2019年10月21日

EUは署名なき英首相の離脱延期要請にどう応えるか?-修正離脱協定から読めること-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨
  1. 19日の英国議会下院でのジョンソン首相の「修正離脱協定案」の採決は「合意なき離脱」の阻止を目的とする修正動議の可決で阻まれた。
     
  2. 背景には、「修正離脱協定案」そのものへの反対だけでなく、時間的な制約への不安、さらにジョンソン首相の手法に対する不信がある。
     
  3. ジョンソン首相は19日夜、9月9日に成立した「期限延期法」に従い、トゥスクEU首脳会議常任議長に20年1月31日まで離脱期限延期を求める書簡を送付したものの、公約の10月31日の離脱実現の構えを崩していない。「延期法」で定められた書式には署名せず、「さらなる延期は利益と信頼関係を損なう」など自らの見解を示した署名入りの書簡と合わせて送付する「奇策」に出た。
     
  4. 10月31日の「合意なき離脱」が回避できるかは、英国議会での離脱関連法の法制化の行方とともに、EU27カ国が英首相の延期要請にどう応えるかが重要になってくる。
     
  5. EUは、ジョンソン首相との「修正離脱協定」の協議で柔軟さを見せた。EUとしても、「合意なき離脱」は回避したいし、まして、その責任を負うことはしたくないからだ。
     
  6. 離脱期限に向けて、英国議会では「修正離脱協定」の承認から国民投票の動議の可決まで様々な展開が想定し得る。EUは、期限延期についても、期限内の離脱を望む姿勢を保ちつつ、離脱協定の法制化に必要な短期の延期から、総選挙、国民投票の場合の数ヶ月の延期など複数の選択肢を準備して、英国議会の動向を見守るものと思われる。
離脱協定案の採決を保留する修正動議(レトウィン修正案)採決結果
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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