- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 経済予測・経済見通し >
- 東南アジア経済の見通し~年内は感染再拡大で景気が足踏み、来年はワクチンの普及加速で景気回復軌道に乗る
2021年06月21日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1.東南アジア経済の概況と見通し

東南アジア5カ国の経済は昨年、新型コロナウイルス感染拡大と各国の活動制限措置の影響が直撃した4-6月期に急速に悪化し、ベトナムを除く4カ国(マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)がマイナス成長に転落した(図表1)。その後、各国が段階的に制限措置を緩和して経済再開を進めると共に、財政・金融政策による支援を続けたことから、年後半から回復に転じた。2021年1-3月期も景気の持ち直しが続いたが、一部の国では感染再拡大によって活動制限が強化されたことから回復ペースは緩やかなものとなった。
1-3月期の実質GDP成長率(前年同期比)は、感染第3波の影響が懸念されたべトナムが同+4.5%のプラス成長を続ける一方、マレーシアが同▲4.8%、タイが同▲2.4%、インドネシアが同▲1.1%、フィリピンが同▲2.0%となり、ベトナムを除く4カ国は活動制限措置の長期化によりマイナス成長から脱却できない状況が続いている。
1-3月期の各国の実質GDPの内訳をみると、総じて外需は世界各国の厳しい出入国規制によってインバウンド需要が消失してサービス輸出が低迷しているものの、海外経済の回復が続くなかでデジタル化関連製品や一次産品の出荷が増加し、財貨輸出を中心に持ち直した。また内需は、各国政府が感染防止と経済活動のバランスをとった活動制限措置を導入しているため、民間消費と総固定資本形成は持ち直してきている。しかし、1-3月期は各国で感染が再拡大して活動制限が強化される動きがあり、消費の回復は鈍かった。一方、総固定資本形成は輸出拡大による企業マインドの回復や公共投資の拡大により消費と比べて持ち直しは順調だった。
足元の感染動向を見ると、これまでウイルスの封じ込めに成功してきたタイとベトナムが感染ペースが加速しており、またインドネシアとフィリピン、マレーシアの3カ国は感染の波を繰り返している(図表2)。
まず今年4月はタイで感染第3波、ベトナムで第4波が発生しており、それぞれ過去最大の新規感染者数を記録、両国政府は感染対策を厳格化しているが、昨年のようにウイルスを封じ込めることは難しくなっている。なお、5月末にベトナム国内でデルタ型(インド型)とアルファ型(英国型)の変異株が合わさった新たな変異株が発見されたと報じられたが、その後ベトナム政府は新種の変異株の発見を否定しており、現在のところデルタ型に続く感染力の強い変異株は確認されていないようだ。
またインドネシアは今年2月上旬に小規模地域内での感染状況に応じた行動規制を導入した後、1日当たりの感染者数が5,000人前後で一進一退で推移していたが、5月中旬のイスラム教の断食明け大祭以降に再び感染が拡大している。3月に感染第2波が発生したフィリピンはマニラ首都圏と周辺4州で実施された厳格な外出・移動制限措置によって下げ止まり、増加に転じる気配があるなど感染再拡大の懸念が出ている。そしてマレーシアは4月に感染第3波が到来、インドネシアと同様に5月中旬の断食明け大祭の時期を警戒して10日に厳格な活動制限令を実施したものの、感染拡大が続いたため、6月から全国で生活に不可欠な業種を除いて活動を停止する都市封鎖に踏み切り、漸く感染状況が改善に転じることとなった。
まず今年4月はタイで感染第3波、ベトナムで第4波が発生しており、それぞれ過去最大の新規感染者数を記録、両国政府は感染対策を厳格化しているが、昨年のようにウイルスを封じ込めることは難しくなっている。なお、5月末にベトナム国内でデルタ型(インド型)とアルファ型(英国型)の変異株が合わさった新たな変異株が発見されたと報じられたが、その後ベトナム政府は新種の変異株の発見を否定しており、現在のところデルタ型に続く感染力の強い変異株は確認されていないようだ。
またインドネシアは今年2月上旬に小規模地域内での感染状況に応じた行動規制を導入した後、1日当たりの感染者数が5,000人前後で一進一退で推移していたが、5月中旬のイスラム教の断食明け大祭以降に再び感染が拡大している。3月に感染第2波が発生したフィリピンはマニラ首都圏と周辺4州で実施された厳格な外出・移動制限措置によって下げ止まり、増加に転じる気配があるなど感染再拡大の懸念が出ている。そしてマレーシアは4月に感染第3波が到来、インドネシアと同様に5月中旬の断食明け大祭の時期を警戒して10日に厳格な活動制限令を実施したものの、感染拡大が続いたため、6月から全国で生活に不可欠な業種を除いて活動を停止する都市封鎖に踏み切り、漸く感染状況が改善に転じることとなった。

