2021年07月07日

2021・2022年度経済見通し

基礎研REPORT(冊子版)7月号[vol.292]

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1―3四半期ぶりのマイナス成長

2021年1-3月期の実質GDPは、前期比▲1.0%(年率▲3.9%)と3四半期ぶりのマイナス成長となった。

緊急事態宣言再発令の影響で、民間消費(前期比▲1.5%)、設備投資(同▲1.2%)が減少したことに加え、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた医療機関の受診減少、「Go To トラベル」の停止から、政府消費が前期比▲1.1%の減少となったことが成長率を押し下げた。。また、世界的な経済活動の持ち直しを背景に輸出が前期比2.2%の増加となったが、国内の財需要の底堅さを背景に輸入が前期比3.9%と輸出の伸びを上回ったため、外需寄与度が前期比▲0.2%と3四半期ぶりのマイナスとなった。

この結果、2020年度の実質GDP成長率は▲4.6%(2019年度は▲0.5%)となり、リーマン・ショック時の2008年度(▲3.6%)を超えるマイナス成長となった。

日本経済は2020年4-6月期に過去最大のマイナス成長となった後、2四半期連続で前期比年率二桁の高成長を記録したが、2021年1-3月期は緊急事態宣言の再発令を受けて再びマイナス成長となり、経済正常化に向けた動きはいったん足踏みとなった。

2―3度目の緊急事態宣言の影響

緊急事態宣言は3月下旬にいったん解除されたが、4/25から東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県を対象に3度目の宣言が発令された。当初は5/11までとされていた緊急事態宣言の期限は6/20まで延長され、対象地域も10都道府県まで拡大した。緊急事態宣言対象地域のGDPが日本全体に占める割合は、4/25時点の32%から5/23以降は50%まで高まった。

Google社の「コミュニティ モビリティレポート」によれば、小売・娯楽施設(レストラン、カフェ、ショッピングセンター、テーマパーク、映画館などが対象)の人出は、2021年1月の緊急事態宣言発令に伴い大きく落ち込んだ後、新型コロナウイルス陽性者数の減少や一部地域での宣言解除を受けて3月末にかけて持ち直した。4月に入ってからは陽性者数の増加を受けたまん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発令によって、東京、大阪などの緊急事態宣言対象地域を中心に人出が大きく減少し、5月のGW明けには緊急事態宣言延長や対象地域の拡大を受けて全国で減少ペースが加速した。しかし、コロナ慣れや自粛疲れの影響などもあり、5月下旬以降は人出の減少幅が縮小している[図表1]。
[図表1]小売・娯楽施設の人出
今回の緊急事態宣言は、酒類を提供する飲食店、百貨店(食料品など生活必需品の売り場を除く)の休業、テーマパーク・遊園地の休園など、経済活動の制限が前回の緊急事態宣言時(2021年1月~)よりも厳しくなっていたが、6月に入ってからは制限が一部緩和されている。

緊急事態宣言による個人消費への影響を財、サービス別にみると、人出との連動性が高いサービス消費は低迷が続くものの、すでに水準が大きく下がっているため、追加的な下押し圧力は限定的にとどまる公算が大きい[図表2]。また、財消費は、大規模商業施設の休業や営業時間短縮がマイナス要因となるが、巣ごもり需要の拡大を背景に底堅い動きが続くだろう。
[図表2]小売・娯楽施設の人出とサービス消費

3―高水準の貯蓄が消費を押し上げる可能性

家計の可処分所得は2020年4-6月期が前年比11.6%、7-9月が同2.9%と雇用者報酬が減少する中でも大幅に増加していた。一人当たり10万円の特別定額給付金の支給によって大きく押し上げられたためである。しかし、特別定額給付金の支給は9月にほぼ終了したことから、10-12月期の可処分所得は雇用者報酬の減少を主因として前年比▲1.9%と減少に転じた。

マクロベースでみた特別定額給付金の支給額は12.7兆円で、2020年度の雇用者報酬の減少額▲5.8兆円を大きく上回った。このため、2020年度の家計の可処分所得は前年比3.0%の増加となることが見込まれるが、2021年度はその反動で同▲4.1%の大幅減少となることが予想される。

一方、緊急事態宣言などによる家計の行動制限によって消費性向が平常時よりも大きく下がった状態が続いているため、貯蓄額は高水準が維持されている。家計の貯蓄額は特別定額給付金の支給が集中した2020年4-6月期に74兆円(季節調整済・年率換算値)と急増した後、10-12月期には18兆円まで減少したが、依然としてコロナ前の水準を大きく上回っている。

先行きについては、緊急事態宣言が解除されたとしても、当面は何らかの行動制限が残り、消費の持ち直しは限定的にとどまる公算が大きい。家計の貯蓄は可処分所得が低迷する中でも高水準が維持される可能性が高いだろう[図表3]。このため、長い目でみれば、行動制限が大きく緩和され消費性向が平常時の水準に戻ることによって、消費が大きく押し上げられる可能性がある。
[図表3]家計の可処分所得、消費支出、貯蓄の推移

4―実質GDP成長率の見通し

2021年4-6月期は0.3%(前期比年率1.1%)と2四半期ぶりのプラス成長になると予想する。民間消費は前期比▲0.1%と2四半期連続で減少するが、サービス消費の落ち込みが小さくなることから、1-3月期の同▲1.5%からはマイナス幅が大きく縮小するだろう。また、2020年春頃とは異なり、民間消費以外の需要項目は緊急事態宣言の影響を受けにくくなっている。住宅投資、設備投資、輸出は増加することが見込まれる。

2021年7-9月期は緊急事態宣言の解除を前提として前期比年率4.8%の高成長になると予想する。行動制限が緩和されることにより、民間消費が前期比1.8%の高い伸びとなることが高成長の主因となる。ただし、まん延防止等重点措置や緊急事態宣言が断続的に発令され、消費が下振れるリスクは否定できない。

先行きについては、ワクチン接種の進捗により新型コロナウイルスの陽性者数が一定程度減少することが期待される。しかし、陽性者数がゼロになることは考えにくく、変異株の出現や気温の変化などによって増減を繰り返す可能性がある。その都度、休業要請や外出自粛などの感染抑制策が講じられれば、経済の停滞は長期化するだろう。

実質GDP成長率は、2021年度が3.5%、2022年度が1.9%と予想する。経済活動の制限が緩和されたとしても、ソーシャルディスタンスの確保などが引き続き対面型サービス消費を抑制する。このため、景気回復が続く中でも、外食、旅行などの対面型サービス業とそれ以外の業種の二極化がさらに進む可能性が高いだろう。需要項目別には、民間消費は2020年度の前年比▲6.0%の後、2021年度が同2.7%、2022年度が同1.9%と大幅な減少の後としては低い伸びにとどまることが予想される、一方、海外経済の回復を受けて輸出が2020年度の前年比▲10.5%から2021年度が同12.9%、2022年度が同3.7%と急回復することが成長率の押し上げ要因となるだろう。

現時点では、実質GDPの水準がコロナ前(2019年10-12月期)を上回るのは2022年1-3月期、消費税率引き上げ前の直近のピーク(2019年7-9月期)に戻るのは2023年度と予想している[図表4]。

しかし、先行きの新型コロナウイルスの感染動向やそれに対応する公衆衛生上の措置を想定することは極めて困難である。これまでと同様の政策対応が続けば、経済の正常化はさらに遅れる可能性が高まるだろう。
[図表4]実質GDPが元の水準に戻る時期
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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年07月07日「基礎研マンスリー」)

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