・ダンピング」の確約が得られなくても、現実には、英国がダンピングに動く可能性は低く、英国がより高い水準に動くことで乖離する可能性も十分ある。
- 新体制のEUは、政策課題の推進にあたって英国が圏外に去った損失を感じる場面が増えるだろう。英国との交渉に、過度に硬直的な態度で臨むことは、EUにとって得策ではない。
(2020年01月24日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹
伊藤 さゆりのレポート
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