2021年06月08日

バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.291]

経済研究部 上席研究員   三尾 幸吉郎

米中貿易摩擦 中国経済 などの記事に関心のあるあなたへ

btn-mag-b.png
基礎研 Report Head Lineではそんなあなたにおすすめのメルマガ配信中!
各種レポート配信をメールでお知らせするので読み逃しを防ぎます!

ご登録はこちら

twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

文字サイズ

米中両国は今年3月、バイデン米政権が誕生して初となる外交トップによる直接会談を開催した。世界が注目する中で開かれたこの会談は、冒頭から双方が相手の発言に反論を繰り広げる異例の展開となり、トランプ時代に悪化した米中関係は、バイデン政権になっても改善することは無く、むしろ深刻化する恐れがあるとのメッセージを世界に向けて発信することとなった。

トランプ政権時代の米中対立は、経済面(貿易不均衡、知財保護、技術移転の強要、産業補助金など)と安全保障面(サイバー攻撃、ファーウェイ問題など)に重点がおかれていた。世界第1位の経済大国である米国と、その地位を脅かし始めた中国による1対1の対立構造だった。米国第一主義を掲げたトランプ時代には欧州とも対立していたため、米国が同盟国・友好国を巻き込んで中国を封じ込めるような動きは少なかった。これを受けて中国も、米国だけを敵視することとなり、欧州や日本とはむしろ関係改善に注力し、ロシアやイランなど反米勢力と協調して対抗するような姿勢は慎んでいた。したがって、世界が米国を盟主とする陣営と中国を盟主とする陣営に分断される恐れは殆んどなかった。しかし、バイデン政権は違うようだ。

特に人権を巡る問題で対立が激しさを増している。中国政府は3月24日に「2020年米国人権侵害報告*1」を発表し、米国における6つの人権問題を挙げて非難した。そして、ロシアやイランなどとともに内政不干渉の基本原則を掲げる「国連憲章を守る友好グループ」の発足に動き出すなど、反米勢力を結集して対抗する姿勢を見せ始めた。

一方、米国務省も3月30日に「2020年世界各国の人権状況に関する報告書*2」を発表し、「中国では、政府当局がイスラム教徒が多くを占めるウイグル人をジェノサイド(民族大量虐殺)したほか、ウイグル人や他の宗教・少数民族に対する拘禁、拷問、強制断種、迫害などの人道に対する罪を犯した」と非難した。そして、新彊ウイグル自治区の人権侵害に対しては、欧州連合(EU)、英国、カナダも米国に同調し、対中制裁(国に対してではなく関与した個人・団体に対して制裁した場合も含む)を発動し、米国は同盟国・友好国と協調し、中国に行動変容を迫り始めている。

なお、中国政府は新彊ウイグル自治区におけるジェノサイドや強制労働の存在を明確に否定しているが、報道の自由を厳しく制限している状況下、その言い分を鵜呑みにする訳にもいかない。他方、米国にも人権侵害を外交手段として使う悪い癖があり、「人権問題は中国とのあいだでは重要な問題だが、サウジアラビアとのあいだでは問題にされない*3」と指摘されるようにダブルスタンダードに陥る面がある。

以上のように、米国を盟主とする陣営と中国を盟主とする陣営に世界が分断される“米中新冷戦”の恐れは現実味を帯びてきているが、日本は今どう行動すべきなのだろうか。もし“米中新冷戦”に陥ることになれば、米国とは普遍的価値を共有し安全保障でも同盟関係にある日本にとって、「中国を盟主とする陣営に属する」という選択はなく、「米国を盟主とする陣営に属する」という選択をすることになるだろう。しかし、そうなれば中国との信頼関係は崩れ、中国経済と緊密に結び付く日本経済は大打撃を受けることになる。したがって、日本としては“米中新冷戦”になったらどうするかを考える前に、そうならないよう全力をあげて“橋渡し役”を果たすべきだろう。

しかも、その重責を担える国は、世界第3位の経済大国であり、米中両国の良い点・悪い点を知り尽くした日本以外には見当たらない。現在は親密な関係にある日米両国だが、過去に日本は米国による“ジャパン・バッシング”に打ちのめされた苦い経験*4を持つ。また、現在は海洋進出や人権を巡る問題などで対立することの多い日中両国だが、歴史を振り返れば長らく一衣帯水の関係にあり、中国が改革開放(78年~)を始めた際にも日本は率先してこれに協力したという実績を持つ。日本の外交に世界各国が期待している。
 
*1 国务院新闻办公室网站、2021-03-24、「2020 年美国侵犯人权报告」より抜粋
*2 BUREAU OF DEMOCRACY, HUMAN RIGHTS, AND LABOR、MARCH 30, 2021「2020 Country Reports on Human Rights Practices」より抜粋
*3 サミュエル・ハンチントン著、鈴木主税訳(1998 年)、『文明の衝突』集英社より
*4 日本の急速な経済大国化を背景に,1985年頃から米国を中心に高まった日本非難。1988年にはスーパー301条の積極的発動を含む新通商政策を掲げた。1985年5月には対日非難決議が上下両院で可決された。1987年には東芝機械ココム違反事件によって不公正な日本という見方が定着し,ジャパン・バッシングはピークに達した(ブリタニカ国際大百科事典より抜粋)
twitter Facebook このエントリーをはてなブックマークに追加 Pocketで後で読む

経済研究部   上席研究員

三尾 幸吉郎 (みお こうきちろう)

研究・専門分野
中国経済

(2021年06月08日「基礎研マンスリー」)

アクセスランキング

レポート紹介

【バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

バイデン政権下で激化する米中対立と日本の果たすべき役割のレポート Topへ