2021年06月18日

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1. はじめに

仙台のオフィス市場は、景気悪化やテレワークの普及などを背景にオフィス需要が低迷するなか、昨年は8年ぶりに3千坪を超えるオフィスビルの新規供給があり、空室率が上昇している。成約賃料についても需給バランスの緩和に伴い弱含んでいる。本稿では、仙台のオフィスの現況を概観した上で、2025年までの賃料予測を行う。
 

2. 仙台オフィス市場の現況

2. 仙台オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市のオフィスの空室率は、2020 年4月の緊急事態宣言の発令以降、いずれの都市も上昇傾向で推移している。

三幸エステートによると、仙台市の空室率(2021年6月時点)は5.9%となり、前年同月比+1.3%上昇した(図表-1)。

空室率をビルの規模1別にみると、「大規模4.4%(前年比+0.6%)」、「大型6.2%(同+2.3%)」、「中型7.9%(同+1.5%)」、「小型9.2%(同+1.1%)」となり全ての規模で上昇に転じた(図表-2)。景気悪化やテレワーク普及などを受けて、オフィス床の解約や、事業拠点の縮小および一部閉鎖を行う企業が増えており、規模を問わず空室が増加している。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 仙台オフィスの規模別空室率
全国主要都市のオフィス成約賃料は、これまで空室率の低下を背景に上昇基調で推移していた。しかし、2020年下期は、景気悪化によるオフィス需要の縮小に伴い、空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。仙台市の2020年下期の成約賃料は、前期比▲3.0%、前年同期比▲1.2%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2020年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、仙台市を除く全ての都市で空室率が上昇した。しかし、賃料については上昇と下落で分かれる結果となった。仙台市は、空室率は前年と同水準であったが、賃料の方は前年比マイナスとなった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した仙台市の賃料サイクル2は、2010年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020 年下期は「空室率横ばい・賃料下落」となった(図表-5)。
図表-4 2020年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 仙台オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、仙台ビジネス地区では、総ストックを表す「賃貸可能面積」は、複数の大型ビルの竣工等に伴い、46.1万坪(2019年末)から46.4万坪(2020年末)へと+0.3万坪増加した。一方、テナントによる「賃貸面積」は、オフィス需要の縮小に伴い、44.2万坪(2019年末)から43.8万坪(2020年末)へと▲0.4万坪減少した。この結果、2020年末の仙台ビジネス地区の「空室面積」は2.6万坪(前年比+0.6万坪)となり、10年ぶりに増加した(図表-6)。
図表-6 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 仙台ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
2020年末時点で「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「駅前地区(35.9%)」で、次いで「一番町周辺地区(31.2%)」、「駅東地区(14.2%)」、「県庁・市役所周辺地区(13.2%)」の順となっている(図表-8)。

2020年は、新規供給のあった「駅前地区」(前年比+2.0千坪)と「一番町周辺地区」(同+0.5千坪)で賃貸可能面積が増加した(図表-9)。これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「駅東地区」(前年比+1.1千坪)で増加する一方、「駅前地区」(同▲2.8千坪)や「一番町周辺地区」(同▲1.2千坪)、「県庁・市役所周辺地区」(同▲0.7千坪)で減少した。この結果、空室面積は、仙台ビジネス地区全体で+6.3千坪の増加となった。
図表-8 仙台ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2020年)/図表-9 仙台ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2020年)
エリア別の空室率(2021年6月時点)を確認すると、「周辺オフィス地区」が9.4%(前年比▲0.9%)に低下する一方、「一番町周辺地区」が4.4%(同+1.2%)、「県庁・市役所周辺地区」が6.9%(前年比+1.4%)、「駅前地区」が7.0%(同+3.0%)、「駅東地区」が7.2%(同+1.3%)に上昇した(図表-10左図)。

募集賃料は、仙台駅に近い「駅前地区」(前年比+0.7%)や「駅東地区」(同+2.8%)が上昇基調にあるのに対して、「一番町周辺地区」(同▲1.2%)や「県庁・市役所周辺地区」(同▲0.4%)、「周辺オフィス地区」(同▲1.7%)は弱含みで推移しており、エリア間で格差がみてとれる(図表-10右図)。
図表-10 仙台ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 仙台オフィス市場の見通し

3. 仙台オフィス市場の見通し

3-1. オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、仙台市の転入超過数は11年連続でプラスとなり、2020 年の転入超過数は+2,990人となった。ただし、転入超過数は、2012年をピークに縮小傾向にある(図表-11)。

宮城県の就業者数は、2016 年以降4年連続で増加し、2019 年には122.5 万人に達した。しかし、2020 年の就業者は122.1 万人(前年比▲0.4万人)となり、僅かながら減少した(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 宮城県の就業者数
新型コロナウィルスの感染拡大は、労働市場に多大な影響を及ぼしている。以下では、仙台のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東北地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東北財務支局)は、2020年第2四半期に「▲39」と一気に悪化した。翌第3四半期はプラスに回復したものの、その後は再び悪化し、2021年第2四半期は「▲9.4」となった(図表-13)。景況感の悪化幅は、全国平均と比べて、やや大きい傾向がみられる。

「従業員数判断BSI4」(東北財務支局)は、人手不足を表わす「+22.0」(2020 年第1四半期)から「+5.3」(第2四半期)へ大幅に低下した。2021 年第2四半期は「+7.2」とやや上昇したものの、全国平均(+9.0)を下回っており、本格的な回復には至っていない(図表-14)。

また、仙台市経済局・仙台商工会議所「仙台市地域経済動向調査報告」によれば「新型コロナウィルス感染症の影響」に関して、「影響がある」(「現在出ている」または「今後影響が出る懸念がある」)と回答した事業所が約8割に達したほか、「実施した対応策」として、「従業員の雇用調整」との回答が22%を占めた。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
パーソル総合研究所の「新型コロナウィルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、宮城県におけるテレワーク実施率は拡大傾向にあり、2020 年11月調査では19%となった(図表-15)。

また、宮城県経済商工観光部雇用対策課「令和2年度 労働実態調査結果報告書」によれば、「テレワークの導入状況」について、「導入済み」との回答は24%で、オフィスワーカー比率の高い「情報通信業」では57%に達している(図表-16)。

仙台におけるテレワーク実施率は東京や全国平均と比べて低いものの、コロナ禍を経て、「在宅勤務」を導入する企業は増加しているようだ。今後とも「在宅勤務」と「オフィス勤務」を組み合わせた働き方が続くと予想され、オフィス需要への影響を注視する必要がある。
図表-15 従業員のテレワーク実施率/図表-16 宮城県 テレワーク導入率
総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」によれば、仙台市の生産年齢人口は、2015年以降減少が続いている(図表-17)。また、国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」によると、2025年の生産年齢人口は2015年比▲7.7%減少する見通しであり、他の地方主要都市と比較して、仙台市の減少率が大きい(図表-18)。

仙台市では、就業者数が昨年、僅かながら減少に転じた。また、生産年齢人口は今後も減少基調で推移する見通しである。さらに、コロナ禍が「雇用環境」に与えたダメージは全国平均と比べてやや大きく、「在宅勤務」の導入企業も増加している。以上のことを鑑みると、仙台市のオフィスワーカー数が大幅に増加する可能性は低いと考えられ、仙台のオフィス需要は強くないと言えそうだ。
図表-17 仙台市の生産年齢人口/図表-18 生産年齢人口の見通し(2015年から2025年の増減率)
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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