2021年05月20日

ドル円110円回復への距離感~マーケット・カルテ6月号

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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為替・金利 3ヶ月後の見通し 今月のドル円は1ドル109円を挟んだ一進一退の展開が続いている。米国では景気の回復が続き、物価上昇も勢いを増しているものの、雇用統計をはじめ予想に届かない経済指標も多く、ドル買いが続かなかった。また、FRB要人が当面の量的緩和縮小に慎重な姿勢を再三表明したこともドルの上値を押さえた。直近では、昨日公表されたFOMC議事要旨で量的緩和縮小の議論開始についての言及が確認されたことを受けてやや上昇しているが、足元でも109円台前半に留まっている。

当面はFRBが量的緩和縮小に慎重な姿勢を維持すると見込まれるほか、ユーロに対するドルの弱含み(理由は後述)がドル円でもドル高抑制に働くことで、ドルの上値が重い展開が予想される。しかしながら、米国では今後もワクチン接種が進展し、経済が正常化に向かうと見込まれるため、夏場には量的緩和縮小の議論開始がますます意識されるようになり、米金利の持ち直しを通じてじわりとドルが上昇に向かう可能性が高い。3カ月後の水準は現状比でやや円安ドル高の1ドル110円台と予想している。

今月のユーロ円は、ユーロ圏におけるコロナ対応の行動規制緩和を受けた景気回復期待によってユーロがやや上昇し、足元は1ユーロ132円台後半にある。ユーロ圏では今後もワクチン接種の進行や行動規制の緩和によって景気回復期待が高まりやすい。また、ECBが現在一時的に拡大している債券買入れペースを縮小する可能性があることもユーロの支援材料になる。3か月後は現状比で円安ユーロ高となり、1ユーロ135円程度になると見ている。

長期金利は、今月に入り、0.0%台後半での膠着した推移が続いている。米金利が一進一退の展開となっているうえ、日銀が5月の長期国債買入れ額を4月から据え置いたことも動意を欠く要因になっている。今のところ日銀が金利を動かす意図は感じられず、当面は小動きが予想される。夏場には米量的緩和縮小の議論開始がますます意識されるようになり、米金利からの金利上昇圧力波及が予想されるが、0.1%を上回る水準では債券需要が高まり、金利が抑制されるだろう。従って、3か月後の水準は現状をやや上回る0.1%程度と見ている。
 
(執筆時点:2021/5/20)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2021年05月20日「基礎研マンスリー」)

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