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「仙台オフィス市場」の現況と見通し(2021年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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(1) 仙台都心部で進む再開発
仙台市では、老朽化したビル等の建て替えによる高機能オフィスの整備と、企業誘致の促進を目指す「せんだい都心再構築プロジェクト」が2019年7月より始動した。具体的な施策として、「仙台市都心部建替え促進助成金制度の創設」や「高機能オフィスの整備に着目した容積率の緩和」、「仙台市市街地再開発事業補助金制度の拡充」等、が講じられている。
前述の施策は「都市再生緊急整備地域5」を対象とするが、2020年9月に対象区域を約79haから約186haへと約2倍に拡大した(図表-19)。また、「都市再生緊急整備地域」の拡大と併せて、仙台駅周辺が、東北地方では初となる「特定都市再生緊急整備地域6」に指定された。
仙台市は、同プロジェクトの助成制度を活用した第一号案件として、「(仮称)NTT仙台中央ビル」の開発を指定した。2017年に閉鎖した「仙台中央ビル」を、19階建てのオフィスビル(延床面積約4万m2)に建替える計画で2023年に竣工予定である7。
ヨドバシホールディングスは、「特定都市再生緊急整備地域」の区域内のJR仙台駅東口で、12階建ての複合ビル(延床面積約7.7万m2)を開発し、2023年の開業予定を発表した8。
また、仙台市はJR仙台駅西口の青葉通の一部区間を、屋外広場に整備することを検討している。この屋外広場の整備は、青葉通沿道の「GSビル跡地」や「旧さくら野百貨店仙台店」の再開発と連動して行う計画である9。
「GSビル跡地」では、隣接する商業施設「EDEN(エデン)」との一体的な再開発が検討されている。ただし、「EDEN」を運営するオリックスの関連会社は、入居テナントとの契約期限を2020年1月末から2年間延長していることから、本格的な再開発は2022年以降となる見通しである10。また、「旧さくら野百貨店仙台店」跡地については、「ドン・キホーテ」などを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが開発を検討している。オフィスビルとホテルの計2棟を建て、それぞれの低層階を商業施設でつなげる計画で、総延床面積は約11万m2に達する予定である。着工は2024年度、竣工は2027年度を目指すとのことである11。
仙台市は、2020年10月に「せんだい都心再構築プロジェクト」に関して、第2弾の施策を公表した。環境に最大限配慮した建築物(グリーンビルディング)の整備を誘導するほか、テナントの移転に支援制度を創設する12。こうした施策の拡充に伴い、仙台中心部での再開発が更に進展する可能性がある。
5 都市再生特別措置法に基づき、緊急かつ重点的に市街地の整備を推進すべき地域として国が指定する地域。税制・金融支援や、土地利用規制を緩和する都市計画の提案などの特例を受けることができる。
6 「都市再生緊急整備地域」のうち、緊急かつ重点的に市街地の整備を推進することが都市の国際競争力の強化を図る上で特に有効な地域として国が指定する地域。都市再生緊急整備地域の特例に加え、財政支援などの支援を受けることができる。
7 日本経済新聞「老朽化ビル、建て替え急ぐ、仙台市、企業誘致へ助成拡充、雇用創出や地方移転促進」(2020年11月7日)
8 日本経済新聞 「仙台駅東口の複合ビル、23年春開業、ヨドバシHD。」(2021年1月27日)
9 河北新報「「青葉通広場化」検討着手/仙台・あす協議会発足」(2021年5月31日)
10 河北新報「仙台駅前「EDEN」テナント契約を2年延長 GSビル跡地再開発は22年以降か」(2019年8月3日)
11 日本経済新聞 「東北経済特集―東北、力強く前へ、仙台駅前、再開発進む。」(2021年12月24日)
12 日本経済新聞 「仙台市再開発、環境配慮ビルの整備促進、地方移転需要ねらう。」(2020年10月14日)
仙台市におけるオフィスの新規供給量は、2013年から2019年にかけて、年間3千坪を上回ることはなく、低水準の供給が続いた。2020年は、「仙台花京院テラス」や「仙台宮城野ビル」、「新仙台ビルディング」が竣工し、新規供給面積は8年ぶりに3千坪を上回った(図表-21)。ただし、総ストックに占める過去5年間の新規供給面積は1.6%と、全国主要都市の中で最も低い水準にある(図表-21)。
今後、仙台市では「せんだい都心再構築プロジェクト」を背景に、複数の大規模開発が進行中で、2021 年と2023年に、年間6千坪を超える新規供給が予定されている。(図表-20)。ただし、今後3年間(2021年~2023年)の新規供給量が総ストックに占める割合は2.2%で、東京都心5区(4.7%)の半分以下に留まる見通しである(図表-22)。
前述の新規供給見通しや経済予測 、オフィスワーカー数の見通し等を前提に、2025年までの仙台のオフィス賃料を予測した(図表-23)。
仙台市ではコロナ禍が「企業の経営環境」や「雇用環境」に与えたダメージは大きく、「在宅勤務」を採り入れた新たな働き方が情報通信業等を中心に定着しつつある。また、生産年齢人口は今後も減少基調で推移する見通しである。そのため、仙台市のオフィス需要は力強さに欠けることが予想される。
一方、「せんだい都心再構築プロジェクト」を背景に、複数の大規模開発が進行中であり、新規供給量は増加する見通しである。以上を鑑みると、仙台の空室率は上昇傾向で推移すると予測する。
仙台のオフィス成約賃料は、空室率の上昇に伴い、下落基調で推移する見通しである。2020 年の賃料を100 とした場合、2021 年の賃料は「98」に、2025 年は「96」へと下落すると予想する。
仙台市では、「せんだい都心再構築プロジェクト」に関して施策の拡充が進んでおり、仙台中心部での再開発が更に活発化する可能性がある。今後の仙台オフィス市場を展望する上では、コロナ禍に対する経済対策や企業支援等の状況とともに、官主導による中心部再開発の動向を注視する必要がある。
(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
(2021年06月18日「不動産投資レポート」)
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- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
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