2021年07月06日

年金改革ウォッチ 2021年7月号~ポイント解説:若年世代(児童・学生)向け年金教育

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金広報検討会は、若年世代(児童・学生)向けの年金教育や、財政検証をマンガで説明するWebページのリニューアルなどを議論した。年金事業管理部会は、日本年金機構の2018年度の業務実績について報告を受けて意見を交換し、一部が修正された報告書を了承した。年金数理部会は、作業班で検討してきた2019年度の公的年金財政状況報告を大筋で了承し、一部を修正した報告書を公表した。
 
○年金広報検討会
6月7日(第10回) 若年世代向け学習教材の開発、個々人の年金の「見える化」のための取組み、
「いっしょに検証!公的年金」のリニューアル
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00024.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金事業管理部会
6月14日(第55回) 日本年金機構の令和2年度業務実績(案)
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo55_00002.html (資料)
6月28日(第56回) 日本年金機構の令和2年度業務実績(案)の修正
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo56_00002.html (資料)
 
○社会保障審議会  年金数理部会
6月28日(第89回)  公的年期財政状況報告-令和元年度、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00018.html (資料)
     https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198528_00003.html (報告書)
 

2 ―― ポイント解説:若年世代(児童・学生)向け年金教育

2 ―― ポイント解説:若年世代(児童・学生)向け年金教育

先月の年金広報検討会では、若年世代(児童・学生)向けの年金教育が議題となった*1。本稿では、年金教育や社会保障教育に関する近年の議論の経緯を確認した上で、今後の展望を考える。
 
*1 当日の議論を傍聴できず、かつ議事録は未公開のため、配布資料や報道に基づいて執筆している。
図表1 年金教育に関係する近年の政府会議体/図表2 教育現場の実態や課題 (高校) 1|経緯:これまでの取り組みを反省して見直し
先月の年金広報検討会では年金教育が議題となったが、年金教育を含む社会保障教育については、近年、政府の複数の会議体で話題になっていた(図表1)*2。1つは、2020年2月に首相官邸に設けられた「全世代型社会保障に関する広報の在り方会議」である*3。この会議の第1回会合では、スウェーデンの金融社会保障教育が事務局から紹介された。また、同年7月に公表された同会議の報告書では、概ね20代以降に接触することになる各種の社会保障広報を理解するための土台として、社会保障教育と年金教育の継続拡充が位置づけられた。

しかし、現在の年金教育は2014年7月に公表された「社会保障の教育推進に関する検討会報告書~生徒たちが社会保障を正しく理解するために~」に基づくもので、図表2のような課題が教育現場などから指摘されていた。そこで、これらの課題への解決策を検討するため、2021年3月に「社会保障教育モデル授業等に関する検討会」が設けられた*4。その第1回会合では年金の授業案が議論され、マクロ経済スライドなどの用語を使うことへの懸念や授業時間短縮などの意見が出た。
 
*2 このほか2018/11~2019/05に(公財)年金シニアプラン研究機構で「若年者向けライフプラン教育に関する調査チーム」が開かれた。
*3 この会議の構成員のうち3名は、年金広報検討会の構成員も務めている。
*4 年金広報企画室も事務局の一員を務めている。
2|展望:マンガや動画の活用、授業参観での実践のほか、計算問題(文章題)への組込みも
2021年6月の年金広報検討会では、2021年3月に公開されたマンガや動画を活用したモデル授業を中高生向けに実施し、教材の開発やモデル授業の全国展開を目指す方向性が示された*5。これに対して委員からは、「モデル授業は参観日などに行い、親も巻き込んで年金教育の相乗効果をねらってはどうか」といった意見が出たと報道されている*6。筆者も、子どもの授業参観で下水処理の課題や家庭でも可能な対策を学んだ経験があり、この意見に賛同する。
図表3 年金に関係する計算問題の案 (筆者素案) これらに加えて筆者が提案したいのが、計算問題(文章題)への組込みである(図表3)。前述した首相官邸の会議でも取り上げられたように、スウェーデンでは社会保障教育に工夫が凝らされている。筆者が2004~2005年頃に同国版の「ねんきん定期便」(orange envelope)の開発担当者に会った際には、算数の教科書に年金に関係する計算問題が登場するように工夫している、という話を聞いた。

日本の高校では、社会科(公民)のほか必修である家庭科の生活設計の分野でも社会保障を学ぶという。現在の年金教育の教材や教材案は理念的な内容が中心だが、生活設計にはお金としての数的な感覚も重要だろう。そこへのつなぎとしては気が早い話かも知れないが、小学生のうちから(親や祖父母も巻き込んで)教科横断的に生活設計や(社会)保険の仕組みに馴染んでおくのも一案ではなかろうか。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2021年07月06日「保険・年金フォーカス」)

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