2021年06月25日

中国経済:景気指標の総点検(2021年夏季号)-高成長の陰で静かに進む変化の兆し

三尾 幸吉郎

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1.中国経済の概況

(図表-1)COVID-19の新規確認症例 21年1-3月期の国内総生産(GDP)は実質で前年同期比18.3%増の高成長となった。昨年の同時期には、新型コロナ禍で大混乱に陥り、20年1-3月期の経済成長率は実質で前年同期比6.8%減と大きく落ち込んだ。しかし、その後は厳格な防疫管理を実施したことが奏功して、3月中旬には新規確認症例が多くて100人余りというところまで改善してきた1。その後も散発的な感染拡大はあったものの小振り留めることができたため(図表-1)、20年4-6月期の成長率は前年同期比3.2%増、7-9月期は同4.9%増、10-12月期は同6.5%増と順調に勢いを取り戻し、21年1-3月期には同18.3%増と統計を遡れる1992年以降で最大の伸びを示した(図表-2)。
なお、前四半期(20年10-12月期)と比べた実質成長率は前期比0.6%増(季節調整後)、前期比年率では2.4%増(推定2)となった。ここもとの推移を見ると、新型コロナ禍で経済が混乱した20年1-3月期に前期比年率32.3%減(推定)に落ち込んだあと、4-6月期には同46.9%増(推定)に急反発し、その後も7-9月が同13.0%増(推定)、10-12月期が同13.4%増(推定)と高水準の成長を続けた。しかし、21年1-3月期には河北省などでやや大きいクラスラー(感染者集団)が発生したことなどから同2.4%増(推定)へと経済成長の勢いが鈍化することとなった(図表-2)。

一方、消費者物価(CPI)はいまのところ落ち着いており、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している(図表-3)。但し、5月の工業生産者出荷価格(PPI)が前年同月比9.0%上昇するなどインフレ懸念が浮上してきている。いまのところ原油など資源価格の上昇が主因で、消費財の上昇ピッチは緩やかだが、消費者物価に波及する恐れもあるだけに、注視する必要がある。
(図表-2)中国の国内総生産(GDP)/(図表-3)中国の消費者物価(品目別)
 
1 新型コロナウイルス感染症の経緯に関しては、「中国におけるコロナ禍との闘いを振り返って~今後の政策運営にどう影響するのか?」(ニッセイ基礎研レポート 2020-10-30)で詳細に分析している。
2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

【供給面の3指標】
鉱工業生産(実質付加価値ベース)の動きを見ると(図表-4)、今年1-2月期には前年同期に新型コロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比35.1%増と極めて高い伸びを示した。その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化し、5月には前年同月比8.8%増となった。但し、ハイテク製造業は同17.5%増と全体より高い伸びを示しており、4月の同12.7%増を上回るなど堅調である。また、5月の自動車生産は204万台(前年同月比6.7%減)と落ち込んだ。新型コロナ前の2019年5月(185万台)を上回る生産水準であるため、世界的半導体不足の影響は限定的と見られるものの、今後の動きは要注意である(図表-5)。なお、前年同期と比べた伸びは反動増の色彩が強いため前月比を確認しておくと、2月は前月比年率8.6%増(推定)、3月は同7.4%増(推定)、4月は同6.4%増(推定)、5月は同6.4%増(推定)と、伸びは高水準ながらも鈍化傾向にある。
(図表-4)鉱工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移/(図表-5)中国の自動車生産
一方、PMIの動きを見ると、製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)は(図表-6)、20年11月の52.1%を直近ピークに、新型コロナ禍が再発した21年2月には50.6%まで低下した。しかし、それも早々に底打ちし拡張収縮の境界(50%)を若干上回るレベルで推移している。他方、非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)は(図表-7)、新型コロナ禍が再発した今年2月には一時的に51.4%まで低下したものの、3月には56.3%へと急回復し、4月は54.9%、5月は55.2%と製造業PMIよりも高いレベルで推移している。
(図表-6)製造業PMI/(図表-7)非製造業PMI
【需要面の3指標】
個人消費の代表指標である小売売上高を見ると(図表-8)、今年1-2月期には前年同期に新型コロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比33.8%増と極めて高い伸びを示した。その後は反動増の効果が薄れるにつれて伸びが鈍化し、5月には前年同月比12.4%増となった。なお、前年同期比は反動増の色彩が強いため前月比を確認しておくと、河北省などで新型コロナ禍が再発した今年1月には前月比年率2.6%減(推定)と落ち込んだ。その後は一進一退ながらも5月には前月比年率10.2%増(推定)と高い伸びを示した(図表-9)。新型コロナ禍が再発しなければ消費は底堅いだろう。
(図表-8)小売売上高の推移/(図表-9)前月比年率(季節調整後、指定値)で見た消費と投資の推移
投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)を見ると、今年1-3月期には前年同期に新型コロナ禍で落ち込んだ反動で前年同期比25.6%増と極めて高い伸びを示した。その後は反動増の効果が薄れて伸びが鈍化し、4-5月期は同0.4%増に留まった。投資の内訳を見ると、製造業は前年同期比6.5%増(推定)、不動産開発投資は同7.5%増(推定)と4-5月期もプラスを維持した(図表-10)。但し、インフラ投資は同14.6%減(推定)とマイナスに転じており、財政金融政策の縮小が影響してきた可能性がある。なお、前月比を確認しておくと、今年に入り1月には前月比年率12.8%増(推定)、2月は同8.7%増(推定)、3月は同9.6%増(推定)、4月は同11.7%増(推定)と勢いよく増えてきたが、5月には同2.1%増(推定)と伸びが鈍化している(図表-9)。

