2021年06月18日

消費者物価(全国21年5月)-コアCPI上昇率はプラスに転じたが、基準改定でマイナスに修正される可能性も

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.コアCPI上昇率は1年2ヵ月ぶりのプラス

総務省が6月18日に公表した消費者物価指数によると、21年5月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.1%(4月:同▲0.1%)となり、1年2ヵ月ぶりにプラスとなった。事前の市場予想(QUICK集計:0.1%、当社予想も0.1%)通りの結果であった。
消費者物価指数の推移 生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比▲0.2%(4月:同▲0.2%)、総合は前年比▲0.1%(4月:同▲0.4%)であった。
消費者物価指数(生鮮食品除く、全国)の要因分解 コアCPIの内訳をみると、電気代(4月:前年比▲5.8%→5月:同▲2.9%)、ガス代(4月:前年比▲3.5%→5月:同▲1.7%)の下落幅が縮小し、ガソリン(4月:前年比13.5%→5月:同19.8%)、灯油(4月:前年比11.8%→5月:同19.0%)の上昇幅が拡大したことから、エネルギー価格の上昇率が4月の前年比0.7%から同4.2%へと拡大した。

一方、宿泊料(4月:前年比3.1%→5月:同0.9%)、外国パック旅行費(4月:前年比1.2%→5月:同▲0.4%)の伸びが低下し、教養娯楽の上昇率が4月の前年比1.1%から同0.6%へと縮小したことがコアCPIを押し下げた。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが0.32%(4月:0.05%)、食料(生鮮食品を除く)が0.00%(4月:0.02%)、携帯電話通信料が▲0.56%(4月:同▲0.53%)、その他が0.34%(4月:0.36%)であった。

2.上昇品目数の割合は引き続き50%を下回る

消費者物価(除く生鮮食品)の「上昇品目数(割合)-下落品目数(割合)」 消費者物価指数の調査対象523品目(生鮮食品を除く)を、前年に比べて上昇している品目と下落している品目に分けてみると、5月の上昇品目数は256品目(4月は255品目)、下落品目数は201品目(4月は203品目)となり、上昇品目数が前月から増加した。上昇品目数の割合は48.9%(4月は48.8%)、下落品目数の割合は38.4%(4月は38.8%)、「上昇品目割合」-「下落品目割合」は10.5%(4月は9.9%)であった。

コアCPIは上昇に転じたが、上昇品目数の割合は20年11月から50%を下回る水準で横ばい圏の動きとなっている。

3.コアCPI上昇率は基準改定でマイナスに修正される可能性も

コアCPIに対するエネルギーの寄与度 コアCPI上昇率は、エネルギー価格の上昇率拡大を主因として1年2ヵ月ぶりのプラスとなった。足もとの原油価格上昇を受けて、エネルギー価格の上昇ペースはさらに加速し、年末にかけては前年比で二桁の伸びとなり、コアCPI上昇率への寄与度は1%近くまで高まることが見込まれる。また、8~12月は前年の「Go Toトラベル」による宿泊料の大幅下落の裏が出ることも押し上げ要因となるため、コアCPIは年末にかけて1%程度まで伸びを高めることが予想される。
乖離する公式指数と連鎖指数 なお、消費者物価指数は21年8月(21年7月分公表時)に2015年基準から2020年基準への切り替えが予定されている。総務省が参考指数として公表している連鎖指数(毎年の消費構造の変化を反映した指数)によるコアCPI上昇率は、公式指数(固定基準指数)よりも21年4月が▲0.4%、5月が同▲0.3%低くなっている。

21年4月に大幅な値下げが実施された携帯電話通信料のウェイトが2015年から2020年にかけて高まっていること1、2015年基準で大きく低下している携帯電話通信料の指数水準が連鎖方式では毎年、前年12月=100にリセットされることから、連鎖指数のほうが携帯電話通信料下落の影響が強く出ていることが、両指数の上昇率が乖離する主因となっている。

5年に一度の基準改定時には、新基準の上昇率が旧基準の連鎖指数の上昇率に近づく傾向がある。2015年基準のコアCPI上昇率は21年5月に続き6月もプラスとなることが見込まれるが、2020年基準で公表される21年7月分の公表時に過去に遡ってマイナスに修正される可能性もあるだろう2
 
1 ただし、2020年基準では、新型コロナウイルス感染症の影響を緩和するため、2019・2020 年の平均消費支出を用いてウェイトを作成する
2 2020年基準の前年比上昇率は21年1月に遡って改定される
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2021年06月18日「経済・金融フラッシュ」)

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