東南アジア5カ国の消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は昨春の新型コロナ感染拡大に伴う活動制限措置やエネルギー価格の下落を受けて低下した後、活動制限措置の影響でデフレ圧力が続き、年内は低水準で推移した(図表4)。そして、足元では国際商品価格の上昇や前年に落ち込んだ反動増により物価上昇圧力が強まっている。
国別にみると、まずマレーシアとタイ、ベトナムは前年急低下した反動により、それぞれ3~4月に急上昇している。フィリピンは昨年の大型台風による作物被害やアフリカ豚熱の影響により、今年2月にかけて食品価格を中心に上昇すると、前年比+4%を上回る高めの伸びが続いている。一方、インドネシアは5月が前年比+1.7%となり、コロナ禍の需要の落ち込みを反映して停滞している。
先行きのインフレ率は、短期的には前年の落ち込みからの反動増や国際商品市況の上昇がインフレ圧力となるが、その後は感染再拡大による需給悪化が物価の押し下げ圧力となるだろう。来年以降はワクチン普及による経済正常化が進展して、インフレ率が再び上向くと予想する。

東南アジア5カ国の金融政策は昨年、新型コロナの世界的な感染拡大の影響が直撃すると、段階的な利下げを実施、その後も緩和局面が続いている(図表5)。
実際、各国中銀が実施した昨年累計の利下げ幅をみると、マレーシアが1.25%、タイが0.75%、インドネシアが1.25%、フィリピンが2.00%、ベトナムが2.00%と、積極的な金融緩和を実施してきたことがわかる。そして、今年に入ってからも各国中銀の政策スタンスに大きな変化はなく、インドネシア中銀が2月に0.25%の利下げを実施すると共に、住宅と自動車のローン規制を緩和するなど、感染再拡大に伴う内需回復の遅れを受けて追加的な金融緩和を実施する国もある。
金融政策の先行きは、当面インフレ率の持続的な上昇が見込みにくく、コロナ禍でダメージを受けた経済の回復を後押しするため、年内は各国の政策金利が据え置かれると予想する。しかし、来年以降はワクチン接種が加速して需要面から物価上昇圧力が働くことや米国の量的緩和の買い入れペース縮小によって新興国通貨に下落圧力が働くなかで、幾つかの中銀は利上げを実施すると予想する。
(経済見通し:当面は感染再拡大で景気足踏みするも、ワクチン接種が加速して次第に回復)
東南アジア5カ国の経済は、感染状況とワクチン接種のスピードに左右される展開が続きそうだ。当面は感染再拡大によって景気回復が足踏みすることとなり、その後も感染状況をにらみつつ、活動制限措置の緩和と強化を繰り返すため、不安定な景気動向が続くだろうが、今後各国でワクチン接種が加速すると国内の感染状況は次第に落ち着きを取り戻し、経済正常化が進むなかで景気回復が軌道に乗ると予想する。もっとも当面はソーシャルディスタンスの確保などの感染防止策が維持され、対面型サービス消費の低迷が続くほか、コロナ禍で疲弊した経済の回復に時間がかかるため、回復ペースは緩やかなものとなりそうだ。
外需は、世界的にワクチン接種が進むなかで財消費が増加して輸出の追い風となるだろう。当面は世界に先行して経済回復が進む中国と米国向けの輸出拡大が続いた後、ワクチン接種が進む欧州向けが増加、そして来年は域内を含む新興国向けの輸出が回復するとみられる。一方、サービス輸出は国内外でワクチン接種が進むことによって国内の一部観光地で外国人観光客の受け入れが再開されるだろうが、変異株に対するワクチン効果が不透明なだけに回復には時間がかかり、低迷が長引く可能性が高い。