他方、輸出(ドルベース)を見ると(図表-11)、今年1-2月期には反動増もあって前年同期比60.5%増と極めて高い伸びを示した。その後は若干伸びが鈍化したものの、5月も同27.9%増と高い伸びを維持している。パンデミックで世界的に防疫関連品(医療機器、マスクなど)やデジタル製品に対する需要が増えたことを背景に、「世界の工場」である中国が機能発揮し輸出を伸ばした。
(図表-10)固定資産投資(除く農家の投資)/(図表-11)輸出(ドルベース)の推移
【その他の4指標と景気の総括】
以上で概観した供給面3指標と需要面3指標に、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格、通貨供給量(M2)を加えた10指標に関して、それぞれ3ヵ月前と比べて上向きであれば“○”、下向きであれば“×”として一覧表にしたのが図表-12である。
(図表-12)景気評価総括表(〇×表)
需要面3指標の推移を見ると、消費の代表指標である小売売上高は、新型コロナ感染が広がると“×”、沈静化すると“〇”という展開が続いており、足元では広州市での感染拡大を受けて“×”に転じている。投資の代表指標である固定資産投資は、今年3月までは新型コロナ対策を背景に “〇”の多い展開だったが、4月以降2ヵ月連続で“×”となった。また、パンデミックが追い風となった輸出は、昨年4月以降13ヵ月連続で“○”となったが、5月には“×”に転じた。

供給面3指標の推移を見ると、鉱工業生産は3ヵ月連続で“×”となり減速傾向が続いている。但し、製造業PMIが5月に“〇”に転じるなど底打ちの兆しが見られるのに加えて、非製造業PMIが3ヵ月連続で“〇”となるなどサービス業には加速を示唆する兆候がでてきた。

その他の景気指標を見ると、通貨供給量(M2)は新型コロナ対策として打ち出された“疫情融資”(モラトリアム的な特別金融措置)の影響で昨年6月までは“〇”が続いていたが、7月以降は“×”が多くなってきた(図表-13)。また、電力消費量、道路貨物輸送量、工業生産者出荷価格を見ても、今年4月以降はやや“×”が目立ち始めている。

なお、電力消費量はほぼ全ての産業で高い伸びを示している(図表-14)。他方、貨物輸送量はコロナ前(2019年)のレベルをほぼ回復したものの、ヒトの動きは鈍く旅客輸送数のレベルは依然として低い(図表-15)。また、工業生産者出荷価格が上昇傾向を強めているが、その背景には原材料価格の高騰があり、今のところ消費財の上昇率は低位に留まっている(図表-16)。
(図表-13)通貨供給量(M2)と社会融資総量/(図表-14)電力消費量(業種別)
(図表-15)貨物輸送量と旅客輸送数/(図表-16)工業生産者出荷価格(PPI)

3.景気インデックスは低下傾向が続く

3.景気インデックスは低下傾向が続く

(図表-17)経済成長率と景気インデックス 最後に、鉱工業生産、サービス業生産、建築業PMIの3つを説明変数として選択し、実質成長率を推計した「景気インデックス」の推移を確認しておこう。中国に新型コロナ禍が襲来した昨年2月の「景気インデックス」は前年同月比12.4%減と大きく落ち込んだ。しかし、新型コロナ禍が峠を越えた4月には早くも同0.9%増とプラスに転じ、今年1月には前年同月に落ち込んだ反動で同20.9%増の高成長を記録することとなった。そして、足もとでは反動増の効果が薄れて、5月には同9.0%増まで低下することとなった(図表-17)。ここもと反動増の効果が薄れる段階に差し掛かっているため、今後も「景気インデックス」はさらに低下することになりそうだ。
 

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三尾 幸吉郎

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(2021年06月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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