コラム
2021年06月30日

はじめての不動産投資(3)-初心者には難しい不動産 (1)新築の不動産

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. はじめに

前回の、『はじめての不動産投資(2)1では「収益還元法の使い方と注意点」について述べた。今回からは、初心者にはあまり向かないのではないかと思われる不動産を取り上げる。

不動産投資といっても、用途・建物の有無などの違いにより、様々な不動産に対する投資が考えられ、いくつかの不動産は、購入時の検証項目が多かったり、運用の仕方が複雑であったりする。これらのうち、全ての投資が失敗するわけではないが、知らずに購入すれば、購入後に苦労も多くなるだろう。

様々な不動産のなかでも、初心者が売買などの情報を見つけやすいが、収益や価格の見込み違いにより購入後に苦労しやすいものを3つ選んだ。一つ目に取り上げるのは、新築の不動産である。
(1) 中古の賃貸用不動産の価格検証では、信頼性の高い価格を得やすい
一般的に、不動産の価格を求めるには、①原価法、②取引事例比較法、③収益還元法の3つの手法を用いる。①原価法は土地価格と建物価格(今ある建物を適正な費用で再建築し、経年・破損・競争力などに応じて現在と同等の状態の価値まで減額した価格)を合計する方法、②取引事例比較法は、価格を求めたい不動産によく似た不動産の取引の情報を集め、集めた情報と比較しながら価格を決める方法、③収益還元法は、価格を求めたい不動産から将来得られる純収益を期待する利回りで除す方法である(図表1)。
図表1 不動産の価格を求める3手法
中古の賃貸用不動産の場合、既に実際の賃料収入や各種費用を確認できるため、将来の収支計画を反映することができる③収益還元法による価格を重視すると良いが、②近隣の同様な不動産の価格を参考にできる取引事例比較法による価格も説得力を持つことが多い。

②取引事例比較法による価格を求める場合、アパート・マンションといった用途なら、価格を求めたい不動産と類似する近隣の不動産も多いはずである。価格を求めたい不動産と比べて、立地の違い、築年や設備の違い等をある程度適切に価格に反映することができれば、求めた価格は信頼性が高いと言える。

また、中古の賃貸用不動産の価格を③収益還元法で求める場合、実際の運用成績を反映させることができる。収益、費用に関する資料は、売買が成立する前に入手可能であり、資料をもとに収益の額から費用の額を控除して純収益を求め、利回りで除すれば、収益価格を得ることができる。直近の運用成績の収益と費用であれば、来年も同様の水準となりやすいため、価格も自信を持って求めやすい。

信頼性が高く、自信の持てる価格が得られれば、投資が成功する可能性は上がるであろう。
(2) 新築の賃貸用不動産の価格検証では、想定事項が多い
新築の賃貸用不動産の価格も、①原価法、②取引事例比較法、③収益還元法の3つの手法で求めることができる。ただし、建物の完成前のことが多いために、中古の賃貸用不動産よりも想定事項が多い。

建築や購入前には、建設業者や仲介業者から、完成後の収支計画の参考となる収益と費用を予想した資料が提示されるはずである。また、新築でほとんどのテナントが入居済みである場合もあるだろう。しかし、前回の『はじめての不動産投資(2)』で述べたように、販売用の計画や資料は、かなり良いケースを想定していることが多く、必ずしも将来を保証するものではない。業者から得られる資料の内容を参考にしつつも、投資家自身で近隣の類似物件の状況等をきちんと調べて、「実現可能な将来計画であるか」を慎重に検証する必要がある。

まず、①の原価法による価格では、同じ建物をもう一度建築するための費用が建物価格となる。このとき、建築業者が提示する新築の見積書や請負契約書の建築費を適切な建物価格と判断するのではなく、まず、見積書や建築費の額が同程度の建物と比較して適正な水準かどうかについて検証が必要である。したがって、①の原価法による判断は初心者には難しく、業者と利害関係のない専門家のアドバイスが必要になるだろう。

また、新築の不動産の②取引事例比較法による価格は、価格を求めたい不動産によく似た不動産の取引について、きちんと検証する必要がある。具体的には、類似する不動産の建物価格の根拠が新築の見積書や建築費で、その額が高すぎないかを確認しなければならない。可能であれば、やはり専門家の意見を聞いたほうがよい。

さらに、新築の不動産は、建物が完成前か、完成後で賃貸が開始していても期間が短く、③収益還元法で用いる運用成績の資料がないか、十分ではない。従って、近隣の賃料相場や入居状況、同様なアパート、マンションの建築計画等を確認した上で、想定できる賃料や必要な費用を投資家自身が見積らなければならない(図表2)。

3. 新築の不動産の賃料水準は、築年が経過すると下落する場合がある

加えて、新築時に契約した賃料は、その水準の維持が難しい場合がある。新築は、エントランスや設備などが新しく、見栄えが良いため、建築当初は高めの賃料でも受け入れられやすい。一方で、新築ではなくなり、新築時の賃借人が退去した後に新しく賃借人を募集すると、新築時の賃料を下回る額でしか契約できないということが起こりうる(図表2)。そのため、前述の③収益還元法を用いる場合は新築時の賃料ではなく、それより多少低めの賃料で計算したほうが安全かもしれない。
図表2 新築の不動産の価格を検証する際の注意点
このように、新築の賃貸用不動産は、中古の賃貸用不動産よりも多くの検証と予測が必要になり、初心者には投資の難しい不動産である。いつか、投資家自身が、「賃料を維持できる物件の見極め」、「数年後の賃料も考慮した価格査定」、「賃料を下げない運用」などができれば、新築後の賃料下落のリスクは軽減するだろう。しかし、これらについて、初心者がいきなりできるようになるのは難しい。不動産の収支や価格を検証できるようになり、運用に慣れるまでは、勧誘されるがままに、安易に新築の不動産への投資をすることなどは避けたほうが良いのではないだろうか。

4. おわりに

新築の賃貸用不動産は、最近の土地の値上がりや建築費の高騰もあり、似たような物件の中では最高水準の賃料となり、価格も高く、より多くの投資額を必要とすることが多い。加えて、中古の賃貸用不動産より多くの想定事項があり、これらを見積もるための知識や能力を求められる。

一方で、新築の賃貸用不動産の建築や取得は容易で勧誘も多い。また、建物の見栄えも良く、オーナーになるという高揚感など、投資用として心をくすぐられる前向きな情報もあふれている。しかし、それらを鵜呑みにせず、本当に投資に見合った利益を得られるか、慎重に検証を重ねた上での判断が必要になるだろう。

次回は、初心者には難しい不動産の二つ目を取り上げたい。
 
 

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2021年06月30日「研究員の眼」)

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