2021年08月11日

貸出・マネタリー統計(21年7月)~資金需要の鈍化が鮮明に、都銀の貸出は2カ月連続で前年割れ

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:都銀の貸出は2カ月連続で前年割れ

(貸出残高)                                                                  
8月10日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、7月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.54%と前月(同0.75%)を下回り、4カ月連続の低下となった。伸び率は2012年5月以来およそ9年ぶりの低い水準にあたる(図表1)。

貸出先の動向(6月まで)を見ると、中小企業向け貸出は引き続きプラス圏を維持している一方で、大・中堅企業向け貸出が前年を大きく割り込んでいる(図表3)。昨年6月にかけて手元資金を確保する動きから伸び率が急伸していた反動が出ているほか、外需の牽引に伴う収益改善を受けて、予備的に借り入れた資金を返済する動きが一部で発生したようだ。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)信用保証実績
このため、業態別に見た場合には、大企業向け貸出の多い都銀の伸び率が前年比-1.42%(前月は-1.61%)と前月に続いて前年割れとなっている。他方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.29%(前月は2.86%)と、比較対象となる前年に伸び率が大きく高まった反動で低下こそしているものの、依然プラス圏を維持している(図表2)。
 
なお、コロナ流行前である2019年同月との比較では、銀行貸出残高が7.0%増、既述の通り前年割れとなっている都銀の貸出も6.4%増と高止まりしている。借り手企業からすればその分だけ借入金残高とその返済負担が膨らんでいることになり、コロナ禍が企業財務に及ぼしてきた影響の大きさがうかがわれる。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が7月19日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2021年4-6月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は▲11と前回(21年1-3月期)の9から大きく低下し、2四半期ぶりにマイナス圏(「(やや)減少」とする先が優勢)へと落ち込んだ(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが▲11(前回は▲2)、中小企業向けが▲12(前回は10)とともに低下し、マイナスとなったが、特に中小企業向けの低下が著しい(図表6)。また、需要が「(やや)減少した」と答えた先にその要因を尋ねた問いにおいて、大企業向けでは「資金繰りの好転」とポジティブな理由を挙げた先が最多となった一方、中小企業向けでは「設備投資の減少」というネガティブな理由を挙げた先が最多であった。

なお、中小企業向けの資金需要判断D.I.を業種別に見た場合1、飲食・宿泊などの対面サービス業が含まれる「その他非製造業」でD.I.の低下が顕著になっている。4-6月期は首都圏などで緊急事態宣言が再発令されたことで、対面サービス業を営む中小企業では厳しい資金繰りが続いたとみられる。こうした時期には、手元資金を確保する動きが強まって資金需要が高まることが多いが、今回は実質無利子・無担保融資(民間金融機関分)終了前の1-3月期に発生した駆け込み需要の反動が出た可能性がある。
 
一方、個人向け資金需要判断D.I.は4と前回(7)から小幅な低下に留まり、依然としてプラス圏(「(やや)増加」が優勢)を維持した(図表5)。内訳では、住宅ローンのD.I.が6(前回は8)とやや低下したが、消費者ローンのD.I.が4(前回は▲1)へと上昇し、下支えとなった。緊急事態宣言再発令は重荷になったとみられるが、「個人消費の拡大」を消費者ローンの需要増加理由に挙げる先が多かった。

今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が▲1、個人向けD.I.が1と、ともに4-6月期の状況から小動きに留まるとの見立てになっている(図表5)。ただし、コロナの感染動向や緊急事態宣言の行方など景気の先行き不透明感は強く、資金需要の先行きもその影響を受ける。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)
 
1 区分は、「製造業」、「建設・不動産業」、「金融・保険業」、「その他非製造業」の4つ

2.マネタリーベース:日銀による資金供給鈍化が鮮明化

8月3日に発表された7月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比15.4%と、前月(同19.1%)を下回り、3カ月連続で伸びが鈍化した(図表7)。

鈍化の主因はマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行額が前年同月よりも縮小すると同時に、日銀による各種資金供給も国庫短期証券買入れを中心に軒並み縮小されたことから、増加額が縮小している(図表7・8)。さらに、前年比での比較対象となる昨年7月の伸びが大きかったことも、日銀当座預金の前年比での伸び率押し下げに働いた。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
その他の内訳では、日銀券発行高の伸び率が昨年7月の伸び率上昇の反動もあって前年比2.8%(前月は同3.5%)と低下する一方、貨幣流通高は前年比1.8%(前月は同2.0%)と安定した推移を維持している(図表7)。
 
なお、7月末時点のマネタリーベース残高は661兆円と前月末比1.3兆円増加した。ただし、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみると、前月比3.5兆円減と2カ月連続で明確な減少となっており、日銀による資金供給鈍化が鮮明化してきている(図表10)。

日銀はETFや国債の買入れを減額するなど市場への関与を減らしつつあるうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月のマネタリーベース伸び率の上昇が続くことから、マネタリーベースの伸び率には低下圧力がかかり続けるだろう。

3.マネーストック:実態としても鈍化傾向

8月11日に発表された7月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比5.22%(前月は5.84%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同4.61%(前月は5.15%)と、ともに5カ月連続で低下した(図表11)。
 
M3の内訳では、主軸である普通預金等の預金通貨(前月9.2%→当月8.7%)のほか、現金通貨(前月3.8%→当月3.3%)、CD(譲渡性預金・前月37.4%→当月29.3%)の伸び率が軒並み低下した(図表12)。比較対象となる昨年7月にそれぞれ伸び率が大きく上昇した反動が出ている。なお、定期預金などの準通貨(前月▲2.4%→当月▲2.6%)の伸びは引き続きマイナス2%台での推移が続いている。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比5.52%(前月は5.88%)と2カ月連続で低下した(図表11)。M2やM3と同様、昨年7月の伸び率上昇による反動が出ている。

内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下する中、従来牽引役となっていた金銭の信託(前月13.4%→当月13.6%)の伸び率が頭打ちになったことが全体の伸び率低下に繋がった(図表13)。また、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月-0.5%→当月-0.4%)の伸び率も2カ月連続で前年を割り込んでいる。
(図表14)M2、M3、広義流動性の伸び率(季調値) 最近は、前年における急拡大の裏が出る形で伸び率が圧迫されて実勢が掴みにくくなっているものの、M2、M3、広義流動性ともに前月比ではプラス基調を維持しており、通貨量の増加基調自体は続いている(図表14)。

ただし、それぞれ、前月比の伸び率も低下ぎみとなっていることから、実態としても通貨量の増勢は鈍化してきている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年08月11日「経済・金融フラッシュ」)

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