2021年06月25日

資金循環統計(21年1-3月期)~個人金融資産は1946兆円と3期連続で過去最高を更新、前年比では130兆円増

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(21年3月末):前期比では13兆円増

2021年3月末の個人金融資産残高は、前年比130兆円増(7.1%増)の1946兆円となり、3期連続で過去最高を更新した1。年間で見た場合、資金の純流入が55兆円に達したほか、株価の大幅な上昇を背景に時価変動2の影響がプラス75兆円(うち株式等がプラス50兆円、投資信託がプラス18兆円)も発生し、残高を大幅に押し上げた。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(昨年12月末)比で13兆円増と4期連続で増加した。例年、一般的な賞与支給月を含まない1-3月期は資金の純流出が起こりやすく、今回も純流出となった。ただし、その流出規模は5兆円と例年同期の約半分に留まっている。緊急事態宣言再発令に伴う対面サービス消費抑制が流出規模の縮小に働いた可能性が高い。一方、ワクチンの普及や景気刺激策による世界的な景気回復期待を背景に株価が上昇し円安も進んだことで、時価変動の影響がプラス18兆円(うち株式等がプラス11兆円、投資信託がプラス4兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と円相場の推移(月次終値)

2.内訳の詳細:外出抑制で流動性預金が増加、投資信託にも一部資金が流入

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となったが、その規模は小幅に留まり、現預金残高は1056兆円と過去最高(昨年12月末1057兆円)と遜色ない水準を維持している。内訳では、例年1-3月期に純流出となる流動性預金(普通預金など)が異例の純流入(6兆円弱)となっている一方、定期性預金からの純流出の規模は例年並みとなった(図表7)。
(図表6)家計資産のフロー(各年1-3月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年1-3月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債のフロー
定期性預金からの純流出は21四半期連続となっており、この間の累計流出額は59兆円に達している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は168兆円に達しており、特に新型コロナ流行後に流入の勢いが強まっている。この結果、流動性預金が個人金融資産に占める割合は28.1%と過去最高を更新している(図表8)。

預金金利がほぼゼロであるにもかかわらず、引き出し制限があって流動性の低い定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ402兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない。
次に、リスク性資産への投資フローについては、代表格である株式等が0.04兆円の純流入(前年同期は0.9兆円の純流入)となった(図表6)。個人投資家の株式投資は基本的に逆張りスタンスであるため、株価上昇に伴う利益確定売りが流入規模抑制に働いたとみられる。

一方、投資信託は1.8兆円の純流入(前年同期は0.5兆円の純流出)となった。純流入は4四半期連続で、金額は2015年4-6月期(2.7兆円)以来の高水準にあたる。株価同様、利益確定売りが発生したものの、流入の勢が上回ったとみられる。また、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託も0.3兆円の資金純流入となっており、純流入の規模は2019年7-9月期以来の高水準にあたる(図表9)。在宅勤務や外出抑制、世界経済の回復期待が追い風となって、一部の家計が従来よりも投資にやや前向きになっている可能性がある。今後、こうした動きがさらに広がり、「貯蓄から投資へ」の流れが本格化するかが注目される。

3.その他注目点:家計の資金余剰は再び拡大、企業の現預金は過去最高を更新

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、まず家計部門の資金余剰が再び拡大(4.3兆円→8.3兆円)している。年初に緊急事態宣言が再発令されたことでサービス消費が抑制されたことが主因と考えられる。また、同部門には自営業者を含むことから、政府・自治体からの給付金も一定寄与しているとみられる。

また、企業の資金余剰も3期連続で拡大(7.0兆円→10.2兆円)している。海外経済回復に伴う輸出の増加や政府・自治体からの給付金が拡大に寄与したと推測される。

一方、コロナ対応に伴う歳出拡大を受けたものとみられるが、一般政府部門の資金不足はやや拡大している。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高 3月末の民間非金融法人の借入金残高は12月末から1兆円減少、債務証券残高も2兆円減少した。依然として残高はコロナ前を大きく上回るものの、製造業などにおいて企業収益の持ち直しによる資金繰り改善を受けて、債務が一部返済されたとみられる(図表11)。

一方で、民間非金融法人の現預金残高は320兆円と12月末から12兆円増加し、過去最高を大きく更新した。先行きの資金繰りへの警戒から債務によって調達した資金を手元に積んでおく傾向が根強いなか、主に収益の持ち直しが増加に寄与したとみられる。
(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー) なお、1-3月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資が4.1兆円と、10-12月期の2.8兆円から増加し、コロナ禍前の5年平均(2015~19年)の平均レベル(3.7兆円)を3期ぶりに上回った3(図表12)。

製造業を中心に収益が持ち直し、投資余力が回復したうえ、世界経済の回復期待が高まり、国内企業の間で海外投資を再開する動きが顕在化した可能性がある。
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア 3月末時点の国債(国庫短期証券を含む)残高は1218兆円(昨年12月末は1220兆円)と昨年末からほぼ横ばいとなった。

主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、最大保有者である日銀の国債保有高は542兆円と12月末から4兆円減少し、全体に占めるシェアも44.5%(12月末は44.7%)とやや低下している。日銀が年初以降に長期国債の買入れペースを鈍化させたほか、コロナ流行後に大量に買い入れた国庫短期証券が償還を迎えていることが背景にある。

一方、銀行など預金取扱機関の保有高は12月末比4兆円増の176兆円と、2018年3月以来の高水準になった。全体に占めるシェアも14.5%(12月末は14.1%)とやや上昇している。預金の増加に伴って余資運用のニーズが拡大したことが背景にあるとみられる。

なお、海外部門の保有高は昨年12月末比2兆円減の160兆円、シェアも0.2%ポイント減の13.2%となった。内訳では、国庫短期証券が微増の一方、国債・財投債が減少している。海外の国債利回りが上昇し、日本国債の投資妙味が下がったことが影響した可能性があるが、もともと国債・財投債の残高は2019年9月をピークに減少基調にあるため、今後の動向が注目される。
 
3 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.6兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年06月25日「経済・金融フラッシュ」)

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