東南アジア5カ国の経済は、感染状況とワクチン接種のスピードに左右される展開が続きそうだ。当面は感染再拡大によって景気回復が足踏みすることとなり、その後も感染状況をにらみつつ、活動制限措置の緩和と強化を繰り返すため、不安定な景気動向が続くだろうが、今後各国でワクチン接種が加速すると国内の感染状況は次第に落ち着きを取り戻し、経済正常化が進むなかで景気回復が軌道に乗ると予想する。もっとも当面はソーシャルディスタンスの確保などの感染防止策が維持され、対面型サービス消費の低迷が続くほか、コロナ禍で疲弊した経済の回復に時間がかかるため、回復ペースは緩やかなものとなりそうだ。
外需は、世界的にワクチン接種が進むなかで財消費が増加して輸出の追い風となるだろう。当面は世界に先行して経済回復が進む中国と米国向けの輸出拡大が続いた後、ワクチン接種が進む欧州向けが増加、そして来年は域内を含む新興国向けの輸出が回復するとみられる。一方、サービス輸出は国内外でワクチン接種が進むことによって国内の一部観光地で外国人観光客の受け入れが再開されるだろうが、変異株に対するワクチン効果が不透明なだけに回復には時間がかかり、低迷が長引く可能性が高い。

21年は景気の回復ペースが鈍るだろうが、前年の大幅な落ち込みからの反動増により各国の実質GDP成長率は大きく上昇してプラス成長に復帰すると予想する(図表6)。22年も堅調な伸びとなるだろう。
(2021年06月21日「Weekly エコノミスト・レター」)
このレポートの関連カテゴリ

03-3512-1780
経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/16 | インド消費者物価(25年3月)~3月のCPI上昇率は+3.3%、約6年ぶりの低水準に | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/04/08 | ベトナム経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比6.93%増~順調なスタート切るも、トランプ関税ショックに直面 | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/21 | 東南アジア経済の見通し~景気は堅調維持、米通商政策が下振れリスクに | 斉藤 誠 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/13 | インド消費者物価(25年2月)~2月のCPI上昇率は半年ぶりの4%割れ | 斉藤 誠 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年05月01日
日本を米国車が走りまわる日-掃除機は「でかくてがさつ」から脱却- -
2025年05月01日
米個人所得・消費支出(25年3月)-個人消費(前月比)が上振れする一方、PCE価格指数(前月比)は総合、コアともに横這い -
2025年05月01日
米GDP(25年1-3月期)-前期比年率▲0.3%と22年1-3月期以来のマイナス、市場予想も下回る -
2025年05月01日
ユーロ圏GDP(2025年1-3月期)-前期比0.4%に加速 -
2025年04月30日
2025年1-3月期の実質GDP~前期比▲0.2%(年率▲0.9%)を予測~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2025年04月02日
News Release
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
【東南アジア経済の見通し~年内は感染再拡大で景気が足踏み、来年はワクチンの普及加速で景気回復軌道に乗る】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
東南アジア経済の見通し~年内は感染再拡大で景気が足踏み、来年はワクチンの普及加速で景気回復軌道に乗るのレポート Topへ