2019年12月05日

英国総選挙:保守党過半数確保の勢い-最終盤での形勢逆転の可能性を考える

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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■要旨

英国総選挙まで残すところ1週間となった。

与党・保守党が、このまま勢いを保って過半数を制すれば、英国は20年1月末にジョンソン首相の合意に基づきEUを離脱し、現状を維持する「移行期間」に入る。しかし、歓迎ムードは長くは続かず、すぐに「20年末の崖」、すなわち、「将来関係協定なき移行期間終了」リスクが意識されるようになるだろう。
 
保守党のリードはジョンソン首相がとってきた強硬路線の成功を意味する。国民投票から3年半にわたり混迷が続いたことで、「離脱疲れ」が広がっていることにも支えられている。
 
最終盤での形成逆転をもたらし得る要因としては、第1に再分配重視の労働党への支持の広がり、第2に若い世代の既存の政治への不満の噴出ある。
「新たな普遍的な福祉国家」を目指すような労働党の政権公約を、保守党は厳しく批判し、ビジネス界や市場関係者の間でも評判は悪い。しかし、保守党政権下の大規模な歳出削減に不満を持つ有権者や繁栄から取り残されているとの疎外感を持つ有権者が評価する可能性はある。
労働党への支持は年齢層が低くなるほど高い。保守党政権が若い世代を軽視しているという不満が予想以上に強く、既存のメディアや世論調査、専門家らの予想外の結果が出る可能性も意識しておく必要はある。
 
英国社会には「離脱疲れ」が蔓延し、離脱が生活の改善につながるとの思いも根強いことから、ジョンソン首相が過半数を制する可能性は高そうだ。その場合、離脱後のEUとの新たな関係への移行を円滑に進めることと、離脱によってさらに拡大するおそれがある格差への対応に力を入れる必要がある。
最終盤の形成逆転で、労働党中心の政権が誕生した場合も、不確実性と分断は続く。国民投票を経て残留という結果になれば、離脱派は強い不満を抱くことになり、国内の分断は一層深まるだろう。

■目次

1――はじめに-英国総選挙の最新情勢は
  1|過半数の勢いを保つ与党・保守党
  2|保守党勝利の場合のEU離脱の進路−20年1月末離脱、年末には「崖」も
2――保守党のリードを支える要因
  1|首相の強硬姿勢への支持
  2|「離脱疲れ」の広がり
3――最終盤での形成逆転をもたらし得る要因
  1|再分配重視の労働党の公約への支持の広がり
  2|若い世代への既存の政治への不満の噴出
4――おわりに−総選挙後もEU離脱を巡る混迷は続く
  1|保守党勝利なら離脱の負の影響への対応が不可欠
  2|労働党勝利でも不確実性と分断は続く
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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