2021年06月09日

貸出・マネタリー統計(21年5月)~対面サービス業向けの貸出が高止まり、日銀による資金供給量は久々に鈍化

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:都銀の貸出伸び率がほぼゼロに

(貸出残高)                                                                  
6月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、5月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.19%と前月(同4.25%)を大きく下回り、2カ月連続の低下となった。全体としてみれば資金需要の増加が一服しているうえ、比較対象となる昨年5月にコロナ禍初期の資金繰り悪化によって貸出が大幅に伸びた(昨年4月3.13%→5月5.13%)反動で、伸び率が押し下げられた(図表1)。
 
業態別で見た場合には、都銀の伸び率が前年比0.19%(前月は3.90%)と前月から急低下する一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.97%(前月は4.56%)と緩やかな低下に留まった(図表2)。都銀では、昨年5月に主たる貸出先である大企業において手元資金を確保する動きが強まり、貸出の伸び率が急伸していた反動が強く出た(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)信用保証実績
昨年は6月にかけて貸出の伸び率が上昇(昨年5月5.13%→6月6.55%)したため、次回6月も前年比での比較のハードルが上がり、伸び率の押し下げ圧力が高まる。従って、貸出の伸び率は低下し、都銀ではマイナス圏に落ち込むとみられるが、全体としては小幅なプラス圏に留まると見ている。
(業種別貸出動向)
なお、今年1-3月期の業種別貸出データを見ると、引き続き輸送用機械を中心とする製造業や不動産業、対面サービス業(飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業)向けの寄与度がプラスを維持し全体の牽引役となっている(図表5)。ただし、製造業向けの貸出残高は昨年4-6月をピークに徐々に減少している(図表6)。好調な輸出などを背景に収益が回復して資金繰りに目途が立ったことを受けて、予備的に借り入れていた資金の返済が進んでいると推察される。

一方で、飲食、宿泊、生活関連サービス・娯楽業といった対面サービス業向けの貸出残高はコロナ前と比べて2割~3割増の水準で高止まりしている。今年年初以降も、緊急事態宣言の再発令や営業時間短縮要請などを受けて資金繰りの厳しい状況が続いており、運転資金需要が続いていることがうかがわれる。
(図表5)貸出伸び率の業種別寄与度/(図表6)主な業種別の貸出残高水準

2.マネタリーベース:資金供給量の伸びが1年1ヵ月ぶりに鈍化

6月2日に発表された5月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの伸び率(平残)は前年比22.4%と、前月(同24.3%)を下回り、1年1ヵ月ぶりに伸びが鈍化した(図表7)。

日銀当座預金の減少要因となる政府による国債(国庫短期証券を含む)発行は、コロナ対応の歳出拡大を受けて引き続き高水準で推移しており、日銀による資金供給もコロナ前に比べれば活発な状況が続いている。しかし、日銀が3月の政策修正後にETF・国債買入れの減額に踏み切っていることに加え(図表8)、前年比での比較対象となる昨年5月の日銀当座預金の伸び率が反発したことも伸び率の押し下げに作用した。

その他の内訳では、日銀券発行高の伸び率が昨年5月の伸び率上昇の反動もあって前年比4.4%(前月は同5.3%)と低下する一方、貨幣流通高は前年比1.9%(前月も同じ)と横ばいでの推移が続いている(図表7)。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額(月次フロー)/(図表9)日銀国債保有残高の前年比増減/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移
なお、5月末時点のマネタリーベース残高は650兆円と前月末比5.0兆円減少した。季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみても、前月比4.1兆円の増加と直近1年間平均の4割に留まっている(図表10)。
 
日銀は3月の政策修正以降、資金供給に対する姿勢をやや後退させている。さらに、今後も比較対象となる昨年同月のマネタリーベース伸び率上昇が続くことから、マネタリーベースの前年比伸び率は低下に向かうと見込まれる。

3.マネーストック:広義流動性の伸びが連月で過去最高を更新

6月9日に発表された5月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比7.93%(前月は9.20%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同6.86%(前月は7.83%)と、ともに3カ月連続で低下した(図表11)。
 
M3の内訳では、主軸である普通預金等の預金通貨(前月14.1%→当月12.2%)の伸び率が大きく低下し、全体の伸び率低下の主因となった(図表12)。比較対象となる昨年5月に貸出の急増に伴って預金通貨の伸び率が急上昇した反動が出ている。また、同様に前年の伸びの反動が出る形で現金通貨の伸び率が前年比5.1%(前月は5.7%)と鈍化したことも響いた。

なお、CD(譲渡性預金・前月26.7%→当月32.3%)の伸びが大きく上昇したことがわずかながら支えとなった。定期預金などの準通貨(前月▲1.8%→当月▲2.0%)の伸びは小動きに留まった。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
(図表13)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 一方、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比7.27%(前月は6.79%)とやや上昇し、連月で過去最高の伸びを更新した(図表11)。

M2やM3と違い、前年5月の伸び率上昇が小幅に留まっていたため、前年比の反動が小さかったことが背景の一つにある。

また、内訳を見ると、規模の大きい金銭の信託(前月5.9%→当月13.4%)の伸びが急伸し、広義流動性全体の伸び率上昇に大きく寄与している。詳細は不明だが、昨年度の資産価格上昇を受けて、元本に再投資される配当金が急増した模様(図表13)。

なお、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月1.4%→当月1.0%)の伸び率はやや低下したものの、最近は小幅なプラスが続いている。
 
前年の大きな動きによって伸び率が圧迫されて実勢が掴みにくくなっているものの、前月比などの動きを勘案して見ると、通貨量の増加基調は続いている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年06月09日「経済・金融フラッシュ」)

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