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- コロナ克服前の日本経済に新たな試練-資源価格高騰で膨らむ所得流出額
2021年08月05日
世界経済の回復を背景に資源価格が高騰している。原油価格(WTI)は新型コロナウイルス感染拡大に伴う世界的な需要の急減を受けて2020年4月には1バレル=10ドル台(月中平均)まで下落したが、足もとでは70ドル台まで上昇している。また、銅やアルミニウムといった非鉄金属、とうもろこしや小麦といった穀物などの国際商品市況も軒並み大きく上昇している。
悪化する交易条件
交易条件の悪化は日本から海外への所得流出が進んでいることを意味する。GDP統計では、交易条件(輸出入の相対価格)の変化に伴う実質所得(購買力)の変化を把握する指標として、「交易利得」が公表されており、「実質国内総所得(GDI)=実質GDP+交易利得」という関係がある。
たとえば、2021年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲3.9%のマイナス成長となったが、輸入デフレータ―の上昇率(前期比6.7%)が輸出デフレーターの上昇率(同2.1%)を大きく上回ったため、交易利得は0.2兆円(季節調整済・年率換算値)となり、前期から▲4.3兆円の大幅減少となった。この結果、実質GDIは前期比年率▲6.5%と実質GDP以上に大きく落ち込んだ[図表2]。
たとえば、2021年1-3月期の実質GDPは前期比年率▲3.9%のマイナス成長となったが、輸入デフレータ―の上昇率(前期比6.7%)が輸出デフレーターの上昇率(同2.1%)を大きく上回ったため、交易利得は0.2兆円(季節調整済・年率換算値)となり、前期から▲4.3兆円の大幅減少となった。この結果、実質GDIは前期比年率▲6.5%と実質GDP以上に大きく落ち込んだ[図表2]。
海外への所得流出額の試算
輸入物価の上昇ペースは一段と加速しており、2021年度入り後は海外への所得流出がさらに拡大していることが見込まれる。ここで、原油価格が現状とほぼ同水準の1バレル=75ドルで推移した場合、2021年度末にかけて100ドルまで上昇した場合、GDP統計の交易利得が2021年度にどの程度減少するかを試算した。その他の資源価格は原油価格にほぼ連動、為替レートは1ドル=110円で横ばい、輸出物価は足もとの上昇ペースが今後も続くと仮定した。
試算結果は図表3のとおりである。原油価格が今後横ばいで推移した場合、2021年度の交易利得は2020年度に比べて▲15.7兆円減少する。原油価格が2021年度末にかけて100ドルまで上昇した場合は、2021年度の交易利得は2020年度に比べて▲23.4兆円減少する。
試算結果は図表3のとおりである。原油価格が今後横ばいで推移した場合、2021年度の交易利得は2020年度に比べて▲15.7兆円減少する。原油価格が2021年度末にかけて100ドルまで上昇した場合は、2021年度の交易利得は2020年度に比べて▲23.4兆円減少する。
当研究所では、2021年度の実質GDP成長率を3.5%と予想している。これを実質GDPの実額でみると2020年度の526.4兆円に対して、2021年度は544.5兆円、前年度に比べて18.2兆円の増加となる。つまり、原油価格が100ドルまで上昇した場合、交易利得の減少分が実質GDPの増加分を上回り、2021年度の実質GDI成長率はマイナスとなることを意味する。
この試算は、交易条件悪化に伴う海外への所得流出額のみを取り出したものである。実際には、原油などの資源価格の高騰は企業収益の悪化や家計の実質購買力の低下をもたらし、経済活動はさらに下押しされる可能性が高い。日本経済はコロナ禍を克服する前に新たな試練に直面している。
この試算は、交易条件悪化に伴う海外への所得流出額のみを取り出したものである。実際には、原油などの資源価格の高騰は企業収益の悪化や家計の実質購買力の低下をもたらし、経済活動はさらに下押しされる可能性が高い。日本経済はコロナ禍を克服する前に新たな試練に直面している。
03-3512-1836
経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
(2021年08月05日「基礎研マンスリー」)
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